第85話

夏休みの朝。弱冷房で室温を抑えているとは思えない暑さ、掛け布団無しでタオルケットのみで寝ている、それでも朝の寝床の魅力は強力でウトウトとまどろみを楽しんでいた。今日は部活も休みだしと気が緩んでいたのもある。何か用事があった気がするが朝の緩んだ思考力では思いだせないで朝寝をしていると

ゴソゴソ、ギシ……

ふにょん、やわらかくて、暖かいものにくるまれ、甘い匂いがする。ん?なにかが身体をまさぐっている。背中から胸へ、お腹、ふにふにと柔らかく触られて気持ちが良い。さらにそれは下に移動してパジャマのズボンの中にさらに下着にもぐりこんできた。一番センシティブな部分に触れられた瞬間に、ばっっと目が覚めた。

目の前には、可愛い恋人の真っ赤になった顔があった。大事な部分をスッと手でブロックして

「真由美、何してるのかな?」

「え、えーと、ケイ起こしに来たよ?」

「違うだろ、何か違うものを起こそうとしてただろ。真由美、最近ちょっと暴走してない?」

よく見ると、ベッドサイドには風船の入った銀色の袋がスタンバイされている。

「だってケイがいつまで経ってもヘタレててしてくれないんだもの。それでいてさ、レイさんを抱き寄せてナデナデしたりキスされたりしてるし、さっちゃんにだって頭ナデナデして可愛いって褒めたりしてるし、だんだんみんなに追いつかれてる感じがするんだもの」

「いやいやいやいや、それ違うから、全部真由美に対するのと明らかにベクトルが違うからね。レイさんを抱き寄せてってのはあれ、お前が脅しちゃったからだからね。そのあとのキスだって単なるお礼だって言ってたでしょ。幸枝だってそんなのじゃないからね。友達にだって普通たまにならする程度のことだからね。真由美にするような愛情こもったハグとか大好きって気持ちの入ったキスとか、抱き合ってついエッチな気持ちで触っちゃうとか真由美だけだから」

「でもさ、やっぱりあたしとしては不安になるの。ケイはいつもあたしのこと好きだって言ってくれるけど、そこでブレーキ掛けちゃうのは、どこか思い切れないのかなって」

「そうじゃない、そうじゃないんだよ。オレは、オレだって真由美を、真由美とひとつになりたい。だけどさ、どんなに避妊しても妊娠の可能性はゼロじゃ無い。もちろんオレとしては添い遂げる気持ちはあるよ。だけど、今妊娠したら傷つくのは真由美が一番だ。学校のこともある。将来の事もある。そんな風に考えると簡単にしちゃいけないって思っちゃってさ。もちろん世の中には妊娠したって降ろせばいいなんて思ってる人が結構いるのも知ってる。でもオレはそんなことをそんな思いを真由美にさせたくないんだ。ヘタレって思っても良い。でも……」

真由美が抱きついてきた。ギュウギュウと力いっぱい。

「ケイ、ケイ、ケイ。ごめんね。ケイは一生懸命あたしの事を考えてくれたんだよね。それを変に誤解して。でもね、これだけは覚えておいて。あたしはね、ケイとの間ならもし赤ちゃん出来て学校やめることになっても、きっと後悔しない。だから……」

オレも真由美を抱きしめ返す。

「真由美、大好きな真由美。真由美の気持ちは凄く嬉しいよ。でもオレは真由美を真由美との高校生活も大事にしたい。それだけは分かって欲しい」

そこからは抱きしめ合いお互いの存在を確かめ合うようにキスを交わした。

どれだけの時間抱きしめあっていたのか。お互いに気持ちを伝え、ぬくもりを十分に伝え合い、安心して身体を離し……

「で、今日は何かあった気がするんだけど……」

「あぁぁ、そうだった。今日は海に行く日だよ。だから早めに起こしに来たのに」

『ピロロン』スマホの通知音がなった。見ると。

さっちゃん:準備はできましたか?

