第93話
近藤知佳。オレ達幼馴染4人が、いやオレ達2家族が幸せだった頃。まだ普通に田舎に帰って来れていた頃、帰ってくるたびに一緒に遊んでいた奈月と同級生の女の子。当時は結構仲が良かった記憶がある。実家で遊んでいたという事は、この近くに住んでいるということで、ここで遭遇しても何も不思議は無いんだけれど。ばあちゃんの今朝の話でちょっと意識してしまう。それでも何も返事をしないわけにはいかず。
「おぅ、久し振り。なんとかな。乗り越えてきたよ。長い事来れなくて悪かったな」
奈月も
「知佳ちゃーん、久し振り。中々来れなくてごめんね」
それに対して知佳も
「うぅん。二人の事情は聞いたから。仕方ないって思ってた。でも今年来れたってことは……」
「ん、どうにか乗り越えた。周りの人のおかげが大きいけどな。やっと前を向けたよ。これからは普通に来られると思う」
知佳は華が咲いたかのような笑顔を見せた。
「うれしい。これからはまた、前みたいに一緒に遊べるのね」
微妙な表現だが、これはまだセーフだろう。けど、一応探りはいれておこう
「前みたいっても、さすがに小学生の頃と一緒って訳にはいかないだろ。知佳にも彼とか、彼じゃなくても好きな相手とか居るだろうし」
きょとんとした顔で知佳は爆弾を投げてきた
「え?私の好きな人って景ちゃんだよ。前にも言ったじゃん。忘れたなんて言わさないからね」
実は思い当たることはあるにはある。けれど……
「あれは、怖い事があってたまたまオレが助けたから、その時思った勘違い的なヤツだろ。人間の脳はそういうふうに出来ているから」
おそらく吊橋効果だろう。それを何年も引きずっているのにはちょっと疑問はあるが、あれは本来2年未満で収まるはず。
「なんでそんな事言うの?私はあんなことより前から景ちゃんの事好きよ」
仕方ないな。これは関係が壊れるかもしれないけど真由美を裏切る事は出来ない。同じように思いを寄せてくれている幸枝も裏切る事は出来ない。
「ごめん、オレには今付きあってる彼女がいる。ここに戻ってこれるようになったのも彼女のおかげも大きいんだ。大好きだし大切にしたいと思っている」
奈月が横で何か言おうとしたのを手で制して。これはオレが言わないと行けない事。
「知佳の気持ちは嬉しい。でも知佳と付き合うことは出来ないよ」
知佳は、俯き何かをこらえるようにして
「小さい頃からずっと抱えてた想いを簡単に諦められない。あたしを幼馴染と思うのなら少しは考えてくれても良いんじゃない?」
「幼馴染……」
そこに助け船をだそうとしてくれたのは奈月
「知佳ちゃん、知佳ちゃんも確かに幼馴染かもしれない、でもね」
「いい、奈月オレが言う」
知佳に向きあって
「今からオレは知佳にとって凄く嫌な事を言わないといけない。けど、分かってもらうには必要みたいだから話すよ。まずオレにとって知佳はここに来た時に一緒に遊ぶだけの仲のいい友達の1人でしかなかった。だって考えて見てくれよ、前にここに来たのは俺が小学校5年なんだよ。恋愛感情なんてものがオレの中にあることすら気づいてなかったよ。それに幼馴染って言われれば、確かに幼馴染の枠かもしれないけど、年に数日仲良く遊んだ程度の幼馴染なんだ。それに対して真由美はオレの彼女は生まれたときからずっと横に居た。隣の家に生まれて家族ぐるみで仲良くして、例の……例の事件の時も一緒にいて、同じ痛みを同じ苦しみを抱えて慰め合い、支えあった幼馴染なんだ。そういうところも悪いけど比べられない」
「……」
知佳は何か言おうとしたけれど、言えずに黙ったまま俯いた。
「だから、ごめん。知佳の気持ちは嬉しい。長年抱えていてくれた気持ちに応えられないのは申し訳ないとは思う。でも……」
オレがそこまで言ったところで
「わかった、今景ちゃんの心の中に入るのは無理だってのはわかった。でもね、あたしだって簡単にはあきらめないからね。来年景ちゃんの後輩になって目いっぱいアタックするんだから。覚悟しておいて」
「な……」
奈月の瞳が輝いた
「にぃハーレムが拡大したよ」
悪い笑顔でドヤ顔の奈月の前に、がっくりと膝を落とすオレがいた
「なんでこうなる?」
「まぁにぃだから。あきらめろん」
そして、何かに気づいたように奈月は知佳に向き直って
「でも、知佳ちゃん。にぃのハーレムに来ても知佳ちゃんの持ってる属性全部埋まってるからね」
「奈月ぃ、まだ言うか」
「あたしの属性??」
何を言われたのか理解が追いついていない知佳が頭の上に??を浮かべていた
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