第76話

「おはよーございまーす」

今日も朝から陸上部の練習なんだけれど。最近、というか合宿の例のミニライブ以降、部の女子のオレへの態度がおかしい。それは真由美も気付いていて

「せんぱーい、何かケイに思うことでもあるんですか?」

「ない・・・」

何か歯を食いしばるように返事をしていた。

あ、今度はちょうど通りかかった桐原先輩に聞いている。

「桐原先輩。なんか合宿が終わってからこっち女子部員がケイにすごくヨソヨソシイんですけど。何かありました?」

それを聞いて

「プッ、クククク。気付いてないの?」

「何をです?」

「ふむ、そうね。ん~、例えば真由美ちゃんが加藤さんのメイクでの変身を知らなくて、ケイ君がメイクでそのすっぴん状態の真由美ちゃんより美人にされちゃったらどう思うかな?」

「ん~?特になんとも思わないかなぁ。だってケイはケイでしょ。他の誰かと入れ替わるわけでもないでしょうし」

そこに近くにいた女子から

「真由美には分からないわよ。ノーメイクでも可愛いうえにメイクしちゃえばあんな超絶美少女になっちゃうあんたにはね」

あ、察し。まだあの時のことを引きずっているのか。でもあれはオレのせいじゃないよなぁ、オレだって恥しかったんだからな。でもこれ言ったらきっと地雷だよな。沈黙が正解な気がする。たぶん時間薬さんにお願いするしかないやつだろう。

ちょっと気まずい雰囲気のなかどうしようかと考えていたら

「ケイくーん、テーピングするよぉ」

幸枝に呼ばれグランド隅にしかれたレジャーシートに腰を降ろす。そこで身体中の筋肉をゴソゴソと触られ

「うん、合宿の疲れは完全に抜けたみたいね。これなら普通にテーピングしておくだけでよさそう」

と言って両足と腰・背中にテーピングをしてくれる。

「じゃぁ次は真由美ちゃん、部室に来てね」

「あーい、んじゃケイあとでねぇ」

「おぅ、いてらぁ」


「ケイちゃーん、部の女の子にずいぶん嫌われちゃったねぇ」

ウザがらみしてきたのは如月勇。槍投げを専門にする投擲グループの1年。身長も180センチ近くありそうな細マッチョ。短めの髪を軽く脱色している、うちの陸上部には少し珍しいチャラ系のイケメン。まぁ種目での実力はエンジョイ派といったところ。普段の態度からするに幸枝に気があるような感じでオレとしてはうっとうしい。

「別に、如月に心配してもらうようなことじゃない」

「チッ調子にのってんじゃねぇぞ。ちっとばかりモテルからって何人も女を侍らせやがって。幸枝にまで特別扱いされて気にいらねぇんだよ」

「だからどうした。如月に気に入ってもらおうと思って生きてるわけじゃない。大体 何なれなれしく幸枝のことを呼び捨てにしてんだ」

「てめぇだって呼び捨てにしてんじゃねぇか。他人の事いえんのかよ」

「オレは幸枝自身の希望で呼んでいるだけだ。だいたい仲の良い友人とお前みたいなその他一般を一緒にすんな」

あぁなんか下手な煽りになっちゃったなぁ。あ、拳を振り上げた。マジか?と思ったら如月の後ろから拳を掴んだ人が

「コラ、こんなとこで何してんの」

京先輩が仲裁に来てくれた。

「あ、キャプテン。いや別にオレは何も・・・」

「何も無いのに如月君は部員に殴りかかるの?念のため言って起きますけど、私はあなたを助けて上げたんですからね」

「は?いったい何を言って・・・」

「こう見えてケイは滅茶苦茶強いのよ。それこそ・・・」

「京先輩」

「あ、ゴメンつい」

「いえ、先輩の心遣いはありがたく受け取って起きます。でもそれ以上は」

「そうね」

そして如月に向き直った京先輩は

「とにかく部内での暴力行為未遂。未遂ですので大事にはしませんが罰として反省文を原稿用紙5枚に書いて明日までに提出しなさい」

「そ、そんなぁ」

うなだれる如月に京先輩はそっとつぶやいたのが聞こえた

「ケイにつまらない事で拳を使わせないで」

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