第111話

「このパイは……。お、やっぱりミートパイか。うん美味しい。ナツメグとなんだろう、ちょっと良い香りの、あ、レモングラスかな。これは葉子さんのセンスかな?」

「え、ケイ君そこまで分かるの?」

「まぁ、今までのオレの料理に対する反応で多少はね。そういうとこ見ながら次の料理のアレンジとか考えるんですよ」

「そこまで気を使って。それは胃袋掴まれちゃうのも仕方ないですね」

「あれ?1,2,3,4,5.ケーキは市販品としても唐揚げとカルパッチョサラダが……」

人数とお皿の数が合わない。それでもと食べて見ると

「唐揚げは、この味付けだと多分真由美?。でもカルパッチョサラダの味がちょっと違う。洋風の中にちょっと入っている和風の味……。ん、和風の味?」

さっき幸枝が洋風のパプリカボートの中に昆布出汁で味にアクセント付けてたな。

「と、いうことは、カルパッチョサラダは幸枝か。この皿は真由美と幸枝の合作?」

「「せいかーい」」

横と後ろから抱きつかれた。

「それにしても、ケイの舌てどうなってんの?美味しいだけじゃなくて、誰が作ったかとか全部分かるなんて」

「いや、料理って作った本人の好みや性格が出るからさ。特に上手になればなるほどね。みんなが料理下手だったら多分分からなかったと思うよ」

「く、ここで無自覚誑し。嬉しいだけに文句が言えない。そういうのはあたしだけに言って欲しいけど、ケイだから……」

「なんで誑し?みんなの料理が上手いのは間違い無い単なる事実なのに」

そこに肩をちょんちょんとつつかれ、振り返ると雄二が無言で周りを見ろと言うように手で示した。見回すと、ポーっとしている奈月、なにやら赤くなっているレイさん、何かに耐えている葉子さん、真由美と幸枝はギューっと抱きついたままで、そこまで見回したところを確認した雄二が

「やっぱりハーレムか?」

「ハーレム言うな。オレはハーレムなんか作るつもり無いぞ。そもそも雄二は自分の妹の恋人がハーレム作って平気なのか。ハーレムにならないように協力してくれよ。頼むよ」

「無自覚に誑すのをどうにかしないと拡大するぞ」

とオレの肩をポンポンと叩いた

「いや、ポンポンじゃなくてだな……」

「ケイにハーレム願望が無いことは分かってるし、意図的じゃないことも分かってるけどな、実際みてみろ。あの感じだとレイさんはもう堕ちたぞ。葉子さんもそろそろ危ない感じだしな」

「うぐ、ここでお前に引き受けてくれとも言えんし。せめてこの空気を変えるのを手伝ってくれよ」

「まぁそのくらいはな。別に難しくない」

そう呟き

「さぁみんな料理が冷めないうちに食べよう」

雄二の声にハッとしたように皆が気づき、食事を再開。多少ぎこちなさは残るものの、体育会系の健啖家揃いなので料理も綺麗に平らげ、デザートとしてケーキを取り分けている。7等分というのは難しいよなぁと見ていると。センターに竹串を刺してそこに何やら折った紙を乗せている。ほう、考えたな。8つに折った紙で1辺を折りこんで正7角形を作ってそれでさらに外側に印をつけて取り分けるのか。

「良く考えたねぇ。それだとかなり正確に7等分できるね」

感想を呟くと、奈月が

「うん、これはね、こないだテレビの実験バラエティみたいな番組でやってて覚えたのよ。便利でしょ」

ケーキを切り分けるメンバーと別に真由美と幸枝がコーヒーと紅茶を準備しているのが見える。手分けして手際もいいな。

すぐにケーキも取り分け

「あれ?ひょっとしてケーキも手作り?スポンジも?」

ちょっとびっくり、かなり綺麗に出来上がっていたので市販のケーキかと思ったらどうも手作りぽい。

「オレの事を料理チートとか言うけど、おまえらも結構な料理の腕だよな」

ん?なんか微妙な表情でオレを見てるな。そこで奈月が前に出てきた。

「多分あたししか言えないから言うけどさ。にぃがあのレベルで料理作るからあたしたちも頑張って練習したんだよ。真由美おねぇさんなんか中学時代からがんばってるし。だから真由美おねぇさんは、あたしたちの中で頭ひとつ抜けて上手なんだよ」

