第95話
「ただいまぁ」
お盆だというのに仕事に出ていた母さんが帰ってきた。
「お帰り。今日はオレが夕食つくったよ」
嬉しそうに微笑む母さんの笑顔が嬉しい
「そう、今日はケイのご飯なのね。楽しみだわ」
「すぐ暖めるよ」
とはいえ、ハンバーグは成形しただけでラップして冷蔵庫に焼かずに置いてある。別に取っておいた出汁を少し暖めながら、隣のコンロでハンバーグを焼く。焼き色が付いたところで、出汁をかけ煮込む。しばらく煮込んだところでひっくり返しさらにしばらく煮込む。
みんなの夕食でやったのと同じように盛り付け、冷蔵庫から出してきたカボチャの冷製ポタージュスープをスープ皿に出し笹身肉とアボガドのサラダを盛り付ける。
全部の盛り付けが終わったらところでテーブルに並べて
「ケイ特製和風煮込みハンバーグとカボチャの冷製ポタージュスープ、それに笹身肉とアボガドのサラダ……」
ニコニコと嬉しそうな笑顔で食事を進める母さんと今日の出来事を話しながらオレは自分で入れたコーヒーを啜る。
「それじゃぁなに、景のご飯食べた恵ちゃんと知佳ちゃんが高国高校進学に進路変更したうえ、合格後にはうちに下宿したいって?」
本当に楽しそうに笑う母さんと苦笑するオレ。
「まったく人生の選択に何を考えてるんだか。まぁ高国は良い学校だから入って後悔することはまず無いとは思うけどね」
それに対して母さんは
「あら、人生においてご飯は大事よ。それで人生の選択をすること自体は間違ってないと思うわよ。ただ自分の息子が狙われるとは思わなかったけど」
ふふふと笑う母さんは、ちょっとだけ幼さを感じさせた。実の母親に何を感じているんだと頭を振り。
「だから山田のご両親からはひょっとすると下宿の打診があるかもしれない」
「あら、近藤さんからは?」
くふふとまるで少女のように笑う母さんも父さんの亡くなった悲しみを薄めたのかなと感じた。
「知佳は却下。絶対にダメだからね。もし知佳を下宿させるなんてなったらオレ自分の部屋に鍵付けるからね」
「はいはい」
軽く返事をして
「ごちそうさま、相変らず美味しかったわよ。後片付けはやっておくから、奈月と祐君や恵ちゃんとあそんでらっしゃい」
「景にぃ、ちょっと勉強教えて」
早速受験勉強を始めたらしい恵が聞いて来た。オレで役に立つなら否やはない。
「どれ、見せてみな」
一瞬の絶句の後一生懸命考える。何故この世に英語なんて教科があるのだぁぁぁ。
それでも、さすがに中学レベルの英語はどうにでもなる。むしろ苦手教科でも中学レベルならどうにかできる連中しか高国にはいない。それでも見るのも嫌なんだよな英語。
「ここは……」
説明し、分かってもらえたようでホッとしていると。
「景にぃ、英語って得意?」
「うんにゃ、苦手教科筆頭。この世から無くなって欲しいレベル。教え方でもわからないか?」
フルフルと頭を横に振りながら返事をする。恵は、驚いた顔で
「苦手教科でこれ。景にぃって学年順位どのくらい?」
「総合なら上位3分の1に入れるギリギリだな」
「景にぃの得意科目だと?」
「ん~、数学・化学・物理・現代文なら一桁かなぁ」
目を見張る恵がちょっと新鮮だったけれど
「おい、オレってそんなにバカに見えるか?」
「そんなことない、でも陸上で結果出しながら、さっきの話だと音楽でも楽しんでるでしょ。それでいて結構遊んでるみたいだし。いわゆる成績残念系かと思ったのに」
「ひでぇな、おい。それでも英語と社会はまぁめぐの言う残念系かもだな」
「残念系の科目でもこのレベル。恐るべし高国高校……」
「そのくらいまでは努力したんだよ。努力すればどうにかなるもんだ。まガンバレ」
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