第84話
「今日の軽音部はカラオケかぁ」
昼の弁当を食べながらなんとなく真由美に話すと
「たしか2時からって言ってたから部室で軽く練習してからって事だよねきっと」
「たぶんねぇ。でオレの声がどうとかって言ってたけどなんだろうな」
「う~ん、あたしはケイの歌って大好きだから聞けるだけで嬉しいけどね」
あぁそこで不意打ちにぶっこんでくるとか、真由美もこういうとこが天然なんだよなぁ。顔が熱い。
「で、KKシーズンのメンバーも一緒ってことはKKシーズンの先輩の歌も聞けるんだよなきっと。すっげぇ楽しみ」
「うん、あたしも。ゴールデンウィークのミニライブ素敵だったし、楽しみ」
「「こんにちわぁ」」
「やぁこんにちわ。今日も暑いねぇ」
「内木戸先輩、本当に毎日ですね。成績は上位だって聞いてますけど。本当に平気なんですか?」
「平気平気、このくらいの精神的余裕がないと受験なんか乗り越えられないって。それに家に帰ったらガッチリ勉強するから平気さ」
「ガッチリってどのくらいやるんですか?」
「そうだな、夏休みだから朝はゆっくりめだが、9時には勉強を始めるな。で、うちの昼食が12時30分頃なので、途中15分程度の休憩を1度挟んでそこまでガッチリだな。で、昼食後に散歩を兼ねてここに来て、2時には帰宅。軽くシャワーを浴びて2時30分頃から15分程度の休憩を1回挟んで夕食の時間6時まで。そこから夕食と食休みを挟んで7時頃から10時まで連続。夜食と入浴で1時間ほど休憩して、途中に休憩を1度はさんで2時くらいまで。まぁ日によって多少は変わるが、基本的なスケジュールはこんなとこだな」
「すごいですね」
「うちの学校の3年ならだいたいこんなものだよ。ふたりも3年になれば分かるさ。これでも6時間は寝られるんだから余裕だよ。さすがに大昔のように4当5落とは言わないさ」
「4当5落?」
なんだそれ?と思っているところに
「ケイ君、真由美ちゃん、こんにちわぁ」
「「神無月先輩。こんにちわ」」
「で、内木戸先輩、その4当5落ってなんです?」
「うん、大昔の大学受験の勉強でね、1日の睡眠時間が4時間なら当る、つまり合格出来るけれど、5時間寝てしまうと落ちる。つまりそれほど勉強しないと大学に入れないって意味だね。昔は今より大学の数も少なかったしね。今とはかなり環境が違うのでそのままでは意味は無いね。ただし、勉強すればするほど合格へ近づくってのは受験における普遍の真理さ」
うん、まぁ分かるけど。先輩たちってすげぇなぁ。オレが受験するときにここまでストイックになれるかな。
「まぁ考え方はわかりますけどねぇ。でも今日は一緒にカラオケまで来てもらえるんですか?」
「もちろん言いだしっぺだしね。美穂、今日のメンバーは揃ってる?」
「もちろんですよ。KKシーズンフルメンバー集合です」
「うわ、すごい豪華なカラオケになりますねぇ」
あれ?なんか先輩方みんな微妙な顔
「はぁ無自覚だから仕方ないわね」
神無月先輩そんなかわいそうな子を見る目でみないで。泣いちゃいますよ。
寂しいから真由美を抱き寄せる。なでなで
「け、ケイ。いきなりどうしたの?嬉しいけど、不意打ちはダメ。心臓がやばいからぁ」
うん可愛い。癒される。
「とりあえず、カラオケに行こう」
向かった先は普段はまず行かない少々高級なカラオケ。
「ここですか?別にカラオケするだけならもっと安い店でも」
「ふむ、ケイ。今回のカラオケの目的は?」
「えーと、たしかオレに自分の声を教えてくれるんでしたっけ」
「うん、だから『ここが』良いんだ」
「はぁ」
なんだか分かるようなわからないような説明。
「とりあえず入ろうか」
内木戸先輩が受付を済ませている間、周りを見回す。
うん、なんと言うか。ここって本当にカラオケ?どっかのラウンジじゃないの?落ち着いた色合いのロビーに高級そうなソファ。店員のユニフォームだって黒服だぞ。良いのか?高校生が入るような店じゃ無いのは間違いないんだが・・・
「KKシーズンとお連れの皆様、ご案内致します」
は?案内?カラオケ店で?それに何か微妙な違和感・・・
「本日のお部屋はこちらになります。何かご要望はございますでしょうか」
マジか?高級ホテルじゃないよね。ここカラオケだよね。それに対して内木戸先輩が
「うん、今日は新メンバーが自分の声を分かっていないようなので、分からせようと思ってね」
そういうと店員が、スッとやや目を細めてオレを見る
「なるほど、そちらのかたが例の・・・。承りました。少々お待ちください」
「とりあえず座ろうか」
内木戸先輩がそういうと。他のメンバーは慣れた感じでくつろぎ始める。
オレと真由美もすわり心地の良いソファに居心地の悪さを感じながら座った。
隣に座った真由美に
「なぁ。先輩達は、えらくなじんだ感じだけど、俺的には凄く居心地がわるいんだけど」
「そうよね、高校生がこんな高級そうなカラオケなんて・・・」
