閑話 エミリさん、虫歯


「は゛がい゛だい゛ですぅぅぅぅぅぅ!」


 夜分遅く。白竜城の側にある寝殿に与えられた私室で寝ていたら、エミリさんが悲鳴をあげてキャミソール姿で部屋に飛び込んできた!?


 ど、どうなっているんだ!? 夜襲か!? ここに砂糖はないぞ!?


「!? なんですか!? この部屋に菓子はもうありませんよ!?」

「ちがいます! 歯が……歯がい゛たいんでずぅぅぅ……」


 エミリさんは涙目になりながら、俺の方に近寄って助けを求めてくる。


 ……いや俺は歯医者じゃないんだけどなぁ。


 というか夜分の男の寝室に薄いキャミソール姿でやってくるって……絵面がかなりヤバイと思う。


 いやエミリさんと俺は婚約はしてるから、セーフと言えばセーフだけど……。


「……えーっと。どこが痛いんですか?」

「ここが痛いんですぅ゛……」


 エミリさんは口を大きく開く。すると歯の一部が赤色に発光している……痛い箇所を光らせているのだろう。


 ……うん、素人の俺じゃ見てもあんまりよくわからんな!


 まあでも診断するまでもなく、病状の名称など明らかではあるのだが。


「どうせ虫歯でしょうね」

「リーズさんすごいです! 医者の知識もあるんですね!」

「いや誰でもわかると思いますよ……」


 この人の普段の生活を鑑みれば、虫歯以外に何があると言うのだろうか……。


 いつも砂糖を求めて徘徊し、夜の闇に紛れて調理場から菓子をつまみ食いする悲しき甘党。


 むしろ今まで虫歯になってないことが奇跡ではなかろうか。


「おねがいじまずぅ! なおじてぐださいー!」


 エミリさんは泣きながら俺に抱き着いてきた!?


 ちょっと!? 今の貴女のヒラヒラの布一枚みたいな服装でそれはまずいですって!?


 か、身体すごく柔らかい……あ、胸が当たって……ちょっと待ってこれやばい理性が。


「……エミリ、貴様何をやっている」


 そんな盛り上がった場に冷や水をぶっかけるように、アミルダの冷たい言葉が聞こえて来た。


 いつの間にか供の者を引き連れて、俺の部屋に入って来ていたようだ。


 彼女も薄着ではあるが、普通に寝間着みたいなワンピーススカートを着ている。


「おばざま! は゛がい゛だい゛ですぅ!」

「自業自得だろう、とりあえず離れろ。医者を連れて来たから見てもらえ」


 アミルダ……様は後ろに連れているオバサンを顎でさした。


 医者なんてこの城にいたのか!? ポーション飲めば何でも治せるから、面倒見てもらったことなくて存在しらなかったぞ!?


 というかエミリさんの虫歯もポーションですぐに治癒できるはずなのだが。


 C級ポーションくらいで治るんじゃないかな。市販で買うと宝石くらいの価格の高級品だけど、俺なら無料で製造できるし。


「アミルダ様、ポーションで口をゆすげば治……何でもないです」


 とりあえずエミリさんにポーション飲ませようと提案しようとしたら、アミルダ様がすごい形相でにらみつけて来た。


「エミリ! お前はさっさとリーズから離れろ!」


 そして俺からエミリさんを引っぺがす……すごく柔らかかったのに。


 アミルダ様は更に供のオバサンに指示を出す。


「どうせ分かり切っているが一応診断しろ」

「どれどれ……虫歯ですね」

「さもありなん」

「虫歯ならなおじてくだざいぃ!!!!」


 虫歯が痛いのか更に悲鳴の威力が上がるエミリさん。


 だがアミルダ様は無慈悲に首を横に振った。


「ダメだ。リーズよ、ついでなので虫歯に効果的で、なるべく安価で造れるポーションを発明して欲しい。ちょうどよい実験体もここにいる」


 アミルダ様は冷酷な笑みを浮かべてエミリさんを見据えた。


 虫歯に痛がるエミリさんを実験体に!? あ、悪魔だ……紅の悪魔がここにいる……。


「菓子を貪るエミリが虫歯になるのはどうせ遅かれ早かれだったが、今後に我らが菓子を売れば裕福な者たちも虫歯になりかねない。その時に治療法が高価だと、菓子の購入に二の足を踏まれる恐れがある」

