第87話

幸枝からのサプライズキスで動揺はしたもののなんとか立ち直り海の家に戻った。

少し日が傾きかけている。この楽しい時間もあと少しで終わり。なら、せめて今を楽しもう。ということで。

「あそこでバナナボート乗れるみたいだよ。行ってみない?」

平日ということもあり、オレ達3人だけで乗ることに。1番前に幸枝、2番目にオレ、一番後ろに真由美の順で乗ることに。順番きめは単にじゃんけんで決めた。レジャーボートで引っ張るバナナボート。ぐんぐんスピードを上げる。

「うひょぉ」

「きゃぁはやーい」

「きゃはあぁ」

3人が悲鳴を上げる。急ターンをするが、3人とも体力があるため、そう簡単には落ちない。

「ひゃっほー」

「わーい」

「どんとこーい」

しかも慣れてきたため悲鳴でなく、普通に叫んでいる。

ボートの操縦もどんどんハードになっていく。おぉぉ、ターンで前のターンの時に残った波に乗り上げバナナボートがジャンプする。

「ひゃっほい」

「うわぁい」

「おぉぉぉ」

む?そろそろ幸枝が落ちそうかな?次にドーンと来たジャンプでここまで耐えてきた幸枝が落水しかける。オレがぐいっと腰を支えてもとの姿勢に。むぅ結構大変だ。これ以上キツイのだと支えるのは無理かなぁ。と思っていると。ボートが徐々に減速し始め。岸に向かう。

「はーい、ここまででーす」

3人ともニッコニコで

「面白かったぁ」

「迫力ですねぇ」

「ジャンプとかすごかったね」

と興奮気味に感想を言い合っていると。

「はーい、お疲れ様でした。君たち凄いねぇ。誰も落ちなかったじゃない。」

「あはは、私はほとんど落ちかけたのを助けられましたけどねぇ」

「そんな君たちに記念撮影と次回特別割引権プレゼントだよ」

「おぉぉやったぁ」

「また来ような」

「うんうん、今度はレイさんや葉子さんも一緒にこれると良いですね」

「あのさ、そういうメンバーの広げ方されると奈月に言われた事が胸に突き刺さるんだが」

「「なっちゃん?」」

「あぁ、こないだの花火のときに言われたんだよ『周りがいつの間にか美人だらけなんだけど、ラノベのハーレム主人公になったの』ってな」

ふたりが吹き出した。

「「ラ、ラノベのハーレム主人公~」」

「そんなに笑うことないだろ」

「「そ、それはククク。むりぃ」」

笑い転げるふたり。

「それにさ、俺自身はそんなつもりは全く無いし、多分レイさんも葉子さんもそんな気持ちは無いと思うんだけど。端から見たらと客観視したらさ。今のオレの状態に誰かがいて、オレがそれをみたら……」

「プ、クククダメ我慢が……」

「ま、それにしたって夏休みのあいだにまた来れたら。だけどな」

実際のところ気軽に来るには少々遠いか。笑いすぎで涙目になっているふたりを連れて海の家に戻る。海の家の時計を見るとそろそろ4時を回る。

「じゃ、そろそろ着替えるか」

「名残惜しいですけど、しかたないですね」

「ま、また来ようね。今度はハーレ、ププププ」

よほどハーレム主人公が気に入ったらしい真由美は最後まで笑いが止まらなかった。

着替え終わり。バス停前、

「次のバスまであと30分もある……」

そこで幸枝の声が

「じゃぁ、あそこの丘から海を眺めて時間潰しませんか」

見ると海水浴場の駐車場の向こうにちょっとした丘があり、展望台のようになっている。オレ達は今日の感想を話しながら展望台に向けてのんびり歩いていた。そこに急にエンジン音を唸らせ突っ込んでくる車が1台。ドライバーのパニックになった顔がはっきり分かる。オレ達のいる場所の少し向こうを通過しそうだが、そこには人がいた。小学生くらいの男の子が車のエンジン音に驚き、向かってくる車の恐怖に身体が動かないようだ。それを見た瞬間、過去の景色がフラッシュバックする。宵闇の中散乱する何かの欠片。その中に血まみれで倒れている数人の男女。動かない身体を引きずって這い寄る自分の手も血に染まっている。

気付いたときには身体が動いていた。ダッシュで子供に向かう、安全な場所に押し出す時間は無い。その子供を抱え込み軽く上に跳ぶ。車のボンネットに右脇から落ちる、そのまま背中からフロントグラスに叩きつけられ跳ね上げられ車の上を超える。さすがに足から着地する余裕は無い。せめて子供をオレの腕の中で守る。地面に背中から落ち、そこから先は記憶が途切れた。



