第57話

「どういう事でしょう?」

冷めた声で問いかける。そこに

「レイー、どこぉ」

振り向くと、先ほどロビーで揉めていた女性の一人だった。

「あぁぁ、取り押さえられてる」

頭を抱え飛び込んでくるその人に、オレ達3人は加藤さんを後ろに庇い構える。だってそうだろう、いきなり襲い掛かってきた人間の関係者となれば何をされるか分かったものではないから。

そんなオレ達の対応に

「ひっ、ちょ、ちょっと待って。その子の事は謝りますから。殴らないでください」



「じゃぁ何、そのレイさんは、華桜女子大の空手部の外道派で、ドアのとこでぶつかったケイに、そのバラテ?とかいうのを避けられて?」

「そのケイ君の実力を知りたくなったから襲ったと。そういうことですか?で、そちらの芳川葉子さんは、それを止めようとしていたけれど、ちょっと目を離した隙にこの状態と」

「げ、外道派って何ですか。実戦派です。」

真由美と加藤さんが詰問している。

それを聞いたとたんに、オレも雄二も大きな溜息をひとつ。

「で、その外道派のレイさん。相手の実力が全く分からないのに問答無用で襲い掛かるとかバカですか」

真由美が辛らつだ

「ごめんなさい。でも外道派言わないで」

レイさんが涙目で項垂れて謝ってくる。

「オレがたまたま途中で止まれたから怪我しませんでしたけど、あの流れのまま決めちゃってたらどうなってたか分かりますよね」

「う、多分右ひじが折られていたかと」

「はぁそれだけで済む分けないでしょ。あれは、肘を逆間接に決めたまま背負い投げて、そのまま体を浴びせるところまでが1連の流れですよ。それをやわらかいマットの上で無く地面でやったらどうなるか想像できますよね」

真由美の言葉に

「凶悪、無慈悲な技ですね」

真っ青になるレイさん。

「オレは本来殴りかかってくるような人間に慈悲を掛けるほど優しい人間じゃ無いので。だいたい問答無用で殴りかかってくるのとどっちが凶悪なんだか」

冷たく言い放つ。

「もう色々面倒なんで、これ以上絡んでこないと約束してくれるなら、この件についてはこれでおしまいにしますが、どうしますか」

「あ、あの。稽古のお相手とかしてもらうことは・・・」

「ちょ、ちょっとレイ。いきなり無茶言わないの」

「何ふざけたこと言ってるんですか」

真由美も怒り出した。

「で、でもあのレベルの強さだとそちらのケイさんも稽古の相手できるかた居ないのではないかと思いまして」

あ、把握

「何か勘違いしているようですが、オレ達陸上部なんで。基本的にそういったの無いですから」

あ、ふたりとも固まった。

結局再起動したふたりから今回のような絡みをしないという約束と一度部の練習を見に来て欲しいとのお願いをされ、それを了承して終わりにした。


二人とわかれた後公園のベンチで

「加藤さん、さっきのオレ達見てどう思った?」

「どうと言われても。滅茶苦茶強いなぁとしか」

「そう?無慈悲だとかヤバイ奴だとかって思わなかった?普通は結構そっちに思われるんだけど」

「でも、さっきのは明らかに向こうが先に・・・しかもちゃんと怪我させないように手加減してたじゃないですか」

「そう、だね。一瞬の差だけど止まれたね今回は」

「今回は?」

加藤さんが不思議そうな顔をする。

「ごめん、今日はここまで。真由美、雄二、オレ加藤さんには話そうと思う。でもお前達が嫌なら・・・」

ふたりが、そっと頷いた。

「ケイ君?」

何のことか分からず加藤さんが呟く

「でも、今日はここまで。合宿が終わって帰ってから本当に覚悟を決めたら加藤さんには話すよ」

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