第138話

「さあ、お題を今係が確認しています。おぉ女の子が頷いていますね。では係の方お題を読み上げてください」

一瞬の間を置き読み上げられるお題。

「あなたの事を好きな異性。ただし彼氏彼女を除く」

まったく鬼畜なお題だ。誰だこんなお題を考えたのは。

「幸枝、ごめんな。恥ずかしかっただろ」

ところが幸枝は何故か満面の笑みだ。

「だって……」

幸枝が何か言いかけたところに

「では後続は時間がかかっているようですので、1位でゴールしたおふたりにインタビューをしてみたいと思います」

なんだと。駆け寄ってくる実行委員の前を塞ぐように立つ。

「ふざけんなよ。こんなお題ってだけで彼女がかわいそうなのに、なにさせようとしてんだ。悪乗りもいい加減にしてくれ」

あ、くそ、向こうはマイクの電源を入れたままかよ。セリフが放送されてしまった。まぁこのお題で出てくれるように頼んだオレもあまり人のことは言えないんだが……。ここは心に棚を作る。自分の悪行は棚の上に上げて。これ以上は、と思っていると。顔を真っ赤にしながら幸枝が花が咲いたような笑顔で

「ケイ君。大丈夫です。インタビュー受けましょう」

「でも……」

「大丈夫ですよ」

幸枝がそこまで言って答えるのならばと

「わかった」

そして係に向きなおって。

「本人が大丈夫と言っているので受けるけど、限度はわきまえてくださいよ」

そしてインタビューが始まる。

「では、まず選手の方にお聞きします。学年組名前をお願いします」

そこからか。溜息ひとつのあとで

「1年B組伊藤景です」

「では、こちらにつれてこられた、あなたもお名前をお願いします」

「1年E組加藤幸枝です」

「さらにズバッとお聞きします。ほんとうにお付き合いされていないのですか」

「幸枝は友達です。オレには別に付き合っている彼女がいます」

「伊藤さんは、こう言われていますが、加藤さんいかがですか?」

「そうですね、ケイ君とは仲のいいお友達ですね。ケイ君の彼女とも仲良くさせてもらってます」

「でも伊藤さんのことが好きだと?」

「はい、大好きです。2番目でもいいのでおつきあいして欲しいんですけど、何度アタックしても断られているんですよね」

幸枝は満面の笑顔であっけらかんと宣言するように答えた。

「加藤さんの熱烈な大好き宣言でした。では、伊藤さん。これだけ熱烈な告白ですが受け入れる予定はないのでしょうか」

「なんで、そこまでのインタビューに答えないといけないのか分りませんが、今のところ受け入れるつもりはないです。オレの事を好きだって思ってくれていることは嬉しく思っていますけど、幸枝にも諦めてくれって何度も言っています」

「伊藤さんはこういわれていますが、加藤さんは諦めるつもりはないのでしょうか」

「諦めませんよ。なので申し訳ありませんが私にお付き合いを申し込まれても全てお断りします」

いい笑顔で宣言した。

「そろそろ次の選手がゴールに向かい始めましたね、これでインタビューを終わります。伊藤さん加藤さんありがとうございました」


順位が確定しクラス席に戻る途中、

「幸枝、あれは狙ったのか」

「あれってなんですか」


通りかかったE組の席では

「さっち、言ったね」

「さっち、がんばった」

「きゃー公開告白するなんてさっちゃん……」

等々騒ぎになっていた。ついでにオレに対する男子の突き刺さる視線も凄いことになったが、まあそれは甘んじて受けよう。視線じゃなくリアルに来たら返り討ちにするけど。


そしてB組のクラス席に戻ると。真由美がさっそく左腕にぶら下がるように抱きついて

「ケーイ、今のさぁどうするの」

「どうするって何を?」

「真由美ちゃん、多分ケイ君今の気付いてませんよ」

「レイさん、随分だよね。まるでオレが鈍感系の主人公みたいな扱いになってない?」

「ケイ君、さっきのあなたの行動はね、このグランドにいる女の子みんなをキュンってさせちゃったと思うわよ」

「よ、葉子さんまで。何をいったい」

「さっきのインタビュー」

「え、普通に答えただけだと思うんだけど」

「の前」

「前?」

それを奈月が引き継いだ

「実行委員がさっちゃんねぇにインタビューしようとして駆け寄ったときに、にぃはさっちゃんねぇの前に立ってさっちゃんねぇを守ったでしょ。あれは言ってみればプリンセスとそれを守るナイト。あのシチュエーションにキュン死しない女の子はいないの。しかもそれでいて真由美ねぇに一途なとこをきっちり見せて。つまり懐に入れた女の子は彼女じゃなくてもプリンセスとしてかっこいいナイトに守ってもらえるってことでしょ。そのまえのリレーでは圧倒的な強さも見せちゃってるし。にぃ明日から、なんなら今日から覚悟したほうがいいよ」

