第67話
今日は1日オフのフリータイム。
オレ達は新見さんの攻撃から逃げることを兼ねて外に遊びに出ていた。
ホテルから歩いて駅に、そして目的地の最寄の駅で電話をする
「予約してあります伊藤です。今駅につきました。あ、はい、6人で間違いありません。では30分後くらいですね。その時間にロータリーの牛のオブジェ前で。はい、お願いします」
電話を切り
「30分後くらいに迎えに来てくれるって。それまでそこのカフェででも時間潰そうか」
「今日は楽しみだねぇ。誘ってもらえなきゃここで体験出来るなんて思いもしなかったよ」
レイさんが上機嫌だ。
「ですよね、ケイ君、どこでこんなの見つけたんですか?」
幸枝も嬉しそうだ。
「ほら、事前に今回の合宿って1日フリータイムがあるって言われてたでしょ。だから何か遊べないかなってネットで調べててさ。天候によってはとか注意書きが書いてあったので迷ってたんだけど、予報だとよさそうだって事だったからね」
「あ、あれかな?」
ちょっと(?)いやだいぶ傷だらけのワンボックスが待ち合わせ場所の前に横付けしてきた。横にはポップな絵柄でパラシュートのようなものにぶら下がる人を描いたロゴに河口湖パラグライダースクールと書かれている。そう今日はパラグライダーの1日体験を目的にやってきたのだ。そんなワンボックスからニコニコと笑顔の多分40歳くらいの男性が降りてきて
「伊藤さんですか?」
明るい声で問いかけてきた。
「はい、申し込み代表の伊藤です。こちらの5人が今日お願いしているメンバーです」
「河口湖パラグライダースクールの山本です。とりあえずスクールにご案内しますので乗ってください。美人さん率高くてイントラさんも張り切っちゃいそうです」
スライドドアを開けてくれる。
みんなが乗ったところで山本さんがガコンと力いっぱいスライドドアを閉める。相当にドアも歪んでいるみたいだ。車を出すと人懐こい声で山本さんが声をかけてくる
「みなさん体験だそうですが、どこかで別に体験したことあるかた見えますか」
「みんな初です。ただ体を動かすのは得意なメンバーが多いので楽しみです」
そう、実はマネージャーの幸枝だって別に運動が苦手なわけじゃ無い。陸上部のマネージャーになった当初はバスケット部から陸上部に苦情が入ったくらいだ。
「ところでこのワンボックスずいぶんと貫禄がありますねぇ」
さすがにボロイとか言えない。山本さんは、わははと笑いながら
「パラグライダーって人があまり行かないところにテイクオフ、あぁテイクオフってのは飛び出す場所なんですけどね。それがそういうところにあるんですね。そこに行くにはもの凄いでこぼこの道を通ったりするんですね、そうするとあちこちぶつけたりして、まぁこういったボコボコにへこんだ車が誕生するんですよ。とまったりしませんから心配はいりませんよ」
おもっていたよりなかなか豪快なスポーツみたいだ。
クラブハウス(?)に到着すると。そこは思ったよりと言っては失礼だけど、非常におしゃれなログハウスで赤や黄色のカラフルなシャツを着た日に焼けた顔の老若男女が楽しそうにおしゃべりしていた。いやわかんねぇよ。何この不思議空間。あ、あの人明らかに70歳超えてるだろ、そんな人が楽しそうに20代と思しき女性と歓談しているんだぜ。かと思えばちょっと難しい顔した30代くらいのイケメンがノートPC前になにやらカチャカチャしてるし。あ、あっちは何かぶら下がった椅子みたいなのに座って体を傾けたりしてる。そんな風に圧倒されていると、そこにいた多分40代くらいの女性が
「あ、山本さんもどりましたね。じゃぁ2便上がりますよぉ。上がる人は機材乗せて
・・・」
あ、みなさん大きなリュックみたいなの抱えてワンボックスに向かって、あっという間に人がいなくなった。あっけに取られるオレ達に、さっき声をかけていた女性から声が掛かる
「体験のかたですよね。インストラクターの白根と言います。説明しますのでこちらへどうぞ」
パラグライダの飛行原理、初歩的な操作方法、最低限の機材の簡単な説明があった。何マジ、動力無しで数千メートルの上空に飛べるとか何時間も飛んでいられるとかすげぇ、それでいて操作自体は基本的に体重移動と手元にあるライン(紐)に繋がったグリップを引くだけ?え?この細い紐1本で100Kg以上の重さに耐えらるの??材質はケプラーとかダイニーマとかの宇宙素材みたいなやつなの?
