第119話

「じゃぁまた明日ね」

「おぅ、また明日」

「明日こそ彼女にしてくださいね」

軽口を叩きながら別れ道を帰って行く幸枝を見送ったオレと真由美は

「幸枝は相変らずだな」

「でも、最近ちょっと変わってきたよ」

オレも多少は感じるところはあるが、オレが言って良い事ではないだろう。なので

「それはそれとして、土曜どこに行く」

土曜日部活のあと久し振りに二人きりでデートをしようという事になったのでそちらに話をふる。夏休みに結構頻繁に遊んでいたけれど、何だかんだいっていつものメンバーで遊んでいて二人きりというのは映画と28日の夜くらいだったからな。

「そうねぇ。あ、そういえば隣町にスポルトーチャ出来たって聞いたんだけど、あれどうかな」

「あぁいろんなスポーツを気軽にやれるあれか?そんなのが出来たんだ」

「うん、色々出来るみたいだよ。行って見ない」

「いいね、とりあえずそこで、あとは気ままにショッピングと散歩って感じでいいか」

隣町なら今イルミネーションがキレイだって聞いてるし日が落ちたらそっちに誘ってみよう。そんな話をしていると分かれ道。

「どうする。寄って行くか?」

「寄って行きたいのは山々なんだけど、今日はご飯作らないとなんで。お父さんが中途半端な時間に帰ってくるみたいで」

「そっか、残念。おやじさんによろしく言っといてな」

「うん、またあしたね」

ちょっと周りをキョロキョロ見回して。

「真由美」

呼びかけ、ぎゅぅ。

「ちょ、誰かに見られ……」

「まわり誰もいないよ」

自分でも周りを見回した真由美がふにゃっと笑顔になり抱き返してきた。

視線をあわせ、お互いの暖かさを感じ唇を合わせた。柔らかな接触に幸せを交わし。

「で、神崎さん。また見てるの?」

ほんの少し前。周囲を見回したときには見当たらなかった神崎さんが塀の影から覗いていた。

「え、あ、その」

「前から思っていたんだけど、神崎さんオレ達のこと何か思うところがあるのかな」

「なんで。そんなこと言うかな。私はたまたま通りかかっただけよ」

「オレと真由美が付き合うきっかけの話をしたときに村上が言ってたんだよ。神崎さんも自爆したって」

「私が自爆って、自爆したのは伊藤君でしょ」

「そうだね、でも、そのおかげでオレは真由美と付き合えている。ある意味感謝してるんだよ。それだけにちょっと気になってね」

神崎さんは俯きしばらく何もいわず何かを噛み締めているように立ちつくしていたけれど、何か覚悟を決めたような顔になるとこちらに顔をむけた。

「伊藤君、いえ、せめて今だけケイ君と呼ばせてちょうだい。真由美ちゃんとケイ君の間を取りもったような私が言っちゃいけないのかも知れない。それに、私の気持ちの理由がひょっとするとケイ君にとってはなんでもない事なのかもしれない。いえなんでもないことならまだ良い。ひょっとしたら嫌な思い出かも知れない。だからその、凄く言いにくいんだけど。その実は私はケイ君のこと入学するまえから知ってて」

そこまで聞いたところで予想がついた。あの黒歴史の中であいつらを追い詰める途中、偶然に助けることになった人たちがいる。カツ上げされていた男だったり、襲われていた女だったり、それこそ何人も偶然に助けたことがある。その中に……

「気付いたみたいね。私はケイ君に助けられたの。ケイ君は別に目的があったみたいだったけど。それでもそれからケイ君はずっと私のヒーローなの。だから高校に入学して同じクラスにケイ君がいたときにはびっくりしたのよ。それでも最初は単にヒーローへの憧れだけだったの。でもね、ケイ君の事ずっと見てたらいつの間にか好きになっちゃってた。だから本当はあのとき私が告白するつもりだったの。ふだんの二人の様子から真由美ちゃんが『その時言えばよかったのに』とか流すとおもってたからね。だからまさかの告白に、あはは、自分で落ち込んだのよあれでも。茶化すしか出来ないくらいにね。だから……」

「もういいよ、そしてごめん。気づけなくて」

「ううん、いいの。本当は自分でちゃんと区切りを付けなきゃいけないって分かってた。だからいいの」

神崎さんのほほを光るものが流れる。

「神崎さん、オレのことを好きだって言ってくれて、ありがとう。その気持ちは凄く嬉しい。でもこれはいつも幸枝にも言ってることだけど、オレの中に彼女の席は1つしかないんだ。そしてその席には今真由美がいる。だからごめんオレの彼女は真由美だけなんだ。」

「うん、わかってた。だから……」

「でもね、神崎さんがオレの事を好きだって気持ちを迷惑には思わないよ。オレよりもっと素敵な人が現れるまでオレの事を好きで居てくれてかまわない。勝手な事を言ってると思うかもしれないけど、オレは真由美が好きで真由美以外と付き合うつもりは無いけど、でも、だからといって神崎さんが無理にオレを好きって気持ちを捨てる必要はないって思ってる」

「ケイ君、あなたを好きでいて良いの。本当に」

「いいよ、でもオレの彼女は真由美だけだけどね」

横で真由美が溜息をついた

「やっぱりこうなっちゃったかぁ。ケイは優しすぎるのよね。でも神崎さん、ケイを好きでいるのは構わないけど、多分かなりしんどいよ。だってあたし達はケイのことをスキだって人のまえでもこういうこと平気でするからね」

そういって真由美はオレに抱きついてきて、そのうえオレを見つめてきた。ここは拒否するわけにはいかないだろうな。ちゃんと分かってもらう必要もあるし。そこでついばむように唇の温度を感じるように真由美にキスをした。

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