第140話 回復ポーションの脅威


 俺達は主要メンバーが集まって、陣幕の中で緊急軍議を行っていた。


「全員揃ったな。アーガ王国が負傷兵をポーションで治癒していると情報が入った。敵軍は馬鹿みたいに突撃采配なのでこちらの被害は少ないが……このままではかなりの長期戦になりかねない」


 アミルダが神妙な顔で現状を告げてくる。


 アーガ軍もポーションで負傷兵を回復している。それは我が軍にとっては計算外のことだった。


 現状の戦い自体はこちらが有利なのは間違いない。アーガ軍は正面から突撃してくるばかりで、クロスボウ部隊の恰好の的。


 敵も弓矢を撃ってこそ来るが、我が軍の兵士は鎧を着こんでいるので致命傷は避けられる。


 対してこちらのクロスボウならば、当たり処次第では敵兵を即死させられる。


 死んだ兵士にはポーションを使えないので、我が軍とアーガ軍の被害差は広がっていく。


 つまり現状を維持すればハーベスタ軍は有利……とはならない。


「……このまま長期戦になると元ビーガンの土地で、蜂起による内乱が起こりかねない。出来れば早めに決着をつけたいのが本音だ」


 こちらにも不安要素がある。


 この戦にはハーベスタ軍のほぼ全兵力を投入しているがため、もし誰かが武装蜂起でもしたら対応できない。


 これがアーガ王国ならば話は別だ。どうせ国が荒れて滅茶苦茶なので、内乱起きても誤差となるのだろうが……いやそれはそれでヤバイけど。


「やはりここは吾輩が単騎にて敵を蹴散らすのである!」


 バルバロッサさんが吠える。


 実際この人を単騎突撃させればカタがつくのでは……?


「それについては懸念がある。陽炎とスイ、敵に魔法使いはどれくらいいる?」

「三百ほどいる。今日の戦では後方で何もせずに構えていたが」

「彼らは伝令があればいつでも動ける遊撃部隊となっていました。おそらくですが……」


 陽炎とスイちゃんは互いにアイコンタクトした後にうなずくと。


「「対バルバロッサ様専用魔法部隊かと」」 


 なんだそれは……三百人の魔法使いを用意したのは凄いが、それをバルバロッサさん専用に運用するとか……。


 今日はバルバロッサさんが後ろで控えていたから、そいつらの出番がなかったと……魔法使いの無駄遣いだなおい。


 しかしひとつ気になることがある。


「今回のアーガ軍を指揮しているのはボルボルだろ? あいつならそんな妙なこと考えずに全力で撃たせると思うが」


 というかそれをされたら、こちらには大きな被害が出ていた可能性もある。


 ……魔法使い温存が失策という点ではボルボル采配か?


「それは簡単だ。ボルボルはバルバロッサにぶん殴られて、ぶっ飛ばされたことがあるだろう。それを覚えていて怖がっている」

「ああ……」


 アミルダの言葉に思わずうなずいてしまう。


 自分の身を第一にするボルボルだ。バルバロッサさんに恐怖を抱いて、専用の魔法使い部隊を対策するのもやりかねない。


「合点はいったが……魔法使い三百くらいなら相手なら、バルバロッサさん無双できません?」


 俺はバルバロッサさんの方に視線を向ける。


 彼はもはや万人敵というか災害みたいなものだ。魔法使いが三百人いたとしても、少し足を止められる程度だと思うのだが。


「吾輩ならば魔法使い三百の魔法とて、打ち破ってやるのである!」


 バルバロッサさんは腕を組むと自信満々に叫ぶ。


 やはりそうだろうな……魔法使い三百人が必死に魔法を撃てば、彼をその場から動かさないことはできるだろう。


 だがそんなことをすれば魔力がすぐになくなる。少しの足止め程度しかできない。


 そしてバルバロッサさんならば剣を振るった風圧で、魔法自体を弾き飛ばせてしまう。


「……そうだな。敵が不気味故防衛させていたが、明日はバルバロッサを攻めに使ってみるか」


 アミルダは少し考え込んだ後に、やや歯切れ悪く告げて来た。


 こうして本日の軍議は終了して、翌日となった。


 俺達は本陣でバルバロッサさんの攻撃を見守っていた。


 アーガ軍の右翼方面に向けて、バルバロッサさんが馬に乗って単騎にて襲い掛かる!