気付いた時にはベッドの上に寝かされていた。

「う、ここは」

横から声が聞こえた

「あ、ケイ目が覚めた?」

「真由美か。オレはいったい」

「覚えてないの?」

言われて思い出す

「あの子供は……」

起き上がろうとしたオレを真由美が押し戻す。

「大丈夫、あの子は無事よ。ケイがちゃんと守れたから。ケイはもう少し寝てて。ちょっと待っててね。さっちゃん呼んでくる」

そうか、あの子は助けることが出来たか。ホッしながら周りを見回す。どうやら病院のベッドのようだ。それも個室か。3人分の海水浴の荷物が部屋の片隅に置いてあるところを見ると、気を失っていたのはそれほど長い時間ではないようだ。

バタバタと足音がしたので出入り口を見ると。そこに見えたのは医者らしき男性と看護師らしき女性、真由美、幸枝、それにオレが助けたと思われる子供、その子供の手を引く女性。女性は子供の母親だろうか。

医者らしき男性が

「ふむ、伊藤さん、ご自分の状態は分かりますが」

「そうですね。海水浴場の駐車場で暴走してきた車がいて、たぶんそちらのお子さんを抱えて車に撥ね飛ばされ、地面に背中から落ちた。でその後は意識が無かったと思います。そしてここは多分病院ですかね。ここのベッドで目が覚めたところ。自己診断では、軽い打撲が数箇所って感じですかね。これであってますか」

「すばらしい、かなりの勢いで跳ね飛ばされたと聞いています。その状態で軽い打撲で済んでいるというのはかなり運が良かったですね。一番酷いのでも左わき腹に5センチほどの打撲跡があるくらいですね」

ん?左わき腹?オレの記憶が確かならば車には右から……

真由美を見る。スッと目をそらしやがった。すげぇな暴走車との激突よりダメージのでかい肘撃ちかよ。思わず笑みが漏れる

「くくく」

「どうされました?」

「いえ、覚悟していたより怪我が軽かったもので嬉しくなって。それより、お子さんに怪我は?」

「あぁ、ほぼ無傷でしたよ。擦り傷が少しあったくらいです」

「良かった。痛い目をみた甲斐がありました」

「念のため今日は一晩入院してください。朝まで異常がなければ退院で大丈夫です」

「ありがとうございました」

医師が去ると子供と女性が近づいてきた

「あ、あのおにいちゃん、助けてくれてありがとうございます」

「うん、どういたしまして。君は痛いとこは無いかい。お医者さんは擦り傷くらいって言ってたけど大丈夫かな」

「はい、おにいちゃんが守ってくれたのでどこも痛くないです」

「それは良かった」

にっこり笑うと、その子も笑顔を見せてくれた。うんよかった。ここでそこまで黙って聞いていた女性が

「ありがとうございます。あなたのおかげでこの子が怪我をせずに済みました。いえ、あの状況ではあなたが助けてくれなければこの子は命さえ……」

そういうと涙を流し言葉がでなくなった。

「うん、その子を守ることが出来て、オレとしても嬉しいです」

「その、これ、今日必要と思われる身の回りのものです。使ってください」

「あぁ、そういうの助かります。使わせていただきますね」

「では、私どもはこれで失礼します。明日の朝またうかがいますね」

「おにいちゃん、バイバイ。またね」

「おぉ、またな」

ふたりは部屋を出て行った。次は真由美と幸枝からの説教だろうなぁ

「ケイ、あたしは凄く怒ってる。わかる?」

「うん。そうだろうね」

「でも、それ以上に今はほっとしているよ。ケイの怪我が大したこと無くてよかったって」

「うん、そうだな、オレは車には右側から落ちたつもりだったけど、一番酷かったのが左脇腹だっていわれたくらいだからね」

ニッコリ。

「う、それは……」

「まぁそれはそれとして、家に連絡したいからスマホ取ってくれないか」

家に連絡を入れると、驚かれたものの人助けで自分も軽い打撲程度と言ったら褒められた。特に異常も感じないし明日には普通に帰られると思うと伝え真由美が横にいるから来なくてもいいよと伝えた。大人に平日の夜は大変だからな。

