第41話 独占売買権の一部没収
ベルガ商会の飼い犬共は全員捕縛された。
俺達の炊き出しを邪魔したばかりか、炊いた米を地面に捨てて踏み潰す所業は絶対に許さない。
後でアミルダ様に引き渡して厳正な処罰を下してもらおう。
「さあさあ! ベルガ商会はもう怖くないぞ! また作り直すのでたくさん食べていってくれ! それと四日以上飯を食べてない者はあっちに並んでくれ! おにぎりではなくて粥を渡す!」
死にそうなくらい飢えている者に固形物を食わせると、胃痙攣を起こしてそのままご臨終することがある。
戦国時代に鳥取の飢え殺しという籠城戦があった。
鳥取城の兵士たちが四か月ほど兵糧攻めされて人肉まで食らう地獄絵図だったのだが……ようやく城主が降伏して兵たちは食べ物にありつけた。
だが米を食べ始めた兵士がバタバタと倒れてそのまま死んだらしい。炊き出しで人を死なせてしまっては本末転倒だ。
そうして無料炊き出しが開始された。
大量のおにぎりを置いたテーブルの前に、大勢の人が並んで配布していく形だ。
その間にも周囲の鍋で米を炊きまくり、おにぎりを握りまくって補充しつつやっている。
また暴徒が現れたら困るので、護衛の兵たちには槍を持って警備をさせている。
「おお……ありがたや……!」
「パンじゃないがなんでもいい! 食べれりゃ何でも!」
「うめぇ! 柔らかくて!」
民衆たちはおにぎりを絶賛しながら食べまくっている。
この騒ぎに反応して更に大勢の人が集まり、おにぎり配布所は大盛況を見せていた。
まるで超有名処のライブ会場のような人口密度である。
「今日は無料ですが明日以降は有料の予定です! でもあまり高い値段にはしないので是非買いに来てください!」
エミリさんが必死に米を宣伝してくれている。
無料配布ならば飢えて困っている者はこぞって食べに来るだろうから、しばらくは飢え死する人はいなくなるはずだ。
思わずガッツポーズをしていると、兵士が大慌てで俺に駆け寄って来た。
「り、リーズ様! 大変です!」
「どうした? またベルガ商会がやって来たか?」
「違います! 海苔も米も全く足りません! 街中の民衆がここに押し寄せてきています!」
「……まじか」
大勢集まって来るだろうとは予想していた。だがタッサクのほぼ全住民が来る計算はしていないぞ!?
この街の人口は一万人くらいのはずだ。全員来たら流石に用意した米では足りない!?
急いで【クラフト】魔法で米を全力生産してかろうじて事なきを得たが……見積りが甘かったか……!
いくら渡しても人の列が短くならず、むしろ伸びていくという惨状の中でみんな必死に頑張った。
こうして地獄のような米騒動は終わりを告げたのだが……何度も並んでる者が大勢いたらしい。そりゃいくら渡しても人が減らないわけだ……。
今度やる機会があったらもう少し考えてやらないとな……無料で配ることを舐めていた。
そうして翌日からは普通のパンくらいの値段で、おにぎりの販売を始めたのだが……また先日と同じような人混みになっている。
「ベルガ商会のパンの十分の一以下の値段だ! 売ってる間に買っておかないと……!」
「この値段見たらベルガ商会でなんて商品買えねぇよ……!」
並んでいる民衆たちの声が聞こえてくる。
なるほど。タッサクの商店はここ以外全てでベルガ商会の息がかかっている。
つまりハイパーインフレの値段設定だ。民衆がここに集まるのは必然だったか!
「二週間分くらい買いだめするんだ! 最悪多少腐っても構わん!」
「やめろバカ! 最悪でも次の日には全部食え!」
お、恐ろしい考えをする奴もいるものだ。
ベルガ商会の独占売買権のせいで俺達はパンなどが取り扱えず、米やしか売れなかった。
なので民衆はほぼ米を食すことになる。
そうして米がタッサク街の主食になっていき、将来的には米どころになるのだがそれはまた別の話。
トウモロコシはどうしたかって? 可食部分が少なくてコスパが悪いんだよ!
これだけ人が来たら俺の魔力も足りない。少しでも効率重視しないと回らない!