そんな驚きの説明を聞いたあと承諾書にサインをした。オレ達は未成年なので本来は親の承諾書を必要とするらしいのだけど、特別に親から承諾書をファックスしてもらって了承してもらった。レイさんと葉子さんは20歳ということで自書だけでよかったのは助かった。
次は実際の操作練習。さっき誰かが椅子をぶら下げていた機材にハーネスといわれる椅子を取り付けてそこに座る。ベルトを締めて。基本操作の練習。メンバー全員が一通り操作練習を終わると。
「では、ランディングで実際のパラグライダーをつけて操作を体験してもらいますね」
白根さんに先導されて到着したランディングは、広い。学校の校庭くらいあるんじゃないか?そこここでパラグライダーを操作して凧揚げ状態で何かしている人が何人もいる。何あれパラグライダーってあんなにでかいの?え?あの人ちょいっと動いただけで真上まで上げてるんだけど、あ、向こうでは操作に苦労している感じの女の子もいた。
そこで色々操作練習をしていると、これ結構おもしろいな。でっかい凧揚げなんだけど左右のグリップを引くとぐいぐい回って面白い・・あぁ下におちたぁ。キチンと操作しきるのは難しいな。白根さんの指導のもと小1時間練習していると
「少し休憩にしましょう。しかし、みなさん体力ありますね。普段から何かスポーツでもされているんですか」
「高校生4人は陸上部で大学生二人は空手部なので、普通の人よりは体力あるかもですねぇ」
と言っておく。
「じゃぁ少し休憩していてくださいね。このあと向こうの小さい丘を使ってショートフライトの体験をしてもらいます」
そういって白根さんは何か大きなタープの方に行ってしまった。
「ね、ね。すごいよね、体がグーって引っ張られるんだよ」
興奮して話しかけてきたのは葉子さん。
「ほんとに風なんかほとんど無いのにね、パラグライダーに逆らっても無理ですって言われたのを実感しましたね」
幸枝も結構楽しげだ。他のみんなも興奮してキラキラした目ではしゃいでいる。
「そろそろ、ショートフライト体験にいきますよ。こちらについてきてください」
白根さんの誘導でランディングの隅にあるちょっとしたスロープに上る。
「さきほどの地上練習の要領でパラグライダーを頭の真上に上げて軽く走ります」
目の前でひとりの男性が見本として飛んで見せてくれた。
「おぉぉぉ、たったあれだけであんな遠くまで飛んでいったよ」
真由美が興奮して抱きつきながら叫ぶようにはしゃいでいる。オレもちょっと興奮気味で
「すげぇ、あんな簡単にいくものなんか?」
というところで白根さんがちょっとだけ水をさしてくる
「あぁごめんね、あの人はパラ歴10年超のベテランなんで、いきなりあのレベルはさすがに無理かなぁ」
「でも、飛べるんですよね」
レイさんが積極的だ
「はい、ちゃんと操作してもらえればあの半分くらいは飛べますよ」
あれ、半分でもすごいぞ
一度に飛ぶと危ないからという事で、ひとりずつ順番に飛ぶ。
「おぉぉすげぇぇうぁぁ」
みんなわけの分からない叫びを上げて飛んでいく。
何度か飛んでいると、白根さんが
「じゃぁ途中で軽く左右のブレーク引いてS字飛行をしてみましょう」
操作して自分で方向を変える。マジこれ鳥になった気分なんですけど。
「何度もショートフライトで楽しんでいると」
オレ達の飛んでいるのを真剣に確認している白根さんが目に入った。そして時計を確認して
「え~、ここまでが今回ご予約頂きました体験となります。楽しんでいただけましたでしょうか」
「「「「「「すっごい楽しかった」」」」」」
ん白根さんちょっと迷ってる感が
「みなさん思ったより上手だったので、ちょっとご提案なんですが」
なんと高度差300mのテイクオフから飛んでみないかと、当然オレ達みたいな人間は
「「「「「「やる」」」」」」
ですよねぇ
簡単な手続きをして、実際に飛んだ。感動した。すげぇわ。人間って本当に飛べるんだ。着地が思いのほか難しくて、尻餅をついたり、横に転がったり、足を着くタイミングと目視が違って前のめりに転がったりと色々だったけれど。総じて
「「「「「「楽しかったぁ」」」」」」
パラグライダー体験は6人の1体感を高め楽しい体験になった。
帰りに駅までの車の中でも、電車の中でも6人はずっともうこれ以上無いんじゃ無いかというテンションで今日の体験を語り合った。
