第53話

「いやぁ雄二やるねぇ」

「いやいや、奈月ちゃんもケイの妹だってことじゃないのか」

「なんでそこでオレに流れ弾が飛んでくるかなぁ」

「「「「だってなぁ」」」」

「「「「あれはやっぱり、この兄あってあの妹ありだろ」」」」

「だぁうるさい。だいたい何でいつの間にかオレの事になってんだよ」

「そりゃ、普段からあれだけイチャイチャ見せ付けられていれば」

「いつオレ達がみんなの前でキスしたよ?ん?そんなことあったとでも言うのか?」

電車の中で陸上部の話題がカオスになっているのは、駅で移動始めた時のことだ。


「じゃぁ移動するよ」

京先輩の指示で移動を始めた陸上部員だったが、そこに奈月が来て

「雄二さん、一週間会えませんけど待ってますね。合宿頑張ってきてください」

と言ったと思いきや、雄二の頭を引きつけて頬にキスしてしまったのだ。

当然、まだ収まりきっていなかった黄色い悲鳴が更に酷いことになったが

「いってらっしゃい」

そこにいたのはシレッと言い放った割に耳まで真っ赤になった奈月と呆然とするオレ達だった。


そんなわけで冒頭のカオス状態な訳だが・・・

「なあ真由美」

オレの左腕にぶら下がってる真由美に声をかける。

「ん、なに」

「あれをオレ達のせいにされるのは非常に不本意なんだが」

「あはは、ケイ気にしすぎ。あたし達もすっごく仲良いから、それを見て羨ましがってるだけだって。気にしないの」

「ん~、それは分かるんだけど。わかるんだけど、納得いかないなぁ」

「まぁまぁ、なっちゃんは合宿期間中は兄貴と会えないから我慢できなかったんだろうし。あたしだってもし1週間もケイと会えないってなったら、ひょっとしたら同じ事するかもって・・・なんでもない」

後半なにやら不穏な台詞も混じったが

「そうかぁ、そういえばオレ達って1週間も会えない状況って無いもんなぁ。それ考えたら二人をあまり弄るのもかわいそうか」

「そうそう、しかもあたし達と違って学年も学校も違うんだから」

そうか、そうだよなぁ。よし。

「まぁみんな、そのくらいにしてやってくれよ。付き合い始めたばかりの二人がせっかくの夏休みに1週間も会えないんだぜ。多少は過剰にもなるだろ」

「うるせーリア充。こちとら彼氏居ない歴=年齢のおねぇさんなんだぞ。少しくらいこっちに幸せ回してから言えやぁ」

「せ、先輩。言葉が・・・」

言葉って怖い。なだめるつもりが燃料追加してしまった。

「ほ、ほら、これから合宿ですから、部内で気になってる人居ないですか?1週間狙い放題ですよ。な、なんなら合宿所で一緒になる他校の男子だって狙えるじゃないですか」

「ケイ、何部内の風紀を乱そうとしてるのかな?」

あ、京先輩がなにやらオコ・・・じゃないな、笑ってるし。

「いえ、その先輩にも幸せ掴んで欲しいなと・・・」

ビクビクしながら言うと

「あはは、あのあたりは年中行事みたいなものだから気にしない気にしない。それより陸上部の合宿ではあまり見ない荷物があるね」

「これですか?アコースティックギターです。ほらオレと真由美って軽音部も掛け持ちしてるじゃないですか。普段は陸上終わってからちょっとだけ練習してるんですけど、合宿中は出来ないなぁって言ったら軽音部の部長がこれ貸してくれて、合宿の合間に練習しなって言ってくれたんです」

すると京先輩は周りをぐるっと見回して。

「次の駅まで20分くらいか、一般の乗客も居ないし、ケイ、真由美1曲ずつ弾いてくれないかな」

つられて、オレと真由美も周囲を見回す。確かに一般客が居ない。この状態なら迷惑にはならないか・・・

「でも、オレも真由美も初心者なんで下手ですよ」

「そうですよぉ、ケイはまだ大分前から曲練習してるからマシかもですけど、あたしなんかまだ曲練習始めて1ヶ月なんですからね」

「まぁそう言ってくれるな。あれはあれで面白いが、1人を集中的に弄るのはあまりスキじゃないからさ。ちょっと気を引いてくれると嬉しいな」

俺と真由美は顔を見合わせて

「まぁ、そういう事なら・・・」

「あたし達で、どのくらい気を引けるか分かりませんけど・・・」

ごそごそとギターを取り出しオレがチューニングを始めると、小物類を取り出し必要な物を纏める真由美。そして、チューニングの音に引かれて部員が何人か集まってくる。当然その中に

「あぁケイ君。ギター持ってきてたのは気づいてたけど。今から弾くの?ね、ね、弾くんだよね。歌も歌ってくれるのかな」

加藤さんのテンションがやばい。そういえばこの子ってKKシーズンのミニライブでオレの歌聴いてたんだっけ。

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