真由美も家族に連絡を入れていた。

「あたしも今日は一緒に泊まるからね」

ふと見ると幸枝もスマホでなにやら連絡を入れていた。

「そう、そう。だから私も病院に泊まるから。病院だから変なことは無いから……。うん大丈夫。明日には帰るよ」

「あぁ幸枝も泊まっていくのか?」

「うん、いいでしょ」

「良いけど、おまえらどこで寝るつもりだ?」

「「ケイの(ケイ君の)横」」

やっぱりね。そうだと思った。

それからふたりは近くのショッピングセンターに行き着替えと食べ物を買ってきた。

買い物から帰ってきたふたりがいきなり目の前で着替え出したのでバッと後ろを向き目をそらした。こいつらオレの反応を楽しんでいるな。

夕食はオレの病院食を見た瞬間にかわいそうな目で見てきたふたりが、買ってきた弁当をシェアしてくれたので味気ない病院食だけで済まさずに済んで嬉しかった。

そこからは楽しかった今日の思い出話や部活の話で時間をつぶした。

夜10時、病院の消灯時間。普段こんな時間に寝ることの無いオレ達だが、消灯となっては止むを得ない。3人並んでベッドに横になる。

「ケイ」

真由美が声を掛けて来た。

「うん、どうした」

「思い出しちゃったんでしょ」

横で幸枝も聞いているが、元々幸枝には話すつもりだった内容だし、かまわないか

それでも幸枝が問いかけてきた

「思い出したってどういうことですか」

それに答えて

「オレ達の過去について話すって言ったの覚えてる?」

「ええ、私を信用してくれてるから、それでも覚悟が決まったら話してくれるって」

「ちょうど良い機会だから少し長い話になるけど聞いてくれるかな」

幸枝は非常灯の薄暗い明かりの下でそっと頷いてくれた。

「オレ達、というか伊藤家と森下家はお隣さんでさ、親同士も凄く仲が良かったんだ。しかも同じ年に生まれたオレ達と妹の奈月は、ほとんど兄弟姉妹みたいに育った。どちらも親が忙しかった事もあって、どちらかの親が出張だったり深夜残業だったりすると親の居るほうの家でご飯を食べて風呂入って寝る。そんな生活だったよ。で、実はオレと真由美と雄二は3歳頃から真桜光という空手道場に通っていて、それなりに頑張っていたんだ。真桜光は実戦空手だけど、さすがに幼児にフルコンさせることは無かったみたいだったかな。でもオレ達が小学校にあがるとガチガチの防具を着けさせられた上でアリアリルールのフルコン空手を叩き込まれたよ。オレ達3人は向いていたんだろうね、小学3年になった頃には中学生までなら負ける事は無くなっていた。でも大会は出ても大体1回戦負けだったなぁ。」

「え?中学生より強いのにですか?」

「まぁどっちかと言うとフルコンルールでしかやった事がない人間が寸止め空手とか無理だったということかな」

「ケイはっきり言ったほうが分かりやすいと思うよ。あたしたちは普段寸止めなんて絶対にしなかった。そんな人間が緊張する試合で組み手をしたらね、寸止めのつもりが全部当たるのよねぇ。しかもなまじっか強かったのでその程度の試合に出てくる相手には一撃必殺なわけで」

「あぁもうハズイからそこはごまかそうと思ったのに。そう、全部1撃目の目測間違えてというか普段道理にしか動けなくて、最初の3秒で反則負け。しかも公式には反則負けだけど、真桜光では誰も攻めない、むしろ普段の稽古が染み付いているからだからと褒められるわけ。今なら一応寸止め出来るけど、当時はねぇ。あ、真由美は今でも本気になると寸止め無理だったな」

「もうぅ、そこは今は良いでしょうがぁ」

真由美の頭をワシワシする。

「ここまではオレ達幼馴染が幸せだった頃の話なんだよ」

「だった?」

「そ、『だった』。数年前に地元で性質の悪い暴走族が暴れ回っていたのは知ってる?」

「え、えぇ。口にするのも憚られるような人を人とも思わない犯罪集団だったって聞いてます」

「あれは、オレ達が小学校6年に上がる春。オレ達は真桜光の中でも大人含めてもほとんど負ける事のないくらいの実力になっていたんだ。総合力の真由美、力の雄二、速さと技のオレってね。で、今となっては恥ずかしいんだけどさ、周囲から二つ名で呼ばれるようになってたんだ。真由美が鬼百合、雄二が戦鬼、オレが風鬼、三人そろって三鬼ってね」