はっとしてスマホの時計を確認する。うわぁ、やばい、やばい。もう7時だ。待ち合せ時間は7時30分。急いで準備すればギリか。

荷物は昨日のうちに準備してあるけど。

「真由美は準備できてるのか?」

とりあえずメッセを返す

kei:もう少しで家を出る

うん、嘘じゃ無いぞ。嘘にならないように頑張るのだ

「うん、準備してから来てるから」

「朝飯は当然食べてはないよな」

「うん、ケイの家でいただくつもりだったから」

「ん~、とりあえずオレ着替える」

「うん」

「うんじゃなくてだな。先に下で飯食っててくれ。急いで着替えていくから」

「手伝う」

「いや、それいらないやつだからな。とりあえずここでラブコメってる時間は無いからさ。飯食ってて」

真由美が、ぷくぅと頬を膨らまして不満をあらわにする。

「あのなぁ、そんなにオレの着替え見たいわけ?」

「うん」

満面の笑顔で秒で返してきたよ。まぁいい。パンツ脱ぐわけじゃ無いから思い切って割り切ろう。

「邪魔はすんなよ」

着替えの服を先に準備する。無地のオフホワイトのTシャツにダメージジーンズ、アウターに麻のジャケットでいいだろう。パパッとパジャマを脱ぎ着替える。あっという間だ。真由美は何か不満があるようだがさすがにそこまでは知らん。

「よし、急いで朝飯食って行くぞ。さすがにこの状態で幸枝を待ちぼうけさせるのは申し訳ない」

「さすがに、それは分かる」

母親の作ってくれた朝食を一気にかきこむ。味わっていられないのは申し訳ないが遅刻するわけにはいかない。心情的に……

歯を磨いて、ダッシュで待ち合わせの駅に向かう。

陸上部の脚力を生かして、なんとか待ち合わせ時間の3分前に駅に着くことが出来た。

「「間に合った」」

周りを見回し幸枝を探していると、後ろから

「ケイ君、真由美ちゃん。おはよぉ」

「おぅ、おはよう幸枝」

「さっちゃんおはよぉ」

「ふたりしてもの凄い勢いで走ってきたからびっくりしましたよ」

「あぁオレがつい寝坊してな。真由美は起こしてくれたんだけど夏休みのイメージで起きるのに時間が掛かった」

「クスクス、なんですか。真由美ちゃんが起こすとすぐ起きれたんじゃないんですか」

「いやぁ、これでも真由美効果でまだマシだったほうだぞ。自分で起きてたらまだ寝てる自信がある」

「そんな自信いらないです。とにかく移動しましょう。電車ももう少しで来ますよ」


海に向かう列車は平日という事もあって乗り込んだ直後こそ通勤ラッシュの終わりに引っ掛かり混雑していたが、そのあとは思いのほか空いていた。

1時間ほど列車に揺られ到着した終着駅。ここからバスで30分程度で目的の海水浴場につく。

15分ほどバスに揺られた頃、バスの窓からキラリと光る水面が見えた。

「「「あ、海」」」

誰が言うとも無く、オレ達は、はしゃいだ声を上げた。決して海来るのが初めてという訳ではないし、幼馴染の特権ではないが、真由美とは過去に何度も一緒に遊びに来た(雄二や奈月も一緒に)それでもやはり海が見えると謎テンションになるのは高校生ならやむをえない。そうだよね。

目的地に近づくにつれ、どんどんテンションが上がってくる。きっと客観的に見ればなんのこともないシュロの木を見れば

「おぉぉ椰子の木だぁ」

椰子目ですが普通は椰子の木っていいません。

サイクリングロードの表示を見れば

「おぉぉ、サイクリングもいいねぇ」

オレ達って海水浴にきたんだよね。自転車はとりあえず今日は関係ないよね。

そしてあと少しで目的地のバス停というところで見えたのが

「「「砂浜ぁぁぁ。ビーチだぁ」」」

今日が平日でバスの乗客が少なかったのがせめてもの救い。

バスを降りると目の前に海に下りる坂道があった。ワクワクしながら状態異常:興奮でビーチに下りていく。オレは坂の途中でスニーカーとソックスを脱ぎ素足で歩き出した。それを見た真由美と幸枝も納得の表情で同じく素足になりスニーカーというには少々お洒落な靴を片手にぶら下げている。

さぁとりあえず海の家でロッカーを借りるのが最初のミッション。

「おじさー……おねぇさんロッカー借りたいんですが」

さばさば系の大学生くらいの女の子でした。

海の家といえばむさ苦しいおじさんだと思い込んでいたのがスカってちょっと気まずい。それでも3人分のロッカーを確保し、水着に着替える。椰子の木とサーフボードをデザインされた濃紺のロングタイプの水着を着て片手にラッシュガードを持って俺は今絶賛待機中だ。あ、待ち時間の間に浮き輪を借りるかなと思ったけれど、どういう組み合わせで確保すべきか迷ったので保留。