……本当は色々な物売ろうと思ったのに、おにぎりだけでキャパオーバーしてしまった。
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タッサク城の玉座の間にて、アミルダがギーヴを呼び出していた。
いつものように護衛にバルバロッサが立ちつつ会談が行われている。
「貴殿の子飼いの者どもが我が軍に狼藉を働いたと聞いている。しかも私が名を与えたアミズ商会の商品を、何の権利もないのに地面にぶちまけたと。これは貴殿が反逆したということでよいか?」
「そ、それは……その者たちが勝手にやったのです……! 決して私は女王様に逆らうなど……!」
ギーヴは震えながらアミルダに頭を下げる。
ベルガ商会には他商会必壊マニュアルが存在していた。
まずは売買独占権を盾に相手の商品を踏みにじった上で、男は広場で公開処刑して女は煽情的な服装で市中を引き回す。
そうすることで商会に逆らう者をなくすと共に、女は高値で売れるという下衆な考えだ。
今回もベルガ商会子飼いの者がそのマニュアルに従ったのだが……この世界に存在しなかった米に対して彼らの独占売買権はなかった。
更に護衛はハーベスタ国の兵士――王軍にも襲い掛かっていたことになる。
もしリーズたちがベルガ商会の独占売買権を違反していれば、ギーヴたちの行動はこれでも正当化されていただろう。
だが違反していない。なのでベルガ商会は何の権利もないくせに、軍に対して武力を用いたとみなされる。
「そうか、ちなみにだが被害損額は金貨千枚ほどだ。襲って来た者たちは四十人ほどだが全員処刑にする。まさか文句はないな?」
「は、はい……!」
ギーヴは唇を噛みながら頷く。
子飼いの者たちはベルガ商会の処刑実行部隊だった。失えば今後の他所への妨害行為に支障が出かねない。
なにせこの部隊が処刑した人数はゆうに百を超える……ギーヴに忠誠も尽くしていてかなりの熟練揃いであった。そう簡単に代わりは用意できない。
そもそも商会が処刑実行部隊を持っているのがおかしいのだが。
彼らの存在自体がベルガ商会がどれだけ好き放題やってきたかの証明だ。
「だが貴殿が命令してなくとも、子飼いの者が私に弓を引いたのは事実。貴殿の売買独占権の一部をはく奪する。具体的には武器になる類のものだ、農具なども含む。異論はないな?」
「…………はい」
さしものギーヴと言えども、このままでは王に反逆を企てたと処罰されかねない。
それを否定するには武器関係の独占は諦めるしかなかった。
この状況で武器売買を独占すれば、反旗を翻したようなことをした上でまだ街の武器を独占するつもりなのかと。
全く反省の色を見せていないのと同じで、アミルダに対して二心ありと宣言しているに等しい。
謀反の疑いありと難癖をつけられかねない。
「ならば下がれ。今後は貴殿との付き合いも考えねばなるまいな」
「……お待ちください。私共はまだ食料関係などの独占売買権を持っています。ゆめお忘れなきよう」
「無論忘れていないとも、だが老婆心で助言をしよう。身に余る重荷は身を滅ぼすぞ? 捨てて身の丈に合わせればいかがかな?」
「はは。我がベルガ商会はどんな重荷とて持てますとも。女王陛下におかれましては、商人の力を甘く見て頂いては困りますな」
互いに言外に脅しをしつつ会談は終了し、ギーヴが出て行った後。
アミルダは玉座にもたれてため息をついた。
「これでベルガ商会の力は半減……いや四割減ほどか。ひとまずだいぶ削げはしたがまだ足りぬな」
「口惜しいですな! このまま潰せればよいものを!」
「そうはいかぬ。あくまで狙ったのは私ではなくアミズ商会だ。奴らが襲ったのも厳密には我が軍ではなく、アミズ商会に貸し与えた軍だ。私個人の暗殺を狙ったなどならともかく、流石にこれでおとり潰しまでは命じれぬ」
「おのれベルガ商会、今回はこの辺で勘弁してやるのである! だが次は確実に消し飛ばすのである!」
激高するバルバロッサに対して、アミルダは玉座に座りながら話を続ける。
「落ち着け、バルバロッサ。それと奴の子飼いは広場で処刑するので準備をせよ。奴らは今まで民衆を苦しめてきた上、国家に反逆した大罪人だ。許せば国が乱れる」
現代の考え方ならば四十人もの処刑はやり過ぎだと考える者もいるだろう。
だが功績には褒美を与えて罪人には必ず罰を与える、それがアミルダの信念。そしてそれはこの世界では間違っていない。
大罪人を処刑せずに許す国があれば、大悪党が「捕まっても殺されないのだから」と他の国から移住して来ることだってある。
罪を真っ当に処罰しなければ悪いことをした者勝ちで国は腐っていく。
個人が罪を憎まぬ聖人君主であることは美徳かもしれないが、国王がそれではよいとは言えないのだ。
それこそアーガ王国のアッシュのように、他人を買収して己の罪をもみ消すのを許す土壌が生まれてしまう。
ちなみに褒美の方でも厳密だ。なのでリーズが褒美を断って困っているのだがそれを張本人は知る由もない。
「ははっ。絞首刑でよろしいですか?」
「構わん、処刑は大々的にやれ。これを以て私とベルガ商会は蜜月の関係ではないとの宣言とする」
明朝の広場にてベルガ商会の処刑実行部隊は、ひとり残らず公開処刑された。
民衆はそれに対して歓喜すると共にアミルダに希望を見出した。
この王はベルガ商会を裁いてくれる正しきお方だと。
またこの処刑によってベルガ商会から寝返る者も出始めたのだった。
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塩は独占売買権に引っかかってる可能性があるので、塩にぎりからおにぎりに変えました。
(この世界は大半が岩塩で、こちらは海塩なので大丈夫なイメージでしたがややこしいので)
週刊総合ランキング56位に上がってました!
30位以内に入ってみたいのでフォローや☆、レビューなど頂けると嬉しいです!
伸びそうなら明日辺り一日二話投稿ワンチャン……!
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