「な、なるほど……それでなるべく安価で治せる手段をと」

「そうだ。将来的には小金持ちの商人などにも売りつけたいからな。治療方法があまり高いと、大金持ちしかできなくて困る」

「な゛んでもいい゛から治してくだざいぃ!」


 エミリさん、とうとう身体全身が光で点滅し始めた。

 

 ……!? ま、待て!? 薄い服の下の肌が発光して裸体が透け……。


「リーズ見るな! お前はさっさとまともな服を着てこい!」

「叔母様痛いです!? 引っ張らないでえぇぇ!?」


 無理やり部屋から外に出されていくエミリさん……も、もう少しで見えそうだったのに……。


 しばらくするとアミルダ様と色違いの服を着たエミリさんが戻って来た。


「うう……叔母様の服キツイです……特に胸が」

「リーズ、二日くらいかけて安価な虫歯用の薬を発明しろ。その完成品をエミリの歯で実験しろ。それまで絶対に治すな!」

「叔母様ぁ!?」


 わ、わりと理不尽な気がするような……いやまあエミリさんは散々つまみ食いしてたので自業自得だが……。


 まあ流石に二日も放置は冗談だろう。アミルダ様の目もほら笑って……なくてわりと真剣な気がするが俺の勘違いだろう。


「では後は任せた。私はせめて二時間は寝る!」


 そう言い残すと勢いよく扉を閉めて出て行ったアミルダ様。


 ……二時間は寝るって、まさか今まで仕事してたんじゃないですよね? 今って深夜四時くらいなんですけど。


 しかし安価なポーションなんてどう造ろうか……俺が無料で製造できるから安い、というのではダメだろうし……。


「りぃずさんんん! 歯がい゛だい゛ですぅ……」


 エミリさんが更に輝きだして、部屋が日中のように明るくなっていく。


 さっきからちょくちょく酷い叫びになっているのは、痛みにも周期があるのだろうか。


 その光で歯をコーティングできれば虫歯にもなるまいに……もしくはレーザー治療とかで。


 うーーん…………歯によいポーションなんてなぁ。虫歯になったら普通は削るとか抜く治療だろうし……とりあえず歯によさそうな素材でも混ぜてみるか。


 近くの棒にかけていた上着のポケット――マジックボックスに手を突っ込み、トウモロコシの芯を取り出す。


 虫歯予防によいと言われているキシリトールは、トウモロコシの芯を原料としてつくられる。


 つまりこれを素材にすれば歯に効果的なポーションが生まれる……かもしれない。


 でもキシリトールって虫歯の予防に効くのであって、虫歯になってからは……まあいいや、ポーションだし何とかなれ。


 そう思いながらトウモロコシの芯を素材に混ぜて、D級相当のポーションの入った瓶を作成した。


 普通なら虫歯を治せる等級のポーションではないのだが……これで治るなら、普通より安価に造れるということだ。

 

「リーズさん! ください! お薬ください! 何でもします! いくらでも光りますから!」

「貴女いつも光ってるじゃないですか……はいどうぞ。口をゆすいでから吐いてください」

 

 流石に見るに堪えないのでさっさと瓶を渡すと、エミリさんはそれを受け取ってすぐに部屋を出て行った。


 そしてしばらくしてからすごくニコニコした顔で戻って来た。


「ありがとうございますリーズさん! 痛いの治りました!」

「おお、D級でも治るんですね。これなら並みのポーション使いでも造れますし、安価でいけますね」

「じゃあこれからも虫歯になっても平気ですね! 頼りにしてます!」

「頼りにしないでください。お菓子食べるの自重しましょう……太りますよ?」

「大丈夫です! 私、太ったことありませんから!」


 ……そのうち、痩せるポーションくださいとか言ってきそう。


 なお彼女は今後も全く太らなかった。おそらく無駄に使っている魔法でカロリーとか消費しているのだろう。



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そら(あれだけ夜に甘い物食べてたら)そう(虫歯になる)よ


ハーレム系についてのご意見ありがとうございます。

コメント見る限りハーレムの定義が二人以上か三人以上は、個人で意見が分かれるようです。

他にも世界観とかも影響ありそうですね。

例えば現代物なら二人はハーレムっぽいですし、貴族社会だと子孫残す必要があるのでハーレムか微妙になっていくみたいで。


銀座で社長がホステス二人侍らせてハーレムというのが、すごくしっくりきました。

逆に中世貴族が二人侍らせてたら……まあ割と普通かも? となるやも。

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