「ケイおまたせぇ」

ハートマークを振りまきながら声を掛けて来たのは真由美。明るいオレンジのシンプルなワンピース。ワンポイントの赤いハイビスカスのプリントがちょっと大人感を演出している。うん凄く可愛い。思わず抱き寄せて。

「可愛いよ真由美」

と髪に口付けてしまった。

少し遅れてきた幸枝が

「また、そこでいちゃついて。少しは遠慮しなさいよ」

オコである。うん、分からないではないので反論はしない。反省も後悔もしないけどね。そういう幸枝は可愛いレースの縁取りのピンクのビキニにパレオとちょっと大人可愛い水着。こっちはこっちで中々破壊力がある。

「幸枝もその水着似合ってるよ。オレに真由美がいなかったら危ないくらい」

幸枝が真っ赤になって

「そ、そうかな嬉しい」

と俯いて呟いていると、オレの横腹に肘打ちが入った。

「ぐぅ」

真由美の本気の肘打ちはオレの腹筋のガードをあっさりと突き抜けオレは言葉も無く崩れ落ちた。

「痛ぇよ。真由美。いくらなんでも、ちっとは手加減してくれよ。オレの腹筋貫くとか本気すぎんだろ。オレじゃなかったら病院送りだぞ今の」

「ふん、可愛い彼女を抱き寄せながらさっちゃんにデレデレしてるからよ」

そんな可愛いふたりの女の子とオレみたいなチビがじゃれあっていれば。来ましたよ定番のやつ。

「彼女達可愛いね。そんなチビとじゃなくてオレ達と遊ぼうよ」

「そうそう、ちょうど喧嘩してるみたいだし、何でも奢るからさ。良いことしようぜ」

「はぁ、ケイの良いとこ何も知らないチャラ男が何ふざけたこと言ってんの」

いきなり氷点下の真由美様である。

「あんたらさっさと逃げたほうが良いわよ。自分の恋人をけなされた彼女が切れて何されても知らないからね。もちろん私も許すつもりないけど」

あぁ幸枝も切れてる。

「あぁまぁなんだ、仲の良いカップルと女友達がじゃれてるだけのところにダサいチャラ男が出張ってきても無駄だから怪我する前にあっち行け」

とりあえず警告だけしとく。あくまでも警告です。決して煽りじゃないよ。もちろん下は砂地で危なくないしオレとしても手加減するつもり余り無い。

案の定

「てめぇ女の前だからってチビがいきがってんじゃねぇぞ」

大振りのテレホンパンチ。『これって当るほうが難しいんじゃね?』なんて思ったのは秘密だが、頭から落として肘と肋骨の2本ほどを頂いておく。ちなみに砂地だから脳震盪も起こさなかった模様。

「んで?そっちのダサ男はどうすんの」

あ、バカな奴真由美を人質にしようとでも思ったのか手を伸ばして、うん、これはオレが手をだすまでもないね。胸部から水月、左脇腹への3連撃。当然にそのまま真下に崩れ落ちましたね。

「あ、ちょっとイラっとしたから手加減しそこねた。これ海の家の人に迷惑かな?」

ちょっと、後始末をどうしようか迷っていると

「あんたたち無茶苦茶強いね。そいつら地元じゃ手のつけられないワルでさ。みんな困っていたんだよ」

「あぁ見てたんですか?」

「えぇ、警察に連絡しようかと思って準備してたんだけど、これなら通報はいらないね。ゴミはその辺に捨てておいて、遊んでおいで。今の感じだとこいつらもうこの夏の間は悪さ出来なさそうだし、これからの書き入れ時に営業妨害が減るから助かるわぁ。なのでそのお礼として後始末はしておいてあげる」

