第135話

幸枝の忠告はあったが、そのあと特に何かがあったわけでもなく競技は進んで行く。2年のリレーを見ていたとき真由美が何かに気付いた

「あ、ケイ。あそこ」

言われて気付いた

「あ、久留間先輩」

2年生の1位でゴールしたアンカーは陸上部の先輩。それも短距離を専門にしている久留間先輩で、1走は京先輩だったはず2走も確か。

「そりゃ、いるよなぁ」

と真由美と顔を見合わせた。そこで急遽作戦会議。

「ケイ。久留間先輩に100で勝てるか?」

問う雄二に

「さすがに無理。200なら負けないし、400なら勝つけど、100だと多分0.5秒は遅れる。それに1走が京先輩で、2走がたしか」

松山さんを見る。

「えぇ、女子テニス部のエース山内真美先輩。私より足も速いわ」

2年の1位チームは人材が集まっていた。1走は100mで県大会出場を決めている京先輩、2走は女子テニス部の俊足山内先輩、3走は名前までは知らないけれど確かサッカー部のレフトウィングのレギュラー選手で、トドメにアンカーが陸上部の100専門の久留間先輩って。

「真由美、京先輩に100で勝てるか?」

真由美が迷いながら

「多分ギリギリで負ける」

真由美は200が専門だからな。

「雄二、あのサッカー部の先輩とおまえどっちが速そうだ?」

「無茶言わないでくれよ、僕は基本的に長距離ランナーなんだぞ。一般の生徒よりは短距離も速いけど、あんな人には敵わないよ」

4人で途方にくれて……ふっと気付く。そして3人同時に

「「「バトンパス」」」

「よし決まりだ。テイクオーバーゾーンも目いっぱい使うぞ」

部対抗リレーのバトンパス練習に参加した人間が3人も揃っているんだこれを使わない手は無い。

3年生の部も終わり、上位2組ずつの6組でのリレーが始まる。

1走はやはり京先輩が1位、それに続いて幸枝が2位、松山さんが3位で走りこんでくる。幸枝までがテイクオーバーゾーンに入ったところで真由美はテイクオーバーゾーンの昔で言うブルーゾーンまで下がる。タイミングを見て走り始め十分な加速した状態でバトンを受け取る真由美。バトンパスも素人からの受け渡しとしてなら十分な成功。バトンをほとんど停止した状態で受け取った上位2チームのうち1-Eはテイクオーバーゾーンの中で追い抜いた。悪いな幸枝、悲しいけどこれ競争なのよね。先行した2年チームだけれども、足が速いとはいえテニス部、真由美には及ばず50m程で真由美が抜き1位に、真由美と同様テイクオーバーゾーンを目いっぱい使い、部対抗リレー用に練習したバトンパスでロスの無いバトンリレーで2年チームとの差を広げ、雄二が走る。2年チームはジリジリと差を縮めてくるが雄二は1位をキープしたままでオレにバトンが渡った。当然テイクオーバーゾンを目いっぱい使い十分に加速して練習どおりのバトンパスで受け取る。2秒はマージンのある状態でバトンを受け取る事が出来た。久留間先輩に100mでは負けるがそれはあくまでスタートダッシュ部分で負けるだけ。加速してしまえば負ける事は無い。無事1位でゴールに飛び込む事が出来た。2位でゴールしてきた久留間先輩が

「やるじゃないか、負けたよ」

と明るく祝福してくれて嬉しかったので

「ありがとうございます」

と返し一礼。そして京先輩にはニヤリと笑いながらサムズアップしておいた。すると横から幸枝が突っ掛かってきた

「なんですか、あのムキなった作戦。3人ともモチベーション低いんじゃなかったんですか」

「いやぁ、勝って当たり前なレースだとモチベーション上がらないけどさ。戦力的にこっちより上の相手だって分かったらそりゃヤル気も出るよ。なぁ」

「「だね」」

「なんですか、その『俺より強い奴に会いに行く』みたいな思考はぁ」

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