第89話

「「ただいまぁ」」

幸枝と駅で別れ、真由美と一緒に自宅に帰ると

「おかえりぃ」

「おかえり。大変だったみたいだな」

奈月と雄二が出迎えてくれた。

「まぁな。夏休みでよかったよ」

「それがさぁ兄貴。ケイってばまたフラグ立ててきちゃったんだよ」

奈月の目が輝く。

「なになに、今度は何があったの?」

「今回はほら、ケイのトラウマ刺激しちゃう事件があってさ、事故に巻き込まれそうだった子をケイが身体を張って助けたんだけどね。で、ケイは軽い打撲くらい、その子は擦り傷程度で済んだのね。それでもケイが昨日連絡した通り念のためって一晩入院したじゃない。で今朝,その子が来たんだけど。助けたときは男の子だと思ってたその子が、実は中3の女の子で、KKシーズンのファンで、話の流れで高国を志望校にするって」

「ぷふふ?にぃってまたハーレム拡大なの?」

奈月の頭にチョップをして

「ハーレム言うな。オレはそんなつもりは一切ない」

涙目になりながらそれでも主張を取り下げない奈月

「だってさ、真由美おねぇちゃんでしょ。さっちゃんねぇでしょ。まずこのふたりはにぃにラブじゃん間違いなく。んでこないだの感じだとレイさんもかな~りの確率で堕ちてるし、京先輩だっけ?陸上部の先輩。あの人も多分堕ちてるでしょ。で、今回の女の子。あたしは抜けたけどさ。抜けたって言ってもにぃのことは好きだし。別にハーレムの一員にカウントしてもいいよ」

「オイ、言い方。それにおまえは雄二の彼女だろうが。冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ」

「だってさ、今の感じだとあたしが入ればハーレムの属性がほぼ完成じゃん」

「は?属性?」

「年上の美人女子大生、先輩、幼馴染、同級生、年下、であたしが入れば妹。で完璧」

「完璧じゃねぇよ、なんだよその属性とか、しかも妹ってその中に入れちゃいけないやつだろうが」

そこに雄二が

「ケイ」

「なんだよ」

「諦めも肝心」

「ちがうだろうがぁぁ。なんで雄二も自分の彼女が実の兄のハーレム要員にカウントってのを普通に受け入れてんだよ。普通はとめるだろ、引くだろ」

「ん~、だってケイとなっちゃんの関係だと普通の兄妹とは違うから。彼氏である僕でも認めざるをえない」

「そこは認めちゃダメなやつだからぁぁぁ」

オレの魂の叫びが虚しく伊藤家の中に響き渡った。

「はぁはぁはぁはぁ……疲れた。マジで800の決勝より疲れた」


「で、真面目な話、身体は大丈夫なのか?」

「おい、いきなりだな。まぁいいけど。大丈夫だよ。何箇所か軽いうち身があるだけだ。一番酷いって言われたのが何故かぶつけた記憶の無い左わき腹だってくらいだ」

「それって大丈夫じゃ無い奴だろ。記憶に無いところでぶつけるってのは。しかもケイの腹筋抜いてるって段階で……」

真由美の苦虫を噛み潰したような顔に何かを察して雄二が黙った。

「というわけで問題ないよ」


話題を変えよう

「今日は昼飯こっちで食うだろ。何か作るよ。リクエストあるか?」

さっそく奈月が

「あたしチーズタルト食べたい」

「いいけどさ、それデザートな。ベイクドで良いか。それと昼飯は?」

そこで真由美が

「あ、久しぶりにケイのフワフワオムライス食べたい」

「他にリクエストないなら、オムライスにサラダと何かスープ作るかな」

「わーい」

「奈月はちゃんと勉強しとけよ」

オレはキッチンに引っ込む。先にチーズタルトの仕込みをする。

タネを作ってタルトの台は、ビスケットを砕いて作ればいいか。オーブンに入れてタイマーセット。

焼きあがるまでに昼飯を作っていく。サラダはレタスと、お、ツナ缶があるな。プチトマトとオニオンスライス散らして。酢とオリーブオイルに胡椒と塩で簡単なドレッシングを作って小さめの深皿に入れて各自好きなようにかけるようにする。

さてメインのオムライス。笹身肉を茹でて小さく裂く。トマトピューレがあったので塩コショウで味を調えて、玉ねぎをみじん切りにっと。先に玉ねぎを炒めて。トマトピューレで作ったソースを絡めながら炒める。それをとりあえず皿に盛り付ける。体育会系の人間ばかりなのでどれも大盛だ。そこからが勝負。卵をホイップしてオリーブオイルとバターをたっぷりしいたフライパンに注ぐ。弱火でじっくり焼いて焦げ目が付かない程度に表面が固まったら。チキンライスの上においていく。

別で作っておいたコンソメスープを添えて

「できたぞぉ」

それぞれの前に皿を並べて、目の前でオムレットを割っていく。

「フワフワオムライスとツナサラダ、それにコンソメスープだ。デザートにベイクドチーズタルトがあるからな。まぁ適当に作ったから味はそれなりだ気軽に食ってくれ」

「ケイ、これってレシピってどうなってるの?」

「ん?レシピなんか無いよ」

「レシピ無しでどうやって分量とか味とか決めてるの?」

「勘」

「はぁ勘ってそれでなんでこの味に出来るの?ケイって料理スキルの自動生産チートでも持ってるの?」

「だってさ、この調味料はこんな味、胡椒はこんな味って分かるじゃん。それぞれを頭の中で合成して量を調整してこのくらいってシュミレーションするじゃん。だいたいそれで合うから。店で常に同じ味を提供するわけじゃ無いからそれで良いんだよ」

なんでそんな目で見る?変か?食べる時の天気とか食べる人の体調とか食べる時間とか考えて調整するならこの方が楽じゃね?

「はぁ、まぁケイだからな」

「そうねケイだから」

「うん、にぃはそういう人」

「なんだよ、それ。うまけりゃいいじゃん。それとも今日の飯はまずかったか?」

「「「美味しいよ」」」

「じゃぁ文句は無いだろ。冷めないうちに食えよ」


食事が終わったところで皿をシンクの水に沈めて、焼きあがって粗熱をとってあるベイクドチーズタルトを切り分ける。

「飲み物は、何がいい?」

「僕はコーラもらうかな」

「あ、あたしオレンジ」

「わたしもオレンジね」

「はいはい」

とオレンジジュース2杯とコーラを2杯氷の入った大き目のグラスに注いで。テーブルに置くと、それぞれが自分の分を手元に寄せる。真ん中にホールを切り分けたベイクドチーズタルトを置いて。取り皿を渡す。

「「わーい」」

真由美と奈月は何も言う前に自分の分を取り分けていた。オレと雄二は目を見合わせて肩を軽くすくめ。ふたりが取ったあとのタルトを取り分ける。

「「いっただきまーす」」

オムライスも結構な量だったはずなんだが、女子にはケーキは別腹なんだななどと考えながら、自分でも食べる。うん、美味しく出来てる。周りを見ると幸せそうな蕩ける笑顔で食べてくれている。自分の作ったものを美味しそうに食べてもらうのもやっぱりいいな。8等分に切り分けたはずだが、オレと雄二は一切れずつしか食べられなかった。まぁ気に入ってくれたのならいいや。

「ケイ(にぃ)また作ってね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る