ホテルに帰り着き、レイさんと葉子さんが
「今日は、本当に素敵な体験に一緒させていただきありがとうございました。これからも仲良くさせてくださいね」
これからもって、あぁそういえば華桜女子大って隣県だけどすぐそこで急行電車で4駅くらいの場所だったなと・・・この後もチョコチョコ遊べそうだなぁと思いながらそれぞれの部屋に向かった。
部屋ではスマホにイヤホンをつないで周時高校軽音部のオリジナル曲「ファンタジーレインボウ」を聞いていた。何度も何度も聞いて歌のイメージを作る。
夕食後約束の時間にカラオケルームに行くと、既に向こうのメンバーが揃っていた。
部長の長瀬さんが
「こんばんわ、今日は1日居なかったみたいだね」
と声を掛けて来たので
「えぇ、うちは今日1日完全オフだったのでパラグライダー体験に行ってました」
横に居た小柄でスレンダーな女性、確か高林寺葵さんだったか
「わわわ、パラグライダー体験でしゅか。どんなでぃた」
噛み噛みで聞いてきた。
「楽しかったですよぉ。人間て鳥になれるんですねぇ」
真由美がうっとりと語る。
しばらく昼間のパラグライダー体験を熱く語る真由美と、それを熱心に聴く高林寺さんが場を占拠していた。それでもさすがに10分以上経つと、苦笑した長瀬さんが
「高林寺、今はそこまでにしてくれるかな?そろそろ練習しよう」
と止めた。
「あ、あたしもつい。ごめんなさい」
真由美も語りすぎた事に気付き謝罪する。
「いやいや、そこまで気にしなくて良いですよ。こちらの高林寺も夢中になってたことですし」
カラオケルームに入り、いつも通りにそれぞれが練習を行う。
1時間ほど練習したところで長瀬さんから声がかかった。
「で、いかがでした?ファンタジーレインボウ」
「オレはだいたい覚えました。ただちゃんと歌ってないのでそこは実際に歌って練習が必要だと思います」
「あたしも、ケイと同じ感じです。ここからは実際にうたってみないと」
「オーケーオーケー、じゃぁ一度合わせみましょう。うちの演奏でお二人が歌って。先生録音お願いします」
録音を聞いて、意見交換中だ
「全体に声はちゃんと音程どおり出てるねぇ。さすがだ」
ん?何が『さすが』なのだろう?
「ん~、ここもう少しのばして欲しいかな」
「ここはちょっとビブラート入れてくれると嬉しい」
・
・・
・・・
「色々言ったけど、初回でこれは結構だよ」
「ですね事件です」
「出来たら、何度か通しで練習したいんだけど、そちらのギター練習はどんな具合かな?」
「そうですね、あと15分くらい時間ください」
「了解。それじゃ、その後で時間いっぱい歌あわせよろしく」
「時間だよ。今日はここまで」
向こうの顧問の先生が終了を告げる。
「ふぅオレは結構楽しく歌えたけど、真由美はどうだ?」
「あたしも思ったより楽しいかも」
歌うたび、あわせるたびに良くなっていく。これはバンドならでわの感覚なのだろう
「ケイ君、真由美ちゃん、また、明日よろしくな」
「「はい、今日は楽しかったです。あしたもこちらこそ、よろしくです」」
で、ラスボス回避は・・・やっぱり居る
外に出て。真由美が抱きついてきた。いつもよりしっかり抱きついてくるのでいつもより少々当る。何がってまぁ色々やわこいいものが。で、そういえば合宿に来てあまりしっかりとスキンシップできてないなぁと思ったので
おれからもギューっと抱きしめる。
窓1枚隔てて中に人は居るが、こちらを気にしている人はいない。
「真由美、ちょっと座ろうか」
「ん」
ちゃっかりオレのひざの上に横抱きに座ってくる。当然真由美を抱き寄せながら
「こっち来てからちゃんと真由美を抱きしめてなかったからちょっと真由美成分補給」
と言って抱きしめる。
真由美も
「あたしもケイ成分補給しないと死んじゃう」
と言って抱きついてくる。しばらく抱き合って時間を過ごしていると。ブルブル、スマホが震えトークアプリにメッセージが入った
「もう少しこうしていたかったのになぁ」
メッセージの内容は
KK:さっさと帰って来い。窓から丸見えだ
苦笑しかない
最後に真由美のやわらかい唇を味わって部屋に戻った
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