第155話

 朝一でクラスで簡単なHRに参加したあとすぐに、オレと真由美はステージ参加者の控室の一つになっている空き教室で準備を始めた。

オレ達二人はボーカルとしての参加なので楽器の準備が無いだけ楽だけれど、KKシーズンのメンバーはあれこれとセッティングに忙しそうだ。それでもボーっとしているわけにもいかず、衣装に着替えワックスを使って髪をセットする。普段あまり整髪料を使わないのだけれど、ステージということで特別だ。ワックスもカラーワックスを使っているので今日だけ特別に銀髪になっている。KKシーズンの他のメンバーも派手な衣装にヘアカラーに女子メンバーは派手目なステージメイク。男子メンバーもやはり多少のメイクはしている。真由美も今日は超絶美少女モードだ。ボーっと見とれていると、後ろから

「ケイ君はメイクはしないんですか」

声に振り向くと幸枝がニヤニヤしている。

「オレはメイクまでは良いだろ」

「えぇ?しましょうよ。お手伝いしますから。あ、ちゃんと男性メイクしますよ」

珍しく幸枝の圧が強い。

「はあ、わかったよ。でもほどほどで頼むよ。メイク自体に少しばかりトラウマがあるんだからな」

「では、この椅子に座ってください。少し髪も触りますので、後で整えなおしてくださいね」

なんか幸枝の後ろの真由美がでワクワクしているように見えたのは気のせいだよね。

「ここでは水道が使えませんんで、洗い流さないフォームで……」

「少し、眉も整えますよ」

「うん、流石にお髭は、綺麗に剃ってきてますね」


「出来上がりです。どうですか」

そう言って幸枝が鏡を手渡してくる。

 そこには普段より陰影がくっきりし、すっきりした顔のオレがいた。間違いなくオレなんだけど……

「ケイ。素敵よ」

そう言って、真由美がニッコリと微笑んでくれた。

幸枝も

「私としても、なかなかの出来だと思うんですよね」

メイク恐るべし。

他のKKシーズンのメンバーも絶賛してくれる中、実行委員から声が掛かった。

「KKシーズンのの皆さん、そろそろステージの待機室にお願いします」


 ひとつ前のグループの演奏が聞こえる。結構盛り上がっているようだ。

「普通さ、こういうのって人気のあるグループがトリを務めるもんじゃないですか?」

そんな疑問をオレが口にすると、神無月先輩が教えてくれた。

「まあ一般のライブとかならそうだけどね。これはあくまでも高国高校の文化祭で、あたしたちは生徒の一人だからね。むしろこういう他のグループと同列で出来るのはここくらいだから貴重かな」

そんな話をしていると、どうやら前のグループの演奏が終わったようで観客席から拍手が起こった。ステージが暗くなり前のグループが袖から退出していく。それに合わせてKKシーズンのメンバーがそれぞれの楽器を手にステージに上がっていく。ドラムだけは一人でセッティングするには骨なのでオレや真由美を含む全メンバーで運び込み、丹沢先輩が細かいセッティングをしている。最終チューニングの音が響き渡り、準備ができたところで神無月先輩の声が響く。

「KKシーズンでーす。普段はライブハウスでの演奏が多いんですけど、今日は文化祭ということで思いっきり楽しんで演奏したいとおもいます。みんなも声出して楽しんでくださいね。では、さっそく1曲目。1曲目はみなさんもよく知っているこの曲……」

KKシーズンの演奏が始まった。学生レベルでは中々聞けないレベルの激しくメロディアスでそれでいて甘い音に観客席から歓声が上がる。2曲3曲とステージは進む。そろそろオレと真由美もステージに上がる時間だ。

神無月先輩のMCが聞こえる

「じゃあ最後の1曲。噂は聞いてるかもしれないけど、この1曲だけスペシャルゲストが参加してくれます。紹介します。スペシャルデュオ。ケイ、アンド、真由美ー」

紹介に合わせてステージに駆けあがる。スポットライトがオレと真由美を照らす。歓声の中観客席に向かって手を振り笑顔を振りまく。神無月先輩からマイクを受け取り事前に考えておいた簡単なセリフで挨拶をする。

「ケイです」

真由美にマイクを差し出し

「真由美です」

「「今日はゲストボーカルとしてKKシーズンに参加させてもらいます。一生懸命歌うので楽しんでくださいね」」

オレ達の挨拶が終わると演奏が始まる。ドラムが正確なリズムを刻みベースが音を重ねる、ギターがメロディをのせ、キーボードが音を広げる。今日の俺たちはラブソングではなく未来への挑戦を歌い上げる。石黒先生の指導で磨いた声で歌い語る。いつしかオレと真由美は手をつなぎ振り上げていた。観客席が湧く。ボーカルパートが終わり、メロディラインがフェードアウトする。最後に残ったリズム隊が小さく刻み全てをもまとめ上げフィニッシュ。

一瞬の静寂のあと観客席が湧く。アンコールの声が聞こえるが、残念ながら時間切れだ。

「ありがとうございました。時間が押していますので申し訳ありませんがアンコールは無しです。よかったらKKシーズンのライブにも来てくださいね」

ちゃっかり宣伝までする神無月先輩は逞しい。

ステージが暗くなり俺たちは大急ぎで機材を下手に移動させる。

全部の機材を搬出し片付けまで済ませて、ようやく一息をいれられる。軽音部部室で休憩していると、そこにいつものメンバーが集まってきた。

 最初に飛びついてきたのは奈月。オレに抱きついて胸にスリスリしてくる。

「にぃ、真由美ねぇも素敵だった。うるうるしちゃったよぉ」

幸枝も興奮気味で

「やっぱり素敵でした。大好きです。彼女にしてください」

「1曲聞いたくらいで告ってくんな」

恒例のチョップで躱す。

「なんでですかぁ。ケイ君は、もう少しデレを多くしても良いと思うんです」

「もう、はいはい」

オレはうんざりしつつ、幸枝の頭を撫でてなだめる。とたんに蕩けたような表情になる幸枝に後ろからレイさんが

「さっちゃんチョロすぎじゃない」

「まあ、あの歌聞いちゃったら好意持ってる女の子は落ちちゃうのは分かりますけどね」

葉子さんもちょっと危ない発言は控えて欲しいな。そんなところに、”トン”オレの胸に軽い衝撃があって奈月が離れたところに真由美が身体を預けて来ていた。蕩けるような表情で俺を見上げる真由美。思わず抱き締めて

「真由美、可愛い」

「ケイも素敵よ」

あぁ、ステージの余韻が残った状態でこれはダメだ。我慢が出来ない。オレと真由美に顔を近づけ……

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