第98話 砂糖泥棒


「今夜こそ奴を捕縛するのだ! 絶対に逃がすな!」

「砂糖と塩をすり替えておく! 多少の時間稼ぎにはなるはずだ!」

「菓子は守りやすい位置に置け!」


 俺達は白竜城警備部隊、通称を白い牙。


 この美しき城を守るために日夜警備に励む特選部隊のはずだ。


 そんな俺達は白竜城の調理室にて防犯対策を固めていた。


「光対策として薄い黒布を用意したいのですが!」

「ダメだ! アミルダ様からアレ専用の対策は禁じられている! 他の侵入者にも使用可能な装備での対処が必須だ!」

「くっ! なんて厄介な!」


 俺達は存亡の危機に瀕していた。


 何故ならば……砂糖悪魔のつまみ食いをいつも防げていないからだ。


 馬鹿な話だと思うだろう、俺だってそうだ……だが冗談で済む話ではない。


 アレがいつもいつもいつも毎晩毎晩、調理室に忍び込んでくるのでアミルダ様に直訴した時のことだった。




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「アミルダ様! どうかエミリ様の毎晩の調理室への侵入を禁じてください! 毎晩、騒がされて大迷惑です!」


 エミリ様があまりにつまみ食いするので、俺は玉座の間にてアミルダ様に諫言をする。


 あの人への対処のせいで城の警備がいつも忙しいのだ! 本当に大迷惑以外の何者でもない!


 しかも無駄に器用で光って目くらましのかく乱したり、もしくは他の何かを光らせて目を奪った隙に本人は逃げ去ったり……。


 魔法をフル活用して盗みを行ってくるのでたちが悪すぎる! 全然捕まえられないのだ!


 貴族令嬢とは名ばかり! あれは盗賊令嬢だ絶対!


「ふむ……いつもエミリに菓子を盗られて逃げられていると」

「はい! ちゃんと叱ってください!」


 あの人のせいでどれだけ俺達が苦労しているか……!


 アミルダ様は俺の怒りの訴えに対して、訝し気な顔をする。


「それは問題だな」

「はい! エミリ様はいくら何でも……」

「違う、問題なのは貴様らだ」

「……は?」


 アミルダ様の言葉が理解できず、俺は思わず聞き返してしまう。


 だが彼女は俺をにらみつけて腕を組み始めた。


「お前たちは白竜城の護衛部隊でありながら、ただの貴族令嬢の一匹すら捕縛できないということだ。これがエミリだからくだらない話で済んでいるが、もし暗殺者が私を狙って忍び込んでいたらどうする?」

「え、いえあの……」

「しかも常に調理室に忍び込むと分かっているはずだ。その上で毎晩盗まれているのだぞ」


 俺はアミルダ様の言葉に反論できなかった。


 た、確かに……俺達は実質侵入を予告されている賊すら、捕縛できていないということに……。


「い、いやしかし。相手がエミリ様なので手加減を……」

「貴族令嬢相手だぞ? 手加減した程度で捕縛できないと?」

「い、いやあのその……」

「貴様らは自分達の失態を棚に上げている。エミリが毎晩侵入してきたところで、子供をあやすように止めるのが仕事のはずだ」

「で、ですがエミリ様は魔法の使い方も凄まじく! それに砂糖への執念を甘く見れないものが……」

「魔法を巧みに操る本物の暗殺者が侵入して、もし要人が殺されたとしても。相手が凄かったから仕方ないと言い訳するのか?」


 ひ、否定できない……。


 確かに相手は一介の貴族令嬢。城の警備である俺達ならば、あしらうように捕縛できねばダメだ。


 アミルダ様は俺を責めるようににらみつけてくる。


「このままエミリに好き放題されるようなら、人事も考えねばならぬな。暗殺者が侵入してきた時、それを食い止められる気配がない」

「お、お待ちください! 必ずや、必ずや今宵のエミリ様のつまみ食いは阻止してみせます!」

「なら励むのだな。貴様らの任務の都合上、そうそう何度もチャンスはないぞ」


 こうして俺達白竜城警備部隊は、背水の陣に追い込まれてしまった。





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 そうして夜、そろそろアミルダ様たちの晩餐が終わるころだ。


 つまり……アレの狩りが始まる時間!

 

「いいか! 俺達にもう失態は許されない! 何としてもアレの盗みを止められないともはや全員首だぞ!?」

「麻痺毒や剣の準備は万全です!」

「いざとなれば抱き着いても止めますよ! いいですよね!? エミリたんの柔らかい身体に触りたいなどという願望はありませぬ!」

「よし!」


 もはやエミリ様を捕らえなければ、俺達に未来はないのだ!


 覚悟してもらいますぞ! 今夜こそは絶対に捕縛してみせましょう!


 俺達は調理室の中で万全の準備を整えて警備していた。もちろん部屋の外にも見張りは何人も置いてある。


 ここまでしてつまみ食いを防げなければ、本当に俺達は無能扱いされてしまうぞ!?


