第54話
「今から弾くの?ね、ね、弾くんだよね。歌も歌ってくれるのかな」
「加藤さんちょっと近い近いって。今チューニング中だから」
「あ、ごめんなさい、ケイ君の歌聞けるかと思ったらつい」
「あぁ歌かぁ。どうしよう」
真由美と顔を見合わせ
「ケイは、多分大丈夫でしょ。家で歌ってるの何度も聞いてるけど。あれならコンサートとかじゃないなら十分だと思う」
「真由美も、最近はだいぶ良くなって来てるけど・・・真由美がギターのときはデュエットにするか。音はオレが合わせるから」
ちょっと頬をピンクに染めて
「う、うん。ケイが合わせてくれるなら」
「んじゃ、1曲目はオレがソロで弾き語りで歌うね。ギター初心者だからあまり期待すんなよ」
「うんうん」
あぁもう加藤さん、目をキラキラさせて、尻尾ブンブン振ってる子犬みたいだ。
「よし、チューニングはこんなもんだろ。1曲目、オレのソロだから何にするかな」
「ねね、あ、あれ弾ける?あのKKシーズンの時の」
「あぁライトフライヤー?いいよ」
そうしていると京先輩が
「おーい、ケイと真由美の限定ミニライブだよ」
声を掛けると、ワラワラと集まってくる部員たち。
「え、まじ?ケイ君歌ってくれるの?」
「伝説の1曲じゃん」
おいそこオレは伝説になったつもりはねぇよ。しかもあの時は伴奏はKKシーズンのマジモンのバックだったからね。なんにしても特に先輩女子の食いつきが怖い。
「えぇ、2曲限りのミニライブ(?)です。1曲目はリクエストもありましたのでオレがライトフライヤーやります」
ふぅ、目を瞑って深呼吸1回。コード弾き1小節からアルペジオでイントロを弾いて、ここからソロで
「・・・あなたと一緒に~・・・♪」
静かにアルペジオでフェードアウト・・・
ふぅ、なんとか弾き切れたな。と周りを見ると、目の前でウルウル目の加藤さん、なんかほっぺた赤くしてる先輩女子、あっけに取られてる男性陣??
少々戸惑って京先輩を見ると・・・え?京先輩まで乙女の顔になってる。慌てて真由美を見て目線で助けを求め・・・あぁそうでした、こいつはオレが何やっても乙女になるんでした。まぁしかたない、真由美に声掛けるか
「真由美、おい真由美。戻ってこーい。次はお前の番だぞ」
はっと、気付いた真由美が
「ケイかっこよすぎ」
抱きついてきて。おい公衆の面前だというのにキスしてきやがった。
途端に周りで悲鳴が上がった。
「「「「きゃぁーーー」」」」
あっけにとられていて、気付いたら加藤さんまで抱きついてきてた。
やばいってこれは。途端に真由美から吹き上がる黒いオーラ
「さっちゃん、あたしの目の前でケイに抱きつくって良い度胸ね」
「あ、ごめんなさい、ごめんなさい。いつもなら我慢するんだけど。今日はケイ君が素敵過ぎて理性さんがお休みしちゃったの。ごめんなさい」
必死に謝り倒す加藤さんに
「うぅケイが素敵なのがいけないとはいえ・・・うぅ。わかった今回だけだからね。次は本当に許さないからね」
こ、こいつら変なフィルターかましすぎじゃねぇか?いくらなんでもそこまで意識飛ばすほどの演奏じゃ無いからね。まぁ100歩譲って先輩女子みたいにほっぺ赤くするくらいの反応は良いよ。でも、このふたりと京先輩の反応は過剰すぎだろぉ。何か変なクスリとかやってないだろうな。
空気が弛緩したところで
「ほら、真由美」
ギターを差し出す。が、真由美が受け取るのを躊躇している。
「うぅ、ケイの後でってハードル高すぎるんだけど」
「ほら、一緒に歌ってやるから」
真由美にぴったりと寄り添い、腰に手を回して励ます。
「うん。じゃぁ、いつも一緒に歌ってるあれね」
「OK。あわせるよ」
真由美に寄り添いギターを渡す。一瞬の深呼吸のあと真由美の表情がスッとキリリとしたものに変わる。そう試合でコースに出たときの顔に。
コード引きの激しい迫力のあるイントロからアルペジオでのメインパートにはいり二人の声を合わせる。
「「・・・・・いつでも、いつのときでも~♪・・」
メインパートが終わり、再び激しいコードで
ジャン♪ジャジャ♫ジャーン♪
一瞬の静寂。列車の音だけが響く。その後皆からの拍手が降り注いだ。
「「はぁもう歌でまで見せ付けやがって、もう結婚しちまえ」」
そこに京先輩の声
「はーい、ふたりともありがとうね。そろそろ駅なので乗ってくる乗客のかたに迷惑になるといけないので、今回はここまでね」
とりあえず目的の雄二から気をそらすのは成功したからいいか・・・
「さぁ次の駅で降りて、ホテルからの送迎のバスに乗り換えよ」
京先輩の指示で、みなが降りる準備を始める。
途中で飲み食いした菓子類の空袋や飲み物の空き缶、パックジュースの空きパックなんかをそれぞれにゴミ袋に片付ける。
「汚したところがあったら、ウェットタオルあるから言ってね」
きちんと後始末をして下車
駅前ロータリーに集まると
「おぉ地元よりずいぶん涼しいなぁ」
「でもここって標高があるから空気が薄いんだよな確か」
わいわいと騒ぎながら待っていると
送迎のバスが到着し
「高国高校陸上部の皆さんですか」
「はい、そうです」
「ようこそ、河口湖へ。このバスでお泊りの山和田ホテルまでご案内します」
「はい、お世話に成ります」
「じゃぁみんなバスに乗って。はしゃぎすぎることのないようにね」
バス移動は特に問題なく20分ほどでホテルに到着した。
「じゃぁ部屋割りにしたがって荷物を置いたら、トレーニングウェアに着替えて前庭に集合すること今2時だから2時半までに集合ね」
「「「「うーい」」」
無事到着できた。今日は軽いトレーニングしたら夕食まで自由時間だったな・・・
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