第125話

「とりあえず明日から昼休みにバトンパスの練習をするよ。場所は用具倉庫前ね」

「「「「はーい」」」

「クラスの練習とか始まったら、そっち優先でいいからね。体育祭が近づいたら部活の時間に練習時間とるから」


翌日の昼休み弁当を急いで食べて用具倉庫前に集合した。

「手順は分ってるね。タイミング合わせてバトンパスするよ」

リレーは専門では無いけれど、陸上部の面々。バトンパスの基本練習は知っている。

発走順に並び走っているのと同様に手を振る。ただし振る早さは歩くときの早さ程度

「はい」

京先輩の合図で真由美が手を伸ばしバトンを受け取る。そのまま数回手を振り

「はい」

真由美も同様に雄二にバトンを渡す。

「はい」

雄二からオレにバトンが渡り。1回終了。さすがにゆっくりした振りなのでひと振りの間にバトンを渡せた。

「うん、今くらいのスピードなら問題なく渡せるね。次は駆け足程度でいくよ」

同じ要領でスピードだけ上げる。このくらいになるとリレーが専門で無いことが響いてくる。1振りで渡せるのは3回に1度。バトンを落とすこともある。昼休みの時間いっぱいまで駆け足程度でのバトンパスの練習を続けて初日の練習を終わった。

教室に戻りながら、

「バトンパスも難しいね」

真由美が溜息をつき、雄二も

「タイミング合ってるつもりでも微妙にずれるね」

「さすが双子っていう事なのかね。真由美と雄二のバトンパスが一番合ってた感じだったな。オレとしてはちょっとだけ妬けたな」

「もう、ケイったら。兄貴に妬いてどうするの」

ちょっと頬を染めながら真由美がくっついてくる。

「わかってんだけどさ、それはそれで理屈じゃ無いんだよ。別に真由美と雄二の関係にじゃなくてふたりの息の合い方にだけどな」

「くす、でもそういう事もちゃんと言ってくれるくらいには近いって思うね」

「そりゃ真由美に変な誤解されたくないしね。それにもっと近づけるってことでもあるかなって」

言ってて恥しくなった。耳が熱い。

「ケイ、ケイの気持ちはすごく嬉しい。あたしがケイの事を好きだって気持ちはこれ以上ないくらい大きいのよ。それでもケイがもっとあたしに近づいてくれたいって気持ちは凄く嬉しい。兄貴とは双子って事で何も言わなくても通じるところがあるけど、ケイともそれと同じくらい、ううん、それ以上に繋がりたいと思う」

真由美も耳まで赤くしながら答えてくれた。すごく嬉しい。思わず真由美を抱き寄せ頬にキスしてしまった。そこで今いるのが学校のグランドからの帰り道であることを思いだし思わず周囲を見回すけれど、とりあえず雄二以外には見られなかったようでホッと息をはいた。

その日から昼休みの練習は続き、土曜日。部活の練習が終わったところで

「今日もやるんですか?」

雄二の問いかけに京先輩が、

「もちろん~、と言いたいところだけれど、お弁当持ってきてないだろうし今日は休みにしましょう。大分タイミングも合うようになってきたし、まだ体育祭まで2週間もあるから土日までやらなくても間に合いそうだからね」