「エミリ様が出たぞぉ! 今日こそ捕らえろ!」


 そんなことを考えていると、部屋の外にいる門番が叫びをあげる。


 とうとう来たか! 砂糖を狙う怪物め!


「「ぐ、ぐわぁあ!? め、目がぁぁぁぁ!?」」


 外から悲鳴が聞こえてくる。くそっ! やられたかっ!


 目くらましなんてエミリ様を直接見なければよい、など思う者も多いだろう。だがそれはもはや過去の話!


 あの人は砂糖を盗む執念で魔法を進化させている! 自分の身体だけではなく、少し離れたところに輝く光の玉を発生すら可能!


 つまり兵士の視線の先を眩しくして、目を奪うのだ恐ろしい!?


 そうしてガチャリと扉が開いて、真っ白の装束に包まれたエミリ様が現れる……!


 彼女は調理室を見回した後、机の上に置いてあるケーキに狙いをつけた。


「お菓子……もらい受けます! 光の帳をここに!」

「……っ! また消えたっ!」


 エミリ様の姿が服ごと掻き消えてしまう。


 これが一番厄介なのだ! なんか光を屈折? しているとかよく分からないが、とにかく姿を消してしまう恐るべき魔法!


 リーズ様が考案してエミリ様が身に着けたらしいが……あの野郎、本当に余計な事しやがって!


「ど、どこだっ! どこにいる!」

「みんなしゃべるな! 耳をすませて足音を!」

「てきとうに剣を振れば! みねうちならいいだろ!」


 くそっ! 兵たちの統率が取れない!


 あの透明になる魔法のせいで、いつも好き放題やられてしまうのだっ!


 見えない相手を捕縛なんてできるわけがないだろっ!


「ちっ! EBSだ! 何としても菓子を守れぇ!」


 エミリ様の狙いは間違いなく菓子! ならば……それを盗られないようにすればっ!


「はっ! 見よ、これが我らの透明対策だっ!」


 手袋をはめて準備していた兵士が、熱せられた小さな鉄の箱を手に取る。


 そして棚の中にあるケーキにその鉄の箱を被せた。


 いくらエミリ様が透明になれると言っても! 盗りたい対象に触れられなければ! 盗みなどできないだろう!


 これぞEBS(エミリブロックシールド)! 他の侵入者に対しても、狙われるであろう対象を保護する仕組み!


 エミリ様専用の対策はダメ、それは分かっている!


 だがこれは他の侵入者に対しても通用するからなっ! 例えば宝石を守る時でも、熱せられた鉄の箱を被せれば盗れる者などそうはおらん!


 すでに調理室にはこのケーキ以外に大した菓子は残っていない! これなら奪えまい!


「ええっ!? そんなのずるいですっ!?」


 すると部屋の端の方から悲鳴があがる。何もない空間だが……そこかっ!


「エミリ様はそこの部屋の端にいる! 捕縛せよっ!」

「「おおおおおお!」」


 透明な空間に向かって兵士たちが突っ込んでいく。


 するとエミリ様は景色から浮き上がるように姿を現し……マズイ!?


「ええい! 光よ!」

「「「「「ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」


 爆発的な光を発した! しかも白装束のせいか普段よりも眩しい!


 こ、このままでは逃げられ…………ダメだ、目が見えぬ!


 先ほどの悲鳴を聞くに他の兵士も同様だろう……。


 後で確認したが全員光を食らっていたようで、エミリ様に逃げられてしまった……。


 ……捕らえられなかったものはどうしようもない。致し方なくアミルダ様に報告すると。


「……菓子を守ったのは評価する、次は捕らえるのだ。お前には期待しておるのだ、父親であるバルバロッサに負けてはならぬ。期待しているぞ、ベルべ・ツァ・バベルダン」

「…………はっ! なんと、何としましてもっ……!」


 こうして俺達白竜城警備部隊と、エミリ様の争いは始まった。


 苦節三週間、ようやくエミリ様を召し捕えた時は泣きそうになった。


 だが彼女も執念溢れる傑物。すぐさま成長して、新たな手段でまた菓子を奪ってくる。


 なんか分身とか作り始めたのだが、その才能を他の方向に持って行って欲しい。


「出たぞ、必ず捕らえろ! 分身したら棒でつけ! 貫通すれば偽物だ! 貫通しなければダメージになる!」


 互いに切磋琢磨しながらいつもの争いが始まるのであった。



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次話から閑話に入ります。

(今話が閑話じゃない理由は、本編に関わる要素がいくつかあったので)


それとハーレム系について皆様から色々とコメント頂きまして、ありがとうございます。

それでちょっと気になったのですがハーレム系とは、ヒロインの数が何人以上で成り立つのでしょうか?


よろしければコメント頂けると嬉しいです!

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