可愛いウィンクひとつしてゴミを引きずっていくおねぇさん。まじ?笑うしかないんだけど

「なんだかすげぇおねぇさんだな」

「「そうね」」

なんだか不機嫌なふたりに

「なんか毒気抜かれた気分だけど。気を取り直して遊びにいこうぜ」


そこからは

水際で水を掛けあったり、ビーチボールで遊んだり、ちょっと向こうまで泳いでみたりしてしばらく遊んだ。

「ケイ君が泳ぎが苦手ってのはちょっと意外でした」

「人間は水の中で活動出来るようには出来てないんだよ」

そっぽむいて拗ねてみる。

「ま、あたしたち幼馴染にはおなじみの光景だけどね。ケイって泳げない訳じゃないけど、ってか本気で泳げはそこそこ速いけど、昔から水泳だけは苦手だよね」

幸枝が吹き出して

「何それ、苦手だけど下手だとは言ってないみたいなの」

「仕方ないだろ、感性の問題なんだよ。それに人間は陸上動物、水棲動物じゃありません」

みんなでおなかを抱えて笑いながらおしゃべりをして楽しんで

「そろそろお腹減らない?」

そろそろ食べたいアピールをしてみる

「そうね、あたしは焼きそばとお好み焼き食べたいな」

「そうですね、そろそろお昼ご飯の時間ですね。私は、パスタが食べたいですが……」

「幸枝、こういったビーチではパスタじゃなくてスパゲッティの方が『らしい』と思わない?通じるから良いけど。あと一応言って於くけど、海の家のスパゲッティはスパゲッティであってパスタじゃないからな」

クエスチョンマークを頭の上に浮かべた幸枝を真由美と一緒に引きずって海の家に戻る。オレはカレーライスとお好み焼きを頼んだ。それぞれに注文を済ませおしゃべりで注文の品が来るまでの時間をつぶす。注文は先払いだった。

こういうところは回転が命的な部分が大きいため注文から提供までの時間が短い。つまりは、現在のオレ達のテーブルの上は、中々なカオスになっている。

オレ達は3人。しかもその内ふたりは美少女。なのにテーブルの上には焼きそば(大盛)1、スパゲッティ(やはり大盛)1、お好み焼き(特大)2、カレーライス(特盛)1

結果、テーブルの上から皿が落ちそうなくらい満載なわけです。

うん、わけわからんだろうね。つまり、オレ達3人は食べ盛りのしかも体育会系。なのでこのくらい食べないともたない。でもさ、美少女2人が焼きそば(大盛)とは思わないじゃん普通は。まぁうちの美少女達は頼むんですけどね。それほど埋まっていない客席の周りの目が生暖かくて普段この二人と一緒の時に受ける視線の痛さじゃなくむずがゆい。が、これ放置するのはもったいない。冷める前に食べたいよな。が、そこでちょっと気づいた。

「これさ、取り皿借りてきて、みんなでシェアしね?」

「あ、いいねぇ。色々食べられて、ケイとご飯シェア嬉しいかも」

「私も良いですよ。ちょっとそういうの憧れてるところもありますし」

ということで、オレがカウンターまで行って取り皿を6枚借りてくる。

となりのテーブルは今は誰も居ないので、そこに3枚置かせてもらってそれぞれに取り皿を渡す。

「じゃぁ食べようか」

「「「いただきます」」」

それぞれが食欲を隠すことなく食べる。

「あ、真由美。その焼きそば取って」

「ケイ君、カレーライス分けてもらって良いですか」

「いくらケイでも、このお好み焼きの最後のひと切れは渡せない」

「いいよ、それじゃ幸枝、スパゲティ分けて」

などと混沌とする食事のなか。幸枝が何か悪い笑顔になった

「はい、どうぞ」

「いや、どうぞって、普通に皿に分けて欲しいんだけど」

「ふふふ、こんなチャンスを逃す分けないじゃないですか。アーンです」

「ちょ、ちょっと。ここでぶっこんでくるの?」

あれ?真由美の反応が薄い。いつもなら凄い勢いで反撃するのに。むしろ何か暖かい目で見てる?

「おい、真由美。えらく余裕だな助けてくれよ」

「ん~、あーんくらいいいかなぁって。ケイたまにはさっちゃんに優しくしてあげなよ」

「な、なんだその余裕の態度は」

「ん、朝聞いたケイの気持ちで心に余裕みたいな?」

「あぁもう。わかった。幸枝あーん」

スパゲッティを幸枝にアーンされると言う事件に幸枝も少し驚きながら嬉しそうだった。






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あまりに長くなって来たので分割

海編はタブン次話で完結……できるといいなぁ

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