「おおおおおおお! 我が名はバルバロッサ! 覚悟するのであるっ!」

「ひ、ひいいいいい!? 魔王だ! 魔王が出たぞぉぉぉ!?」

「早く伝令を!? 早く! 魔法使い部隊に早く!?」


 アーガ王国兵たちの必死の叫びが戦場に響いていく。


 ……あれたぶん伝令なくてもアーガ軍後方の魔法使いにも届くと思う。


 そうしてバルバロッサさんが敵の弓を弾きながら、アーガ軍と接敵する直前で。


「「「「「風よ! 我が剣となれ!」」」」」

「「「「「水の怒りよ、奴を飲み込め!」」」」」

「「「「「紅蓮の炎よ、龍となれ!」」」」」


 アーガ軍後方から一斉に魔法が放たれた。


 無数の小さな竜巻、鎌のような形をした水、龍の形をした炎がバルバロッサさんに襲い掛かっていく。


 ちなみに龍の炎はアミルダが発動する魔法よりもだいぶ小ぶりだ。比べると龍と蛇くらいの差はある。


 とはいえ何せ数が多い、おそらく百人ほどが一斉に撃ったな。それに並みの魔法使いが全魔力を振り絞って発動した魔法のオンパレードだ。


 全てを併せた威力は相当なものになるだろう。それこそ千の軍すら一撃で壊滅させかねない。


 ……だが相手が悪すぎる。


「我が武勇! 魔法にも負けるものではないっ! はあっ!」


 バルバロッサさん、全速力で走る馬から飛び降りて地面に着地する!


 そして青龍刀を振り回す! 生まれた風圧によって空気が歪み、大量の魔法は瞬時に消えて行く!


 やはりそこらの魔法使いが集まろうと、バルバロッサさんを足止めするくらいが限度なのだ!


「「「「「風よ! 我が剣となれ!」」」」」

「「「「「水の怒りよ、奴を飲み込め!」」」」」

「「「「「紅蓮の炎よ、龍となれ!」」」」」


 アーガ軍の魔法使い部隊は更に魔法を撃つ。今度もさっきと同じ規模なので、百人くらいが撃ったのだろう。


 バルバロッサさんは更に剣を振るって、先ほどと同じように魔法が掻き消える。


 すると最後の百人が更に魔法を繰り返すが、先ほどと同じようにあっさりと全て消えた。


 これでもう敵の魔法使いは全員魔力切れだ。後はバルバロッサさんに蹂躙されるだけ……。


「「「「「風よ! 我が剣となれ!」」」」」

「「「「「水の怒りよ、奴を飲み込め!」」」」」

「「「「「紅蓮の炎よ、龍となれ!」」」」」


 ……え? また魔法?


 魔力切れだと思ったのにまだ撃てるのか?


 バルバロッサさんは剣を振って全て吹き飛ばすが……。


 またまた魔法が飛んでくる……だと!? いやおかしいだろ!?


 とっくに魔力が切れているはずだ! あいつら全員が歴史に名を残す魔法使いほどの腕でもなければ!


 すると双眼鏡で遠くを覗いていたアミルダが、少し声を震わせながら呟いた。


「……信じられん。魔法使い部隊全員がポーションを飲んで、魔力を回復させている。あそこまで魔法使いの集中砲火を浴びては、流石のバルバロッサもなかなか前に進めん」

 

 そして今日はずっとこの光景が続き、バルバロッサさんは少しずつは前進したものの。


 敵軍はそれに合わせて後退していったので、彼は接敵できなかった。


 信じられない。三百人の魔力を一日ずっと回復させるだけの量のポーションを、用意するなんて……。


 いやまあその前に戦術兵器である魔法使い三百人相手に、全く引けを取らないバルバロッサさんがだいぶおかしいのだが……。


 おそらくあの魔法使い部隊の今日の魔法攻撃を通常の軍が受けていたら、十万人くらいの大軍でも壊滅してたぞ。


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