「しかもさ、まだ誰も曲を入れようとしないんだよな」
そんなオレ達の様子を見て、神無月先輩が
「クスクス、なにそんなに小さくなっているの」
「いや、俺たちこういう店初めてで」
「なぁに?カラオケ行ったことないの?」
「いや、カラオケくらい行きますけどね。こんな高級そうな高そうな店は」
「あはは、なるほど。それでビクビクしちゃってるのね」
近づいてきた八代先輩が
「ここはあたし達は無料だから」
は?無料?カラオケ店だぞ?なんで?頭の上にクエスチョンマークを浮かべているかのような顔をする真由美。多分オレも同じような顔をしているだろう
「KKシーズンはこの店の特別会員なんだよ。メンバーは誰でも、メンバー3人以上一緒なら一人、メンバーが一人増えるにつき追加で一人のビジターも無料になる。」
そういわれて改めて見回す。KKシーズンのメンバー5人。メインボーカルの神無月美穂先輩、キーボードの八代加奈先輩、ベースの矢上亮先輩、ドラムの丹沢弘樹先輩、ギターの沢渡隼先輩、そして内木戸薫先輩、そしてオレと真由美。そうかちょうど3人分のビジターが無料なんだ。オレはちょっと胸をなでおろす。こんな店の料金払ったら小遣いなんてあっというまに無くなる。
「考えていることは分かるが多分違うからな」
「え?」
「ククク、ケイはKKシーズンのメンバー枠としてカウントされているはずだ」
内木戸先輩の声にオレは思考までフリーズしてしまった。さらに内木戸先輩は
「忘れたか?ゴールデンウィークのミニライブ。美穂はケイを何と言って紹介したかを」
『「では新メンバーのすばらしい声を」』
「でも、歌ったのは1度だけですよ」
「そうだね、でもたった1度で、いや1度だけだからこそかな『幻のメンバー』としてカウントされているんだよ」
「まぁその件については納得はできませんが理解はしました。それで自分の声を知るためにここなんですよね」
そんな話をしていると、店員が戻ってきた。
「セッティングをしますので、もう少々お待ちください」
カラオケの機材に何やら接続(?)している。
「これをお使いください。使い方は、・・・」
内木戸先輩がなにやらリモコンのようなものを受け取り説明を受けている。
店員が部屋から出て行くと
「さぁここからが本番だよ。順番に歌おうじゃないか」
最初はドラム担当の丹沢弘樹先輩だ
「・・・♪・・・・」
順番にバンドメンバーが歌い
最後に神無月先輩の歌声が、あぁやっぱりこの人の歌は違う。他のメンバーも上手い。でも神無月先輩の声が違うのだ。上手いだけじゃない、引き込まれる、声が心に染み込んで来る。
そして
「さぁ次は、そうだな、真由美ちゃん歌ってくれるかな」
「え、あたし、ですか」
「うん、大丈夫。真由美ちゃんの歌もちゃんとケイに届くよ」
「・・・・・はい」
真由美の声も違った、上手さはKKシーズンにはとても及ばないけれど、オレの心に寄りそうように入り込んでくる。
「じゃぁ次、ケイ君、歌ってみようか」
「はい」
これで何かわかるのだろうか?
歌い終わるとメンバーの顔が優しい
「うん、良いね。あとは、一応最後にケイ君と真由美ちゃんデュオで歌って」
「それで、歌いましたけど、聞きましたけど。素敵な歌を聞かせてもらったのはわかりますけど、自分の声がってのは・・・・」
内木戸先輩に問いかけると
「うん、次はこれ聞いてね。これを聞いて欲しいからここに来たんだからね」
それは先のメンバーの歌の録音だった。ただし『カラオケの演奏無しの』
キーボード担当の八代先輩、ベース担当の矢上先輩、ドラム担当の丹沢先輩、ギター担当の沢渡先輩。みな上手いけど、伴奏なしだとかなり平板になってしまう。
そして神無月先輩。この人の歌だけは違った厚みのある素敵な歌・・・
分かる、ボーカルを担当する神無月先輩は明らかに他の先輩と声が違った
「じゃぁ次ね。ケイ君のソロ」
え?オレの声ってこんななの?自分で思っていたのと大分違う、そしてこれは分かった、そういう事か、でも・・・
戸惑っていると、内木戸先輩が
「今回のメインイベント、ケイ君と真由美ちゃんのデュオ」
え?さっきのオレの声どころじゃない。横を見ると真由美も驚いている。
再生が終わると内木戸先輩の声が意識を呼び戻す
「かなり驚いたようだね。種証しをすると。人間は自分の声って実は他の人が聞いている音とかなり違う音で聞いているんだよ。自分の身体特に頭部の内側に響いた後の音をね。だからこうして録音したものを聞くと自分の声が自分の声じゃないように聞こえる。でもね、他人からしたら、『こっち』が君の、君たちの声なんだよ」
「「はい」」
「どう感じたかは言わなくていい。自分の中で自分のものにしてね」
KKシーズンとのカラオケ会は終わった。オレと真由美に大きな衝撃を残して
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