「三鬼?ですか?双鬼でも四鬼でも無くですか?」

「そう、三鬼。その辺りの事情はあとで出てくるから。で、小学6年に上がる春、地元の繁華街で夜にオレ達2家族揃って食事会をしたんだ。その帰り道で……ぐぅ、あいつら……」

ここでオレはフラッシュバックに襲われ言葉が途切れる。そんなオレを真由美は同じ悲しみを抱える俺の恋人は抱き寄せ慰めてくれる。

「ケイ君、大丈夫ですか。つらいなら話さなくていいですよ」

「大丈夫、ちゃんと話すよ。ふぅ、真由美もありがとう」

「大丈夫?あれはケイが一番まともに見てしまっているから。あたしや兄貴は意識を飛ばされて実際に目にしてないからそれほどじゃないけど、ケイは見ちゃってるから……」

「うん、大丈夫。そんなオレ達が横断歩道を渡っていた時、意味も無くやつらが繁華街の道路を暴走して来たんだ。あとから監視カメラで確認した警察の話を聞いたけど、あんな場所を100キロを超えるスピードで突っ切ったらしい。そんなやつらの目の前をのほほんと幸せそうに歩いていたのがオレ達2家族でさ、一切の減速なしに跳ね飛ばされたんだよ8人全員が」

幸枝が息を呑む気配が伝わってきた。

「オレは当たりかたなのか落ち方なのか分からないけど比較的マシだったらしくてね、気を失わずに済んだんだよ。その時の絶望感は……だってほんの数秒前まで笑っていた大好きな家族が血だらけでアスファルトに転がってるんだぜ。周りにはなんだか分からないものの破片が散らばっててさ、体は痛いし皆を助け起こしに行きたいのに身体中痛くて動けなくて、アスファルトの上に血溜まりがどんどん広がって行くのを見てるだけしか出来ないんだ」

オレは血を吐くような気分で言葉にした。

「結局さ、うちの親父と真由美たちのお母さんは持ちこたえることが出来なくて。オレ達8人家族は6人になってしまったんだ」

「ケイ君」

「うん、大丈夫。普段はちゃんとできるくらいまでは立ち直ってるから。その事故、じゃないなあれは虐殺だね、では、話に聞いたところだと他にも10人以上が亡くなって新聞でも大分大きな騒ぎになったらしいけどね。オレ達は骨折と全身打撲で入院してたから、まともに動けるようになるのに1ヶ月以上掛かったかな。それでもオレ達6人は生き延びた。で、それから片親が亡くなってしまったオレ達家族は、オレ達3人は共依存関係に、奈月はオレに完全に依存してしまった。これは心が壊れないための自己防衛だったと今なら思えるけどね。学校でクラスで別れる時以外はオレ達は常に一緒にいたよ。一緒に居ないと何かが無くなりそうで壊れそうで怖くてね。でも、そんなオレ達が常に一緒に居られなくなった。そう、ウチが引っ越したんだ。当時は相当に嫌がったよ。森川の家に住むってゴネるくらいにはね。かぁさんも色々事情があって家を手放して今の家に引っ越したのが6年の夏さ。その頃にはオレも身体は回復してたけど、真桜光は辞めてあいつらに復讐することばかり考えるようになっていた。その頃に名前さえ付いていない、オレの無慈悲な技を考え付いて神社の片隅で人形相手に動きを造っていったんだ。」

「あの頃のケイって結構無茶やってたよね。自分の身体を実験台にして色々やってたでしょ、関節はずれたぁとか、頭うったぁとかしょっちゅう言ってたものね」

「あはは、だって他の人を実験台にするわけにいかないじゃない。それで色々、人体の構造とか急所とか勉強したし、色々な格闘技の動きや技を参考にしたりね。だからオレのは空手であって空手じゃないんだ。そうは言っても所詮は小学生だからね、復讐のふの時も出来ないまま時間だけが過ぎて、それでも時間薬が少しだけ心を癒してくれたから中学に入ってオレと雄二は野球部に入った。真由美はバスケット部だったっけ?」

「そう、あの頃は色んな物が事故を思いださせて。それでも空手だけは続けていたね、あたしと兄貴は。本当はケイにも一緒に居て欲しかったけど……」

「で、順調に実力を付けた雄二と真由美はフルコン系の全国大会で一般の部に出場して、雄二が4位、真由美が5位になったんだよな。その頃はもうオレは居なかったから3鬼じゃなく、双子の鬼、双鬼って呼ばれてるようになっていた。」

