第18話
「んで雄二は?」
「駅前の噴水で8時半待ち合わせにしてあるよ」
たわいも無い話をしながらふたりで歩く。二人の距離感はもとより仲の良い幼馴染同士だったこともあり元々近く、付き合う前よりそれほど近づいたわけではない。それでもほんの数センチの距離感の違いが時々お互いの手を接触させた。何度か躊躇したあと思い切って摑まえてみた。
「……」
真由美が軽く息を飲むのが分かった。それでもすぐに握り返してくる暖かい柔らかさに受け入れられた幸せを感じた。
「雄二ー」
「兄貴ー」
スマホ片手にベンチに座っている雄二を見つけ二人で声を掛けた
「おぉおはよぉ。さすがに真由美の目覚ましでなら起きれたみたいだなケイ」
「あぁ強烈だったよ。アレ以上の目覚ましはないだろうな」
苦笑いしながらそろって駅に向かう。
「昨日も思ったけど、電車って結構混むのな」
「それなぁ。学校が歩きで行けるとこでよかったよな」
「で、だ。ケイ昨日何かあったのか」
「なんでだ」
「まず、真由美が今朝から突然ケイを迎えに行くって言い出した。で、待ち合わせに現れたときには仲良く手をつないでるじゃないか。何かあったと思うのが自然だ」
「そうか?単に幼馴染からカレカノにクラスチェンジしたから、そういう気になっただけだろ」
雄二は少し目を細めて
「まぁ、別にそれならそれでいいけどな……」
「それより今日のレースだ。オレはとりあえず6位内入賞狙いでいくけど、雄二の目標は?」
「まぁうちの地区はあまりレベルも高くないけど、高校レベルでの話しだからな。しかもブランク明けでスタミナ不十分とくれば、入賞できれば上等だろ」
「えぇ?中学県大会1位常連だったおまえが弱気じゃね」
「3000m単体では確かにケイより上だったけどな。2日開催で800、1500、3000を全部上位入賞してきたケイとは基本的にスタミナが違うからな」
手を軽く振ってどうでも良いことにする。と、横から抱きついてくるやつがいた
「やっぱりケイだって決勝進出当然って考えてるじゃん」
にっこり笑った真由美だ。
「当然じゃねぇよ。目標だっての」
「え~?でもケイの目標っていつもほぼほぼ確定って意味だよね」
「そんなことはないさ。単に出来もしない事を目標にはしないだけで……」
「むぅ、彼女としてはそこはウィンクでもして自信を見せて欲しいとこなのに」
「ま、とりあえず1種目だけだし、やれるだけやってみるよ。真由美にいいとこ見せたいって気持ちはあるしね」
「え?」
「あ、今の無しな」
「えへへ、なんか嬉しいな」
そんな空気を変えたのは雄二の一言だった
「はぁ、おまえらそろそろコッチの世界に戻ってこいや」
結果
男子5000m 森川雄二 8位
男子 800m 伊藤 景 4位
「4位。まぁ1年だし残念ながらこんなもんだよなぁ……」
まぁ本当はオレはここあたりが上限だろうけど……
「まぁなぁ。オレも言葉ではあんなこと言ってたけど、妄想では1位とか考えてたり……」
予想通りとは言え入賞は嬉しいもののややへこむ二人に
「ふたりとも賞状おめでとぉ」
「あぁ神埼さん。それにクラスのみんな……」
「3人とも賞状ゲットなんてすごいよねぇ」
「「「ありがとう」」」
お祝いパーティと称するカラオケパーティ
汗臭いからとの言い訳をしていったん帰宅してから再集合にしてもらった。
さすがに賞状もらったといっても負けは負け、なのでちょっとだけ気持ちをリセットしてからにしたかったのだ。
「あれ?内木戸先輩に神無月先輩。どうしてここに」
「楽器屋に行った帰りにケイ君と真由美ちゃんの名前が聞こえてね。なんかお祝いパーティだって言うから混ぜてもらおうと」
神無月先輩がいたずらっこの顔でそう言った。
「キミ達のクラスでの集まりっぽかったんで止めたんだけど。ごめんよ美穂って言い出したら突っ走っちゃうので……」
苦笑いする内木戸先輩に神崎さんが
「いいんですよぉ。今日はうちのクラスから3人も入賞したお祝いです。その中のふたりを知ってる先輩なら大歓迎です」
「ありがとう、このカラオケなら割引券が……あったあった。これ1割引とワンドリンクサービスだから使って」
「おぉ、先輩ありがとうございます」
「では伊藤景君と森川兄妹の活躍を祝してカンパーイ」
「「「「おめでとー」」」」
皆からの言葉に
「ありがとう」
3人揃って答えると。さっそく神崎さんが
「さぁ最初に歌うのは誰かな。できたら伊藤君か森川君お願いしたいんだけど」
「あぁじゃぁケイいつもの歌ってくれよ。次オレ歌うからさ」
「おい、いきなりだな。まぁ良いけど」
トップで歌うことになったので、雄二の言う『いつも』の曲を入れる。
「……あなたと一緒に~……♪」
人気のガールズバンドのバラード。最近のお気に入りの1曲を歌い
「ほら、次雄二な」
雄二にマイクを渡す。そしてさっそく抱きついてくる真由美
「いつも通り聞きほれちゃったよ」
とニコニコ。
が、何か周りの雰囲気が??
「みんなどうしたの?」
それに答えたのは内木戸先輩
「いやぁ、まさかのガールズバンドをオリジナルのキーで歌いきるとはびっくりしたよ。しっとりと聞かせるし」
みんながうんうんと頷く。
「ケイって音域が凄く広いんですよ。中学時代はクラスで一番低音で歌う上に女子を差し置いて一番高音まで歌ったんですから」
抱きついたままの真由美の言葉に少し驚いたのは軽音部の先輩ふたり。
「「伊藤君。ボーカルもいけそうだね」」
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