第56話

「ふぅ標高ってこんなに効くんだなぁ」

「だなぁ、軽く動いただけで結構きつわ」

「いつもこんなとこでトレーニングしてたら体力つくだろうなぁ」

「「「そうでしょうね」」」

苦笑いで相槌をうつオレ達3人を見る他の部員の目がちょっと寂しい

「たく、3人そろって平気な顔しやがって。これが地力の違いかね」

高地とはいえ、軽いトレーニングくらいならオレ達3人は特に息を切らすとかへバルということはない。そのようにトレーニングしてきた。さすがに競技スピードでとなれば別だけれど。

「じゃぁそれぞれダウンとストレッチしたら夕食まで自由時間にします。自由時間だからと言って羽目を外し過ぎないようにね」

ゆっくりとクールダウンとストレッチをしていると、加藤さんが近づいてきた

「ケイ君、アイシングセット持ってきたよ」

「ありがとう、せっかくだから使わせて貰うかな」

「はいこれ、ちゃんとクーリングダウンしてね。こっちは真由美ちゃんに、これは雄二君に。ふたりももう主力なんだからちゃんと身体のケアしてね」

「「ありがとう」」

「それでさ、自由時間なんだけど、よかったら4人で近くを散策しない?」

「おぉいいね。遠出するほどの時間はないし、部屋でボーっとしてるにはもったいないしね」

十分にアイシングしたあと、機材をしまって。

「じゃぁ着替えて10分後にロビー集合でいいか?」

「男の子は10分で準備できるかもだけど、女の子に10分でてのはちょっとデリカシーないかなぁ雄二君。君ほんとうに彼女持ち?」

加藤さんの言葉に顔を見合わせる3人。それを見て加藤さんが

「え?何?男の子のケイ君まではともかく、なんで真由美ちゃんまでそんな不思議そうな顔するの?」

「いや、ごめん。オレ達って幼馴染じゃん。昔から色々知っててさ、普段はもうお互いに色々気にしないもんだから、真由美含めても朝一ならともかく昼間に集まりなおすって程度だとそんなんだったもので」

「まったく幼馴染ってそういうとこ色気ないよね」

呆れ顔の加藤さんだった。

「じゃぁ30分でいい?」

と確認すると

「1時間。シャワー浴びてお化粧していくから、そのくらいの時間考えてくれないと。ちゃんと覚えておいてね。普通は女の子と出なおすときはそのくらいは余裕をもたせるものよ。あとふたりも軽くとは言え体動かして汗かいているだろうからシャワーくらいは浴びてきてね」

3人顔を見合わせてコクコクと頷いた。


加藤さんに言われたようにシャワーを浴び着替えてロビーでボーっと待っていると

「レイ、ダメだって」

「離して。どうしても確かめないと」

なにやら隅でもめている。喧嘩とかの雰囲気ではないので放置するが、一応近づかないようにちょっと移動。

スマホをポチポチ弄りながら待つことしばし、ふたりの美少女がやってきた。

「ケイおまたせ」

「おぅ・・・」

言葉が出ない。真由美は普段は化粧っけなしの健康的な美形なんだが、今は薄化粧で清楚感が出て、どこのお嬢様だって感じだ。見とれていると。

「ねぇ、どうかな?さっちゃんに言われて初めてお化粧してみたんだけど」

「すごく似合ってる。可愛い。見とれちゃったよ」

横で雄二が

「マジかよ、あの真由美が」

などとつぶやいていた。

「て、ことは隣にいるもう一人の美少女が加藤さんか・・・」

化けすぎだろ二人とも、さすがにこれは言葉にできない。言葉にするほど無神経ではない。

「うふふ、惚れちゃった?惚れていいよ。いっそ惚れて。お持ち帰りしてもいいよ」

あぁ、この残念具合は加藤さんだ。普段はハイスペック女子高生なのになんでオレと絡むとここまでポンコツ化するかなぁ。

「まぁ冗談はともかく」

「冗談じゃ無いのに・・・」

加藤さんが何か言っているので

「冗談はともかく、散歩行くんだろ。河口湖のほう行ってみようぜ」

ホテルの前庭ロータリーから道路を渡った先にちょっとした公園がある。そこを散歩しようという事になった。

「へぇ良い感じの公園だねぇ。河口湖に直接面してて素敵じゃん」

加藤さんはかなり気に入った模様。

「そうね、良い感じに木が植わってて雰囲気あるね」

うん、真由美もご満悦だ。

問題は、本人はいつも通りのつもりなんだろうけど、左腕にぶら下がった美少女さん。ふと見たときに目が合うとニッコリ。いやいつも通りなんだけど。女の子って化粧するだけでこんなに笑顔の破壊力が上がるのか?もう心臓がやばいことになっているんだけど。そんなオレを不思議に思ったのか、真由美はちょっと小首をかしげて、おい可愛いじゃ無いか

「ね、ケイどうかしたの。さっきからなんか変だよ」

「いや、その、あれだ。真由美が可愛くなりすぎて心臓がやばい」

言ってしまった。とたんに耳まで真っ赤になる真由美。相変わらず防御力低い。

抱きついてくる真由美を抱きしめながら、やっぱり可愛いなぁなんて考えていると加藤さんが文句を言ってきた。

「むぅ、ケイ君。この状態でそこまでいちゃつくのはちょっと私が可哀想じゃない?ねぇ雄二君もそう思わない?」

「あぁ、まぁその。うん。加藤さんには申し訳ないけど僕的には平常運転だなぁとしか。ごめんね」

そんなこんなしながら適当にブラブラ歩いていると。横から飛び出してきた人が・・

見るとさっき部屋の入口でぶつかった女の子だった。

女の子はオレの目の前に立つとスッと構え、いきなり拳を突きだしてきた。

そこからは身体が勝手に動いた。真由美をうしろにおしやりながら、体を捻り、その動きで拳を横に流す。同時に腕を掴んで肘を逆間接に決めて更に体を半回転・・・

ここまで体が動いたところで慌てて止まる。周りを見回すと雄二がオレの斜め後1mの位置にさらに真由美が反対側でさらに少し後で加藤さんをカバーする位置にいる。

「あ、あっぶねぇ。いきなり女の子の腕折っちゃうとこだったよ」

「やっちゃってもいいんじゃないの?いきなり殴りかかってくるような女」

真由美の声が氷点下だ。

「まぁ実力差があるみたいだから、止めて話を聞くのはありだとは思うけど。僕も別にやっちゃっても、その子が悪いって事で良かったと思うね」

雄二も普段の温厚な声じゃ無い。とりあえず手を離しても、こっちに危害を加えられるレベルじゃなさそうなので話を聞くことにした。

「で?オレはあなたに襲われるようなことに思い当たることが無いんですが。どういう事でしょう?」

意識してないが、俺も意識が戦闘モードに入っているようで普段より低い冷たい声で問いかける。

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