そこで思いだした。あの日の学校の中庭での会話『あれから練習して出来るようになったの。そのケイにご飯作ってあげたいって、でもケイの作ったご飯がおいしくて』そうだよな。中1の1学期まで真由美は料理出来なかったんだよな。それが今じゃこんな料理。これって感動していいよね。ちょっと泣きそうなんだけど。

「なんか、すげぇ嬉しい。ありがとう」

横から雄二が

「そこで謝らずに喜んでありがとうって言えるのがケイだよなぁ」


「手作りのケーキって良いね。今回はオレの好みに合わせてくれたんでしょ。ちょっと甘み控えめで美味しいよ」

あ、女性陣がハイタッチしてる。

ケーキまで食べて食器の片付けをって手を出そうとしたら

「今日はケイ君は何もしちゃダメですよ」

幸枝に止められた。片付けも終わってヒト息ついたとこで

「今日はありがとうね、すっげぇ美味しかったし、嬉しかった」

感想を言ったら、照れながら真由美が

「えへ、でもまだあるよ。ハイこれプレゼント」

「うわ、こんな料理作ってくれた上に?めっちゃ嬉しい。開けても良い?」

耳まで赤くなった真由美が

「う、うん」

箱から出てきたのは

「シューズ?でも、これってすっげぇ良い奴じゃん」

「いつもケイが履いてるメーカーで同じ型使ってるやつだから合うと思って」

「ありがとう、大切に使うね」

そしたら、横に幸枝が来て

「私からはこれを」

包みから出てきたのは

「サングラス?」

「うん、昼間走るときに良いかなって軽めのを探したんだけど。どうかな」

「ありがとう。使わせてもらうね」

そう言いつつ、掛けて見る。

「どう?」

ちょっと照れつつ見せると

「うん、似合ってる、かっこいいよ」

そしてレイさんと葉子さんが

「私たちからはこれね。二人で選んだのよ」

ちょっと大きめの包みを開けると

「ジャケット?」

ちょっと控えめな落ち着いた感じの赤色のジャケット

「うん、二人で一緒に探してたらケイ君に似合いそうなの見つけてね」

「うん、嬉しい。結構おしゃれな感じでいいな。ふたりのセンス素敵ですね」

言いながら、羽織って見せる。レイさんも葉子さんも嬉しそうに見てくれた。

「さぁ僕からはこれだよ」

雄二から渡されたのは

「本?あ、これずっと探してたやつ。よく見つけたな廃版になったって聞いててほとんど諦めてたやつだ」

「こないだ偶々見つけたんだよ。ケイが見つからないって嘆いていたの覚えていたからね」

「うわ、嬉しい。ありがとうな」

「最後はあたしね」

そばに来たのは奈月

「あたしからのプレゼントは、ジャーん、あたしです」

そのまま黙ってチョップをしようとすると

「チョちょっと待って。冗談、冗談だから。これ、これね」

「冗談にしても、おまえなぁ自分の彼氏の前でそれはダメだろ」

と言いながらプレゼントの包みを受け取り開けると

「お、スポーツタオルか。いいな使ってたのがヘタってきてたから新しいの欲しいと思ってたんだ。ありがとうな」

「みんな素敵なプレゼントありがとう。大切にするね」

それからは、みんなでゲームをしたりおしゃべりをしたり楽しく過ごし、夕方珍しく早く帰ってきた母さんが

「あら、大勢ね。あ、そっか景の誕生日のお祝いに来てくれたのね。ありがとうね」

と言いながら電話で何かを注文し始めた。どうも寿司を頼んでいるようだ。

「みんな夏休みよね。今お寿司を頼んだから夕飯食べていってね」

おぉ誰も遠慮する隙を与えずさすが年の功だ。


夕飯まで済ませ

「今日はありがとう。嬉しかったよ」

皆が帰るのを見送っていると、横に真由美が来て、そっと耳打ちしてきた

「一旦帰るけど、後でちょっと時間頂戴ね」

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