第100話 厄介ごとが……


「……それでハーベスタ国に一目散に逃げて来たと」

「そうそう。いやー、僕ってあまり支援貴族とかの地盤がないからさぁ。あの時点で国に残ってもねー」


 白竜城の玉座の間にて、並んだ玉座に座っているアミルダと俺にクアレール第三王子が俺達に笑いかけてくる。


 ……俺はいきなり王族側として、会見に参加させられていた。


 アミルダから言われたのだ。第三王子相手ならちょうどよい練習になるので、王配としての練習をして欲しいと。それでアミルダの隣に座っていると。


 そして第三王子だが、いきなり今日の朝に馬車で押しかけきたのだ。


 それで「クアレールから逃げて来た! とりあえず匿ってくれ!」と早馬で手紙が送られてきたのだ。


 ……どういうことだと困惑したが、詳細は直接口頭でしか話せないと手紙で記載されてあった。


 ようやく第三王子が来たので聞くことができたのだが……クアレール国の第一王子と第二王子の暗殺、確かに手紙では言えないわな……。


 こんな情報が周辺諸国に漏れては大ごとだ。


 迂闊に文にしたためて、届けようとした早馬が他国の手の者にでもやられたら困る。


 なにせ大国のクアレールの次期国王が殺されたとなれば、周辺諸国がどう動くか想像がつかない。


「第一王子と第二王子が殺されるとは。暗殺対策を怠っていたのか?」

「そんなわけがない。むしろ普段よりも警戒していたくらいだ。その上で殺されたんだよ、この意味は言わなくても分かるだろ?」

「そんな芸当が出来る者など限られる。ある程度の目ぼしはつくか」

「その通り。そしてこの状況で、僕らを殺して得のある国なことを考えると」

「……パプマ子飼いの暗殺者である陽炎の可能性が高いな」


 アミルダと第三王子は互いに小さく頷いた。


 俺はまったくわからないのでしたり顔をしておく。暗殺者の名前なんて知らん……。


 ただ魔法を使える暗殺者というのは、極めて厄介であるのは知っている。


 なにせ魔法を使いこなす暗殺者への対策は難しい。潜入技術や身体能力の高い者が、不意打ち初見殺しみたいな魔法をしてきたら防ぐのは困難だ。


 うちにもいるだろう、魔法を巧みに使って厳重な警備に挑む砂糖泥棒が。


「そういうわけでボクはとりあえず逃げて来たんだ。あのままクアレールにいても安全は保障されないし、誰が敵かもわからないからね。それとおそらく陽炎らしき人物と相対したけど、やはり魔法を使っていたよ」

「まったく面倒な……まさかそこまで優秀だとはな」


 アミルダは思わず眉をひそめる。


 古来より暗殺とは強力な戦略になり得た。それこそ織田信長(と嫡男の信忠)が本能寺の変で暗殺されたことで、織田家がバラバラに崩壊したくらいだし。


 秀吉がうまく権力を握って天下を統一したが、もし下手をこいていれば織田家以外の大名が逆転する未来だってあり得たはずだ。


 つまり優れた暗殺者はタイミング次第で、戦略兵器になり得るのである……。


 そんな戦略兵器になり得る者となれば、他国もその存在自体は知れ渡るものだ。 


 無論、その暗殺者本人が誰であるかなどはそうそう分からない。彼らの名称は周囲が勝手に名付けることも多い。


 ようは『パプマにはヤバイ暗殺者がいる。便宜上、陽炎というあだ名をつける』みたいな感じだ。


「それでね、僕はクアレール国に早めに戻るべきだと思うのだけど。このままだと第四皇子辺りが地盤を固めてしまうからねぇ。でもただ戻るのはちょっと無理だなー」

「……ハーベスタ国の援軍を連れて行きたいのだろう。そうすればお前の後ろには我らがいると知らしめることができる」

「話が早くて助かるよ。君も僕がクアレール国王になった方がよいだろ? 第四皇子はアーガやパプマ、ビーガンについてる可能性高いよ。必死になって僕を助けないと!」

「……はぁ。ようやくアーガ王国に攻勢をと思った矢先に……」


 アミルダは頭を手で押さえて嫌そうな顔をする。


 ……本当に最悪のタイミングだ。もうすぐアーガ王国に攻撃を行う予定だったのだ。


 なにせ今のアーガは経済も政治もズタボロで、まともに戦える状態ではない。


 ここで仕掛ければアーガはまともに兵を揃えられない。数で圧倒してなお惨敗する軍が寡兵しか用意できない好機……簡単に勝利して奴らの国土を削り取れるはずだったのに……。


「いや本当にすまない。ただ君もクアレールが混乱している状態で、背を向けて戦うのは無理だろう?」

「本当にな……貴様が生き残ったのが唯一の救いと言わざるを得ない。第四皇子が国を継いでいれば、ハーベスタ国に牙を剥いていたやもしれぬ」

「知れぬじゃなくてほぼ確定だよ。あいつ、王位継承のために裏で色々動いてたし。父上に冷遇されていた貴族を纏めた派閥作ってたからねぇ……父上が嫌う貴族をね」

「……義の調停者が嫌うのだから不義の者か」

「話早くて助かるよ」


 ……うっへぇ。第四皇子がゴミカスっぽいなぁ。


 そういやクアレール王の紹介でも、第三王子までの名前しか出なかったもんな。


 第四皇子は継承権が低いから話題にしなかったと思っていたが、純粋に嫌っていたからそもそも話しもしなかったのだろうか。


「ちなみに王位継承権はまだ残ってるのか?」

「もちろん。父上が死んで第一王子が継いでから、正式に破棄する予定だったからね。つまり神輿としては完璧さ☆」


 キメ顔でドヤ顔するクアレール第三王子。


 自分から神輿宣言するのか……本当に王っぽさが欠片もないなこの人。


 そんな彼は俺の方を愉快そうに見て来た。


「ところで……婚約おめでとう! 王配なんだって、いや羨ましいね! 僕も身分問わずに平民で結婚したい相手がいてさぁ! 出来れば正妻にしたいんだよね!」

「そ、そうなのか……」


 いきなり話を振られて驚いたがただの自分の話か。


 この男も身分違いの恋をしているとは……なんか少し意外だな。ただのチャラ男だと思ってたけど。


「その時は是非応援して欲しいんだけどいいよね?」

「え? まあいいけど……」


 まあ俺も身分違いの恋を成就したし、同じ立場の人間ならエールくらいは送ろう。


 そんな気持ちで軽く返したのだが、何故か隣にいるアミルダが頭を抱えた。


「……チャムライ、図ったな」

「いやいや? でも僕もなりたくない国王にならねばならないので、せめて少しばかりの恩恵は欲しいとね。大丈夫、恩には着るから!」


 ケラケラと笑うチャムライ、そしてそんな彼を射殺すように睨むアミルダ。


 よく分からずに首をかしげていると。


「今の返事はね。その平民が僕の正妻になるのを、ハーベスタ国を挙げて支援するということだよ」

「……えっ?」


 チャムライの言葉に思わず呆けてしまうが……よく考えたら俺の今の立場は王配じゃないか!?


 つまりはハーベスタ国の代表になり得る存在。そんな者が公式の場で迂闊に約束してしまったのか!?


「……リーズ、やってしまったものは仕方ない。手間だがどうとでもなることだから、今後は気を付けてくれればよい」

「す、すみません……」


 隣で責めるような視線をするアミルダ様に、謝っておくのが精いっぱいであった。


 ……王配になったのだからもっと気を付けないとダメらしい。


 やっぱり俺に権力者は向いてないな!?


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