第19話

 「ツインエンジェル。ここみたいだな」

今日は軽音部がミニライブを行うというので真由美と一緒に駅前の商業施設の3階フロアにある小ホールに来ていた。

「先輩達の演奏たのしみだねぇ」

ホールの入り口はかなり混雑していた。高校の軽音部のミニライブと言う割に客が多い。見ていると中高生のカップル、女子グループが多いようで男子グループはほとんど居ない。女子中高生に人気があるのだろうか?

『KKシーズンのミニライブのチケットなんて良く手に入ったね』

『お姉ちゃんが同じ高校なんで頼んでたんだ。それでもギリギリだったって言ってた。』

こんな会話が聞こえて、本当に人気があるんだと、少しびっくりしながら入り口脇の案内板を見ると

『KKシーズン。今年度初めてのミニライブ。グリーンクルーズ』

そんなPOPが踊っていた。

「え~と??ひょっとして先輩達って結構な人気バンド?KKシーズンってどっかで聞いたような。真由美は知ってる?」

「去年?いや、ん~一昨年の年末くらいからかな?人気の出てきた地元のグループだったと思う。女子の中にはそこまで必死?って感じの子もいるみたい」

「思うとか、みたいとか、真由美は知らないの?」

「だって人気出てきた頃って、ほら小谷野先生に嵌められて陸上三昧になった頃だし、そのあとも受験勉強で……だったでしょ」

「言われて見れば。良く考えて見れば真由美もよく受かったよな。中3になった頃は成績悪くは無かったけど、今ほど良くなくて、受験勉強必死だったもんなぁ」

「そ、それは……もう察してよ」

真由美は、ほんのり頬を染めた。

そっとうつむく真由美を優しく抱き寄せて

「わかってるよ。一緒の高校に入れてオレも嬉しいよ」

と囁く。

「……う……」

頭をオレの胸につけてポカポカと殴ってくる真由美。

あまりの可愛さに頭を撫でて……

はっと気づき周りを見回すと。ちょっと微妙な雰囲気で注目されていた……

「ま、真由美行くよ」

声を掛け手を引くようにして中に入った。



「凄い人気に盛り上がりだね」

あまりの熱気に圧倒されて壁際で聞いているとステージで内木戸先輩に何やら耳打ちされた神無月先輩が

「みんな今日は、ミニライブに来てくれてありがとう。ここでちょっと紹介しようと思います」

なにやら少々いたずらっ子の顔。

「期待の新メンバー候補です」

眩しい光に目がくらんだ。

「ケイ。ステージに来てくれるかな」

ホールの視線が全て集まる中、逃げるのはちょっと無理そうなので

「真由美、これはちょっと逃げられそうに無い。しかたないからちょっとだけ行って来るよ」

一応、演出だと思わせる事が出来るように顔を上げゆっくりとステージに上がり、マイクを受け取る前に

「先輩、ちょっといきなりすぎでしょこれ」

と苦笑いしながら苦情を伝える。

「ごめんごめん、こないだのカラオケの歌聞いて是非参加してほしくなってね」

とマイクを渡してくる神無月先輩。

「紹介します。新人のケイです。ギター予定です」

「ご紹介いただきました、ケイです。いきなりこんなステージに上がる事になってビックリしています。まだまだ初心者です。デートで来ていたらいきなりステージに呼ばれるって酷いと思いませんか」

と軽く非難しながら自己紹介。そこに神無月先輩が

「あはは、それはごめんねぇ。でもまぁ顔見せと思って1曲だけ付き合ってね」

頭を抱える仕草をしながら

「もう、どうせ逃がしてくれないんでしょ。」

「うん、逃がして上げない。でもギターは準備無理だから、今日は歌ってね」

「何を歌えば良いんですか」

「こないだの、あの曲お願いね」




「では新メンバーのすばらしい声をお聞きください。曲はみなさんもご存知の……」




「ケイありがとう。次はギターで登場してもらえるように頑張ってね」

「では最後は恒例のこの曲を聴いてください」






大勢の人が手を出してきている通路をパンパンとハイタッチしながらホールのうしろに戻る。




「ふぅ、まいったよ。先輩もいきなりすぎる」

愚痴るオレに真由美はクスクスと笑いながら

「その割りにノリノリだったじゃん。最後通路ではお客さんとハイタッチまでしてさ」

「そりゃ、あそこまでやったらしらけさせる訳にもいかないから、毒食らわば皿までだろ。それより、そろそろ出るぞ」

「え?最後の曲まで聴いていかないの?」

「最後まで聴きたいのは山々だけどな。それやると間違いなく集られるぞ」

「集られる?」

「普通の高校生バンドの客と違って、このミニライブの客は先輩達の本当のファンの集まりだ。そこにメンバー候補なんて紹介されたんだぞ。察しろよ」

「あぁ確かにここに居たらやばそうだね」




駅前のハンバーガーショップに腰を落ち着けて

「しかし、先輩達があんな人気グループだとは知らなかったなぁ。オレみたいな初心者入れて良いのかね」

「ケイが歌った時も盛り上がってたからそれは大丈夫なんじゃない?」

「いやいや、あれはそこまでの先輩達の盛り上げ方が凄かったからそのままのノリできてくれただけだ。実際神無月先輩の歌はオレより間違いなくよかっただろ」

「でも練習すればケイだって」

「分かってるだろ。あれは片手間で入っていけるレベルじゃ無い。学校の軽音部にギター初心者が参加するのとは違う。だからオレは軽音部には参加するけどKKシーズンには応援するだけにするよ。もともとオレはちょっとギター弾けるようになりたいってだけで入部したライトメンバーなんだぞ」

最後は軽く笑ってハンバーガーを食べた。

「あぁそうだったよね。あんなふうにステージこなしちゃったから、つい忘れてた」

真由美も笑ってオレンジジュースを飲みきった。

そのあと他愛もない話をしてデートを楽しんだ。

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