第94話
「えぇぇぇ!!それじゃなに、景ちゃんてそんなにもてまくってるの」
「そうじゃねぇから、みんな友達だから、それが偶々女の子が多いってだけだから。オレに明確に好きだって言ってくれてるのは真由美と幸枝のふたり……」
そこでうっかり言葉を詰まらせてしまった。
「お、にぃ実は他に何か思い当たる節があるね。ねねね、白状しちゃいなよ」
「何も無い何もないからな。無いものは言えないからな」
「ふぅぅぅん。『ケイを好きなひとりの女の子として応援してあげる』この台詞に思い当たる節は無いかなぁ。」
な。なぜそれを。いかんいかん。これは奈月がオレにカマを掛けてきているだけだ。台詞があまりにリアルなのには不安を感じるが……
「なんのことだ?」
「京先輩がさぁ。ちょろっと雄二さんにもらしたらしいのよねぇ」
げ、そのルートか。背中に嫌な汗を感じながら
「へ、へぇ?それってあれじゃね?オレがオーバーワーク気味だからとかって話。それなら直接注意もされたぞ」
「それにさ、花火大会の時、お礼とは言ってたけどレイさんにキスされてたよねぇ。しかも真由美おねぇちゃんの目の前で」
「女子大生のキスをお子チャマの感覚で考えるな。本当に軽い気持ちでお礼ってことでしただけだと思うぞ」
「ん~、そうかなぁ。レイさんそんなに軽い人じゃ無いと思うけど」
「そりゃむやみやたらにキスするような人じゃ無いとは思うけど。親愛の情とかでも良いんじゃないか」
「ん~……」
これ以上話しているとボロがでそうだったので話を変えてみる。
「ところで、料理の件なんだけど、今日作ろうかと思うんだけどどうだ?」
「おぉぉおにぃの料理。今日は何作ってくれるの」
突然テンションの上がった奈月に驚いた知佳が
「な、何突然。奈月ちゃんのテンションがやばいんだけど」
「だっておにぃの料理だよ。めっちゃ美味しいんだから。で、ねぇ今日のメニューは何?」
「そうだなぁ、まだはっきりとは決めてないけど、スーパーで材料が高くなければ、和風煮込みハンバーグと、サラダとカボチャの冷製ポタージュスープを考えてる。あ、知佳も良かったら食べていくか?」
それを聞いて奈月がつぶやいた
「にぃ、分かってるかな?それって胃袋掴んじゃう話だって」
おばあちゃんに今日の夕食はオレが作るって伝えて、買い物に出かけた。豚肉と牛肉を1kgずつ、パン粉はあったから良いか、カボチャは半玉ので十分足りるかな、サラダは……
一通り買い物をすませて、あとはのんびり過ごした。
午後は少し勉強をしたあと祐にぃと恵、奈月、それに知佳と5人でゲームをして過ごした。
夕方になったので、そろそろ時間とキッチンに移動する。
「さて、オレはこれから夕飯の支度をするから、みんなはそっちで時間潰してて」
まずはカボチャのポタージュ。カボチャの皮やワタをとってきりわけていく、玉ねぎや少量の小麦粉、牛乳、バターを使って味を調える、あとは粗熱を取ったら残りの牛乳を入れてミキサーで良く混ぜ裏ごしをして冷蔵庫に入れておく。
次は煮込みハンバーグ。ハンバーグは後で作るので、先に煮込むためのスープを作る。えのき、椎茸、シメジの石突を落とし、食べやすい大きさにちぎる。かつお出汁に昆布をくぐらせて作っただし汁を使って煮込むためのだし汁にしていく。
だし汁が出来たところでハンバーグつくりに入る。オレのハンバーグはひき肉を使わない、ブロックの肉を包丁で叩いてミンチにしてあわせていく。氷水に浸したボールの中で手を冷やし、あまり手の熱を伝えないように混ぜていく。タネが出来たら、程よい大きさに取り分けて形を整える。このときも手早くやって手の温度を伝えすぎないことに気を配る。ハンバーグの形が出来たら、表裏をサッと焼き目が付く程度に焼いて、だし汁、醤油、みりんをいれ、きのこを追加して煮込む。少し煮込んだところでハンバーグを裏返してさらに数分煮込む、竹串を刺して焼け具合を確認。ハンバーグを器にとりわけ、残っただし汁に片栗粉でとろみをつける。これで出来たあんをハンバーグにかけてきのこ等の具を分け入れて出来上がりだ。
「出来たよ」
ダッシュで来たのは奈月。目がランランと輝いている。獲物を狙う肉食獣の目のようだ。おじいちゃん、おばあちゃん、祐にい、恵、知佳と集まったので、配膳する。
「ケイ特製和風煮込みハンバーグとカボチャの冷製ポタージュスープ、それに鶏笹身とアボガドのサラダ、自家製シーザードレッシング掛けです。ハンバーグが冷めないうちに食べてもらえると嬉しい」
「「「「「「いただきまーす」」」」」
声がそろった。さてオレ特製煮込みハンバーグの味はどうかな。うん美味しい、オレ好みの味に仕上がってる。周りを見ると、おぉまるで欠食児童のように食いついている祐にい、呆けたようになっている奈月と恵そして知佳。おじいちゃん、おばあちゃんもニコニコと嬉しそうに食べてくれている。
「どうかな?」
「「「「「「おいしい」」」」」」
「うん、気に入って貰えて良かった」
恵が
「景にぃ、景にぃの家にいたら景にぃのご飯がいつでも食べられるの?」
「いつでもとは言わないけど、週に何回かは作ってるかな」
むむむむと、恵が何かを考え始めた。
「景にぃ、景にぃは高国高校まで歩いて通っているって言ったよね」
「おぉおう。なんだいきなり」
「高国高校の合格ボーダーはどのくらいだったっけ?」
「ん?だいたい偏差値65あたりだな」
さらに恵は、むむむむむと唸り始めた。
「景にぃ、今あたしの偏差値55くらい。今から頑張ったら高国に行けると思う?」
「あぁそういうことか。良いことを教えてやろう。オレの彼女は中学3年の1学期6月位まで偏差値50くらいだった。そこから超頑張って高国に合格したぞ」
「む、それはとても励みになる。あたしも高国志望に変える。そして景にぃの家に下宿させてもらう。そうすれば景にぃのご飯がむふふふ」
「おい、めぐ、気持ち悪い顔になってんぞ。そもそもうちに下宿とかオレの一存じゃ決められないからな。そっちは山田のご両親とうちの母さんに許可取れよ」
それを聞いた知佳が
「あ、あたしも景ちゃんの家に下宿させてほしい」
「おまえはダメだ。オレの貞操が危険を感じる。どうしてもというのならまずオレを諦めろ。まずはそこからだ」
「そ、そんな」
知佳が、がっくりと項垂れる。
「そこまでしてオレの作った飯を食べたいものかねぇ」
つぶやくと、奈月が
「にぃ、にぃの料理はチート」
「チート言うな」
とりあえず奈月にチョップしておいた。
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