「えと、それ結構やばいやつ?」

「たぶんガチでやばいよ」

「でも、オレちゃんと彼女がいて幸枝を振ってるって言ったよね」

「にぃ、あれはちょっと違うふうに取られる。あたし達は、知ってるから分るけど。あれは彼女という名前はないけどちゃんと付き合ってるに見える」

「いやいや、ないだろ。それに仮に付き合ってるように見えたらなおさら無いだろ」

「にぃ、そろそろにぃ自身のハーレム体質を理解すべき。もうひとつ言えば、これからにぃは自分のかっこいいところを披露するよね」

「は?」

「にぃが出る種目はあと部対抗リレーでしょ」

「おう、そうだけど?」

「しかもかなりのハンデ付きでのリレーだって聞いてる」

「まぁ普通ならハンデかもだけど、今回のメンバーなら別に」

「うん、にぃたちメンバーがどう思っているかじゃなくて、周りがどう見るかなの」

「それで?」

「もうあきらめろん」

絶望的な顔で真由美をみると、諦め顔で

「うん、そこはもう諦めるしかないとこね。せめてあたしとの関係をアピールして少しでも被害を少なくするくらいしかないかなぁ」

それを聞いた周囲のクラスメート達が

「自販機のブラックコーヒーを買い占めだ。みんな金を出し合って砂糖対策をするぞ。明日からは飲み物は砂糖抜きのストレートコーヒーを水筒に詰めて来るんだエスプレッソなら最高だぞ」

と騒ぎ始めた。おい、あまえらすごいノリがいいな。

などと騒いでいるうちに昼食時間。


オレ達はいつものメンバーで食堂のテーブルを囲んでいる。学食は営業こそしていないが昼食用にスペースを開放しているためそこで食事をとあつまっている。テーブルには3段重箱弁当をはじめ、タッパーや大き目の弁当箱に詰め込んだ弁当を広げてある。このために朝から準備した手作りだ。

から揚げ、サイコロステーキ、エビフライ、卵焼きは甘いのとしょっぱいの両方を作ってみた。長いもフライに、アスパラベーコン巻き。お遊びのタコさんウィンナー、プチトマトとマカロニサラダ。おにぎりは定番の梅、シャケ、おかか。太巻きすしはキンピラ、卵焼き、カンピョウ、きゅうりに沢庵。デザートにはカットフルーツ(りんご、オレンジ、いちご、キウイ)を準備した。

「さぁこのために頑張って作ってきた弁当だ。みんな遠慮なく食べて」

そういって取り皿と箸を配る。レイさんや葉子さんは

「あ、あたしたちまで良いんですか」

と遠慮するけれど、きてくれているのに別にするわけない

「ふたりの分もあります。むしろ食べてくれないで残ると困るかも」

と言ってすすめる。飲み物はペットボトルのお茶で我慢。

「じゃ、いただきまーす」

そこからは戦争。

「サイコロステーキ5つ目は取れなかった」

と奈月が肩を落とし、いや4つなら十分だろ。

「卵焼きは甘い派だったんだけど、しょっぱいのも美味しいねぇ」

と、葉子さん。

「ほらぁそうでしょ。しょっぱいのも美味しいでしょ」

と同士を見つけて喜んでいるレイさん。

真由美と幸枝は黙々と狙いを定めては口に運んでは『にへら』と笑っている。

雄二も遠慮していたら食べ損なうとどんどん箸を動かして消費している。

弁当がきれいに消費されたので準備しておいたガトーショコラをひとり一切れずつ配る。

「おぉぉ。にぃ、こえはにぃの手作りガトーショコラちゃん」

「ケイ、最高」

真由美が目を輝かせ

「「く、ケイ君の女子力に目がくらむ」」

と女子大生ふたり組みが訳の分らないことをつぶやき

「ケイ君、私、胃袋も捕まれました。もうケイ君なしでは生きられません。彼女にしてください」

ここで安定のポンコツ具合を披露する幸枝を

「このくらいでさらっと告白してくんな」

とチョップで止める。

そこからは今日の感想など雑談で笑いながらすごした。


そこここからの密やかな視線に気付かなかったのは視線になれすぎたからだったのかもしれない

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