第177話 ボラスス神
俺達は地下通路を走って進んでいく。
石壁で覆われていて、明かりは壁にかかった松明だけで薄暗かった。もちろんエミリフラッシュのおかげですごく明るい。
「て、敵だっ! みんな! ボラスス神のためにこの命を捧げ……!」
「そんなのに命を捧げるなであるっ!!!!」
「「「「ぎええええぇぇぇえっぇえ!?!?!?!」」」」
通路を待ち構えた兵士と接敵する前に、バルバロッサさんの青龍刀の風圧で敵が全部吹き飛んでいく。もはや戦いにすらならない。
「こっちです! 私が見た祭壇は!」
事前に潜入工作していてこの地下を知るエミリさんが、俺達の前に立って道案内してくれる。ちなみにこの人はこれでも王族であり、ハーベスタ国王位継承権第二位であった。
今さらだけどこの人に暗部やらせるのはダメなんじゃ……? でも光源としても暗部としても便利過ぎるんだよなぁ。
「命をかけろっ! 教皇様をお守りす……」
「邪魔なのであるっ!」
「「「「ぎやああああああ!?」」」」
まさに鎧袖一触。この狭い地下室では本来ならば、精々百人程度でしか戦えない。だがバルバロッサさんはひとりで万人力だ。つまり理不尽ここに極まれり。
しかも吹っ飛んでいった兵士たちは全員が息をしている。つまり加減すらしているのだから恐ろしい。
「バルバロッサさん、手加減されてるんですか? いつもなら敵は殺してるのに」
バルバロッサさんは俺のように甘くはない。彼は軍人として敵を蹂躙する時に情け容赦は一切しない。そしてその方が本来は正しいのだ、見逃した敵が味方を殺すのだから。
「うむ。主君ではないが、命を賭けて戦うのはあっぱれなのである。アーガ兵のように醜くはなし」
「確かにそうですね。アーガ兵とは比べ物にならない」
アーガ兵士は己の我欲のためだけに戦っていた。そして危なくなったらすぐに司令官を見捨ててトンズラだったからな。
ボラススの兵士のほうがよほどまともに見える。その分だけ士気が高くて本来なら厄介なのだが……。
「むんっ!」
「「「「「びええええええええぇぇぇぇぇ!?」」」」」
バルバロッサさんいたら関係ないからな……ミジンコの中で多少強かろうが、クジラに相対すれば一緒に飲まれるだけ。
こうして俺達は更に地下通路を進んでいき、妙な扉の前へとたどり着いた。頑丈そうな鋼鉄の扉だ、たぶん地下への入り口にあったのと同じタイプ。
ただし先ほどに比べて部屋が狭いので、大木を取り出しても満足に振るうことはできなさそうだ。
「この扉は呪文で開くんです」
「分かったのである! ふんっ!」
バルバロッサさんはポシェットから巨大ハンマーを取り出すと、鋼鉄の扉を一撃にてぶっ壊した。
「……オジサマ、それは呪文じゃないですよ?」
「開いたのだから一緒である! いざ教皇の首をとらん!」
中へと突入していくバルバロッサさん。そして俺達もそれに続く。
部屋の中は薄気味悪い祭壇だった。神像みたいなものが祀られていて……その側にいるのは……ボラスス教皇だった。隣には茫然と立っているアッシュがいる。
奴は神像に祈るのをやめるとこちらを睨んでくる。
「くくく……まさかここまで入って来るとは思いませんでした。ええ、本当にもう。私の用意した切り札たちをいともたやすく排除しおって!」
教皇は俺達に対して怒りを向けてくる。
ボラスス総本山が荒らされているのにキレているのだろうか。いやそれにしては言葉が変なような。
「殺す前に聞きましょう。我が切り札たるボラスス伝説の教祖たちを、どうやって蘇生させずに封じた!?」
「……? 何の話だ?」
「しらばっくれるな! 用意していた教祖たちが、我が蘇生魔法で蘇らなかったのだぞ!」
教皇は俺を犯人と決めつけて激怒咆哮してくるが、本当に心当たりがないぞ……?
アミルダが暗部を使ってコッソリと工作したのだろうか。ならば流石はアミルダだな。以前に偽手紙でモルティ国とアーガ王国を戦わせたのを思い出す。
「貴様らは我が怒りをかった! なればここで滅ぼしてくれよう!」
「それは吾輩のセリフである! 諸悪の根源、ここで滅してくれよう!」
バルバロッサさんは青龍刀を構えてボラスス教皇を威嚇する。こうなればもう奴に勝ち目はないはずだ。この人を止められる人間などそうはいない、というかたぶんいないと思う。
「ふふふふふふふ……! 我がボラスス最後の秘術を見せてやろう! 偉大なるボラスス神よ!」
「ふんっ!」
バルバロッサさんが青龍刀で横なぎに空を斬った。斬撃がボラスス教皇の胴を両断する!
奴は上半身と下半身に分かれて床へと転がる。その瞬間だった。
神像と祭壇が光り出して教皇の周囲の床に魔法陣が浮かび上がる……!?
「ふふふふふ! この時を待っていたのだ! 厄介な貴様らをここで一堂に屠れる時を! 見よ、ボラスス神が現界なされる! 我が最大の敵たる姿をお取り成さりて、この世界を滅ぼすがために……」
そう言い残すとボラスス教皇は力尽きた。
それと同時に不気味な神像が動き始めた。ゴキゴキと音を鳴らしながら姿を変えていき、そしてとある人間の姿になった。それは……。
「なっ!?」
「そ、そんな……」
「なんとっ!?」
我がハーベスタ国最大最強、天下無双の万人敵……バルバロッサさんの姿だった。
「くはははは! この秘術は私にとって最も恐ろしい敵の姿と力を取るのだ! 貴様らが最も頼りとする力に敗北するがいい! この私こそが世界を支配してくれよう!」
偽バルバロッサさんからボラスス教皇の声が聞こえるのだった。
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私の作品で初めてラスボスが巨人じゃないかも……。
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