「あそうだ、京先輩、夕方グランド使いたいんですが良いですか」

「いいよ。なにか機材は使う?」

「いえ、機材は使いません。真由美がクラスで800走るんでペースつくりの練習をしたいと思って。軽音部の練習の後で少し使わせてもらいますね」

軽音部では、オレ達が陸上部の方で部対抗リレーに出ると言ってあったので選手枠からは外してもらっていた。

「体育祭は、私達文化部はお楽しみ枠ってか賑やかし枠だから適当よ」

と言う神無月先輩の言葉に、なるほどと思い。いつもどおりの練習を始めようとしていたら

「そこで今日は文化祭について話し合いをしたいと思います」

「KKシーズンで3曲やるうちの1曲くらいはケイ君と真由美ちゃんのデュオで歌ってもらえないかな」

え、KKシーズンバックでデュオはヤバ目な気がする。真由美と顔を見合わせて、ちょっと隅でコショコショと話し合った結果

「あの、1曲くらい歌うのは良いんですけど、ラブソングは避けてもらいたいんですけどいいですかね?」

神無月先輩が何か頭の上に?を浮かべているような表情をしたけれど

「まぁそのくらいの希望を聞くくらいはなんでもないよ。でも何故かしら?」

「あぁそのちょっとそれは……」

オレがちょっとはぐらかそうとしたその時

「テンション上がっちゃうとヤバイ事になるので勘弁してください。文化祭のステージであれやると多分生徒指導室行き」

真由美がぶっちゃけた。

「そ、そんななんだ」

神無月先輩が真由美の勢いに押されてしまっている。

「まぁそんななんでラブソング以外でお願いします」

そんな話があったりギターの練習をしたりして軽音部の練習をおわり、いよいよ真由美の800mの練習のためにグランドに来ているわけだけれど。

「さて、まずは目標タイムを決めようか」

「どのくらいが目標タイムになるの?」

「ん~、そうだなぁ。真由美の200のタイムって25秒くらいだったよな」

「そうねぇ今の所25秒台半ばかなぁ」

「とりあえず2分20秒を目標にしてペース作ってみるか」

「え、それって結構速くない?」

「真由美の200mの記録に10秒落ちのペースだから多分いけると思う。真由美が800が専門なら2分10秒から15秒を狙うペースにするとこだけど、専門外だからこんなもんで良いかなって」

「そう言われると行けそうな気がしてきた」

「オーケー、じゃぁペースメーカーするからついてきて」

軽いウォームアップしたところでトラックにでる。

「じゃぁ、よーいゴー」

学校のトラックは1周200mなので4周走る事になる。腕時計のストップウォッチで1周毎のタイムを見ながら走る。1周目35秒、ぴったりだ。当然ながら今の所真由美がへばった感じは無い。2周目1分11秒ちょっと遅れたけど、このくらいは誤差。真由美はちょっと軽く息が上がってきたかな、でもまだ余裕あるな。3周目1分46秒、良いペースだ。真由美の様子は2周目と変わらない感じかな。ラスト2分22秒。ちょっと遅れたけど。まぁこのくらいなら良いペースだ。うん、真由美もちゃんとついて来た。流石に息が上がっているけれど。これなら十分に走れるだろう。

「真由美、良いペースだったぞ。今ので2分22秒。校内の体育祭程度なら優勝狙えると思う」

そう言いながら真由美にスポーツドリンクを渡し一緒に歩いてクールダウン。トラックを1周歩いて息が整ったところで一度トラック脇の芝生に腰をおろす。真由美を軽く抱き寄せながら。

「ちゃんといいペースで走れたね。今のペース覚えた?」

真由美はオレに軽く寄りかかりながら返事を返す。

「たぶん」

「いいねぇ、さすが真由美。今のが女子の800mの地区入賞レベルね。実際のレースだと駆け引きとかあるからそのままじゃないけど。真由美は今まで短距離だったけど800でも結構良いところまで行けそうだな」

「でも、今のはケイがペース作ってくれたから」

「そりゃ最初からひとりでこんなペース作れたらオレたち中距離専門の人間の立つ瀬無いぞ」

と笑いかけ、真由美の頭をぐしゃぐしゃと撫でると、真由美がネコのように目を細めて気持ち良さそうだ。

「今日は、今のペースで400mを1本自力で走って上がろうか」

「うん」

「その前にちょっとそこにうつ伏せに寝ろ」

「こう?」

柔らかな芝生の上に素直に寝た真由美の足を軽くマッサージする。

「ひゃぁ。何いきなり」

拒否する感じはないけど少し驚いたようだ。

「ん?驚かせたか。ごめんよ。軽いマッサージで乳酸抜きしてから400走ってもらおうかと思って」

「うん、良いけど。そのちょっと誤解しちゃって。あの、別にそっちでも嫌じゃないんだけど……」

なにやら真由美がテンパっていて可愛い。クスリと笑って。

「そっちってなんだ?」

分かっているけれどマッサージを続けながらからかってみると、耳まで真っ赤になって

「その、エッチな感じで触られるのかと思っちゃって」

「ふふ、こんなふうにか?」

ちょっと内モモからお尻をエッチな手つきで触る。

「う、うん。でもケイに触られるのはちょっと嬉しいかも」

その言葉にドキッっとしながら、真由美に覆いかぶさり耳を甘噛みして頬にキスを落とした。

「もう、そんなことするとスイッチ入っちゃうよ」

「あはは、ごめんごめん。じゃ、そろそろ400をさっきのペースで自分で走ってみて」

「はーい」

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