第90話
森川の親父さんは今日は帰らないとの連絡があったので真由美も雄二もうちに泊まる事になった。食材の確認をすると5人分となると少々心もとない量しかなかったので近くのスーパーに買い出しに出た。雄二は奈月の勉強を見てくれるので真由美とふたりだ。
「ケイ、晩ご飯のメニューは?」
「スーパーで値段を見てから決める」
とりあえず手ぶらでぐるっと一回り売り場を回る。
「鳥から揚げ、パンプキンスープ、オニオンサラダ、アジの酢漬けってとこかな」
買うものを決めたところでショッピングカートを押しながら食材を選んで行く。途中で神崎さんと会って
「あら夫婦で夕食の買い物?」
なんてからかってきたので。
「おぉ夕食の食材が足りそうもなかったんでな。今日のメニューは鳥から揚げにパンプキンスープとオニオンサラダにアジの酢漬けだ。オレの手料理だから真由美も喜んで食べてくれるんだぞ」
と爆弾投げておいた。
「な、伊藤君そんなに料理できるの?女子力高すぎない?」
「ふふん、ケイの料理は美味しいの。今日のお昼はふわふわオムレツ作ってもらっちゃった。食後のベイクドチーズタルトもおいしかったのよ」
何故か真由美がドヤ顔で自慢する。
「ご飯だけじゃなくてスイーツまで、真由美ちゃんがうらやましすぎる」
買い物を済ませて家に帰ったら夕食の準備。
6時には全部出来上がったので。残りのかぼちゃでパンプキンパイを作ってみた。パイが焼きあがったところにかぁさんが帰ってきたので、みんなで夕食。
「やっぱりケイの料理は美味しい」
真由美が喜んでくれるのは凄く嬉しい。
「にぃもう少し家の料理をしてくれるのを希望する。かぁさんの料理も美味しいけど、にぃの料理も食べないとあたしは死んじゃう」
大げさなヤツだ。
食後のデザートにパンプキンパイを切り分け8切れに切り分けたパイがやっぱりオレと雄二の口に入ったのは1切れずつだった。
パンプキンパイを食べながらかぁさんが話し始めた
「景、奈月、お盆の13日におじいちゃんおばあちゃんの家に行くよ。そろそろ、二人も父さんに挨拶できるでしょ。寂しがってるよきっと」
そうオレ達兄妹は、父さんの墓参りが出来ないでいた。頭では理解していた。でもそれを認めると父さんが消えてしまうような、思い出さえも一緒に消えて行ってしまうような恐怖を感じていたから。でも、今ならきっと父さんに元気にやっていますって、幸せですって報告できる。そんな気がしたから。
「わかった。オレは多分大丈夫。奈月はどうだ?」
奈月はオレをちょっと驚いた顔で見て、でも少し微笑んで
「うん、あたしもお父さんに挨拶する」
「じゃぁ13日に行って迎え火を焚いて、14日にお父さんに挨拶して、16日の夜に送り火を焚いてから帰ってくるよ。知佳ちゃんとか二人に会いたがってるよ」
それに反応したのは真由美
「知佳さん?てどなた?」
あぁそうか森川家とは実家が少し離れているので幼い頃に盆正月に実家に帰ってた時期の友人関係を一部知らないのか。これは説明しておかないと拗らせかねない案件だな。と思い
「ん、小学生の頃まで実家に帰った時に向こうで遊んでたオレと奈月共通の友人」
「それってあたし以外に居た隠れ幼馴染?ハーレム要員候補?」
「年に数日だけ遊んだ相手を真由美と同列に比べろと?あの苦しさを一緒に乗り越えた真由美と並べろと?無いだろ普通に」
流石にこれは看過できない。
「ごめん。ありがとう」
ぽすんと胸に顔をうずめてきた真由美を抱き寄せ頭を撫でながら
「大丈夫。オレは真由美だけだから」
「あのさぁ、母親の前でそれするの?」
かぁさんが呆れた声でつぶやいた
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