「じゃぁ新見さんの言っていた双鬼ってのは」

「間違いなく真由美と雄二だね」

「でも4鬼ってのは」

「うん、それも少しあとで出てくるから。で、その夏にさ、また例の連中が暴れてるって話が聞こえてきて、居ても立っても居られない感じで、それでも何ができるか分からないそんな状況だったんだ。それでもある程度の情報は集まっていてさ、やつらの溜まり場が繁華街そばの廃工場だとか、やつらがヤバイ事をやる時に使う場所が空き倉庫やら空き店舗やらで5箇所あるとか、やつらの人数がだいたい35人だとかね」

「で、それを襲ったの?」

「違うよ。本当は、バラバラになったところを一人一人闇打ちでもしようと思っていたんだけどね。そんなときに友達の女の子がそいつらに連れ去られてさ。放置したらどうなるかは火を見るより明らかだったわけで、雄二にだけ、行き先を話してやつらがヤバイ事をするときに使う場所を回ったんだ3箇所目で友達を見つけてさ、幸いその子は少し怪我はしていたけどそれ以上のことはされてない感じだったんだけど、でも縛られて床に転がされて居るのを見たら、あのときの風景がフラッシュバックして、気が付いたときには突っ込んでいた。10人以上いたのにね。真桜光でも1人で対処できる人数は3人まで、それ以上に襲われたら一人二人を打ち倒してその隙に逃げろって教えられていたのに。その時はそんなもの完全に頭から抜けてて、何人ぶちのめしたか分からないけど、しばらくしたら横に雄二が居てさ、後ろに真由美がいたんだ。怒られたよ『何故呼ばない。オレ達3人で3鬼だろう』ってね」

「そこからはケイ無双だったんだよ。ああいった乱戦だとパワーやバランスよりスピードだね、あいつらはケイのスピードに全く着いていけなかった。で、徐々にあたしたちがバックアップでケイがやりやすくしていることに気づいたんでしょうね。こっちを標的にし始めたの。とは言っても、あたしたちも一般全国級の力はあったから、そう簡単にとっぱされなかったんだけどね。流石に長時間やりあってたから疲れからか集中力がちょっと乱れて、その一瞬であたしにあいつらの中の誰かのナイフがかすってね。もう今ではうっすらとしか分からないけど、これがその時の傷。それに気づいたケイが変わったの、それまで相手を翻弄してヒットアンドアウェイ的にやってたのが、殴られようが蹴られようがお構いなく、物凄い勢いで本当に無慈悲な攻撃をね。今日ナンパしてきた人いたでしょ、あいつは下が砂地だったから平気だったけど、あれを下がコンクリートの床で使い始めたの。あれだけじゃ無いけど」

「あの時はもう真由美を守りたいだけでいっぱいいっぱいでね、自分が怪我するとか、相手の命がとか分からなくなってて、結局3人とも何箇所か骨折と打撲でフラフラになったんだよな」

「え、それじゃぁ」

「あぁ大丈夫、全部終わったらそんなだったってだけだから」

「とにかく友達をそこから連れ出して、その日の事は内緒にしてくれるように頼んで、怪我のこともあったから京先輩にいろいろ聞かずに治療してくれる医者を紹介してもらってさ。後で聞いたのは、あれであいつらが壊滅したってことと、オレ達の呼び名がいつの間にか3鬼から4鬼に変わっていた事かな。噂レベルなんで詳しい事は分からないけど、なんか障害が残ったのが何人かとか死んだやつが居たとか流れてきてさ。あの子を助けに行った事自体は後悔しなかったけど、死んだかもって話を聞いたら、オレもあいつらと一緒なんじゃないかって……ね。後は怪我が治って少ししたら小谷野先生に無理やり陸上競技場につれていいかれて、今に至ると。ま、これがオレ達の黒歴史。今日のあの子を助けたのだって実は親父達が亡くなったシーンがフラッシュバックしてね、勝手に身体が動いてたんだ。あれはあの子を助ける事で自分を助けてただけなんだよ。自慢出来る様なものじゃないんだ」

「ケイ君、君って。君たちって」

幸枝が泣いていた。

「いや、もう乗り越えたことだから」

「でも、うん、こんな大切な事を教えてくれてありがとう。ケイ君の事知れてよかったよ、もっと好きになった。こんなことを一緒に乗り越えた真由美ちゃんより上にはなれないかもしれない、でもあたしも一緒にいさせて。やっぱり彼女にして欲しい」

「そこでシレって告白してくんなよ。無理だって。オレの彼女枠は真由美だけでいっぱいなの」

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