第59話

「さぁ帰ろう。加藤さんも」

「ケイ君、最初からやらないつもりだった?」

「まぁね。お嬢様大学の空手部の”練習”だからね。オレが参加したら、まぁ。なぁ真由美、雄二、どう思う。やっぱりオレも参加したほうがよかったか?」

「全体を考えればケイが辞退したのは正しいと思う。でもケイをバカにしたあいつは・・・」

殺気を抑え切れない真由美を抱き締め。

「ありがとう、でも相手の実力を読めないレベルを相手してもしかたないし、オレ自身できれば避けたかったしね」

「ぼくも、やらないほうが正解だったと思うよ。特にあの主将さんが居たからね。ケイのが空手じゃないってのは本当だしね。でもまさか4鬼の話が出てくるとは思わなかったな」

言いながらポリポリと頬をかく雄二。それに反応した加藤さんが

「あの、4鬼っていったい、それに双子の双鬼って話もあったし」

「う~ん、そのあたりも合宿から帰って俺の覚悟が決まってから話すよ。今は勘弁して。オレ達の黒歴史的なものの塊なんで」

「そう」

短く答えた加藤さんが

「そんなものも話してくれようと思うくらいに信用してくれてるんだ」

「ん?オレ達の加藤さんへの信用度は結構高いよ。オレ達同士以外じゃ京先輩あたりと同じくらいかな」

加藤さんはちょっと考えて

「ならさ、そろそろ幸枝って名前で呼んで欲しいな」

「え、でもそれは加藤さんがオレを諦めたらね」

「なら内藤先輩はどうなの?あの人もケイ君を狙ってるわよね」

「いや、今はもう応援してくれてるって言って・・・」

分かっている。あのときの京先輩の言葉が頭をよぎる。『あなたを好きな一人の女の子として応援してあげる』

「はん、私だってケイ君を狙ってるけど、同時に二人を応援してるわよ。そうでなきゃ昨日の散歩の時のお化粧だって自分だけしてるからね。それに3人がお互いを名前で呼び捨てで呼びあっているのに私だけ加藤さん呼びは、実はちょっと疎外感あって」

真由美がチョンチョンと袖を引っ張る。

「何?」

真由美と目を合わせると。優しい笑顔の真由美だった。

「ふぅ、わかった。幸枝さん。これで良い?」

「もう1歩。”さん”いらない」

真由美と目を合わせ。

「わかった。幸枝。これからはこう呼ぶよ」

「うん、ありがとう」

たった呼び方ひとつの事なのに、とても嬉しそうな加藤さ、いや幸枝に、これで良かったという大きな気持ちとほんのちょっとの罪悪感を感じた。

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