第62話

15時15分ロビーに向かうと、そこには

「あ、ケイ君早いね」

レイさんがいた。

「レイさんこそ早いですね」

そこに京先輩が通りかかった。そういえば遊びに出かけること言ってなかったなと

「京先輩」

呼びかけると、振り返った京先輩は

「あぁケイか。どう・・・そちらの女性は?浮気はいかんぞ。乗り換えるなら私に、いや今のは聞かなかったことにしてくれ」

ワタワタする京先輩に

「こちらは、華桜女子大空手部のかたで今朝の練習に招待してくれたんです。これから一緒にオルゴールの森に遊びに行ってきます」

「な、まじで浮気か?」

「あはは、誰も二人きりで行くなんて言ってませんよ。いつもの4人ともうひとり華桜女子大空手部のメンバーの6人で行ってきます」

「外出連絡に叙述トリックを混ぜるな。で、今朝も思ったんだが、大丈夫なのか」

オレ達の黒歴史を知る数少ない人間のひとりだけに空手関係の人との接触には心配をされてしまう。

「大丈夫ですよ。遊んでくるだけですから」

「それなら良いが。羽目を外しすぎるなよ」

軽くウィンクして離れていった。やっぱり京先輩イケメンだよなぁ。

「ケイ君、今の人は?」

「うちのキャプテンで内藤京先輩。中学からの先輩でいろいろと面倒見てもらってて、頭あがらない感じの人です」

「女性がキャプテンなんですね」

「それが?今時男女混合の部で女性がキャプテンなんて別に珍しくないでしょ?」

そういえば、入学当初に桐原先輩が京先輩の事を物静かでおとなしいって言ってたけど、ずっとそんな感じないな。

「ケイ君?」

ハッと気づく。意識が他に行っていたようだ。

「レイさん、ごめん。ちょっと考え事してた」

そこにやってきたのは雄二

「おまたせ」

「大丈夫だ、オレ達が早めにきてただけだから」

「雄二君だって十分早めですよ」

「そういえば、合宿に入ってから奈月とは連絡取ってるのか?」

「ケイ君、雄二君の彼女なのに名前を呼び捨てってどうなの?」

「あ、なっちゃんはケイの妹なんで、むしろそれが自然です」

「え、あなた達って随分と・・・」

レイさんは頭を抱えた。まぁわからないでもない。結果的にみんなが一番近いところでカップルになっているのだから。

そんな話をしていると、葉子さんが登場した。

「やっほ、おまたせ楽しみだねぇ」

「まだ時間前だから大丈夫ですよ。年下をナンパしたおねぇさん」

ちょっとからかってみた。とたんに耳まで真っ赤になる葉子さん。あれ?思ったより初心。大学生でもう少しイケイケかと思ったのにな。

「あぁケイ君。葉子はこう見えてめっちゃ奥手なんで手加減してやってね」

しかし、こうして並んでいるとレイさんはちょっと鋭い系の美人で葉子さんは少し軽い感じのカジュアル美人って感じ。ふたりとも何だかんだいって見た目の偏差値がえらく高い。部屋から出てきた陸上部員の視線が痛い。真由美早く来ないかな。

そんなこんなしていると、来ましたわ。昨日も『マジか』って美少女具合の出来だったんだが。

「ケイ、どうかな?昨日より時間あったし、ちょっと慣れたので頑張ってみたんだけど」

声が出ない。

「くふふ、ケイ君、真由美ちゃんの可愛さに声が出ないね」

見ると、真由美とは方向性が違うがこちらもどこのお嬢様だって美少女に変身した幸枝が、悪戯が成功したとでも言いたげに小悪魔の笑みを浮かべていた。声が出ないのはオレだけではない。雄二も、なんならレイさんも葉子さんも呆然としている。1歩2歩と真由美に近づき

「真由美、なんだよな」

なんとか声を掛ける。

「そうよ、ケイのために一生懸命おしゃれしたんだからね」

あぁ可愛いな。オレの彼女はなんて可愛いんだ。思わず抱き寄せてしまった。

「可愛いよ。真由美。すごく可愛い」

真由美はびっくりしたようにキョトンとしたと思うと、『ボッ』っと音が聞こえそうな勢いで耳まで真っ赤にした顔で

「うれしい」

そっとつぶやいた。

抱き合っていたのは1分か5分か、それとも30秒か、フと気づくと周りが静かになっていて、視線が痛い。

「あ、真由美、それにみんなも行こうか・・・」

「「「「おまえが(あなたが)言うな」」」」


オルゴールの森に向かって歩きながら

「昨日見たときもすごい美少女って思ったけど、今日はまた一段とだね。ケイ君がああなっちゃうのも仕方ないかなぁ」

レイさんがシミジミとつぶやく。一方、葉子さんは

「ねぇねぇ、二人のお化粧って加藤さんなんだよね」

なんだよ化粧が加藤さんって、なんて思いながら聞いていると

「あぁまぁ、特に真由美ちゃんは普段ほとんどノーメイクだけど素材が凄くいいから張り切っちゃった」

などと幸枝の返事に葉子さんが

「年下の加藤さんにこんなことお願いするのもどうかと思うんだけど」

なんだろうと言う顔で

「お願いですか?」

幸枝の疑問に

「お化粧教えてくれないかしら」

「なら、出来れば私もお願い」

レイさんも乗っかってきた。

話を聞くと、女子大とは言え体育会系の彼女たちはどうしてもそっち系に疎い。そして、割とそれでも良いという雰囲気があるため、掘り下げて話すことが出来ないそうで、これを機会に女子力をアップしたいらしい。

クスクスと笑いながら幸枝が

「良いですよ。私の出来る範囲でなら、お教えします」

と、いう事で真由美を含めた3人対象で今晩から幸枝のメイク教室が開かれることになった。彼氏としては彼女が可愛くなるのは大歓迎・・・なのだが、常時このレベルだと心臓が持たないかもしれない。

オルゴールの森ではタイタニックに搭載予定だったという自動演奏楽器に驚き、200~300年も前のオートマタの動きに感動しながら笑い、庭園では季節の花の美しさに女性陣が足を止め、オルガンホールではサンドアートが時間の都合で見られなかったことにがっかりしたり、世界最大級のダンスオルガンに圧倒された。そして、そろそろ最後かなと思っているところに花びらの入った籠を持った女性が歩いて来て

「よろしければ」

と言われ参加したのが、なんと本物の結婚式のフラワーシャワーだった。ウェディングドレスの新婦さんとタキシードで決めた新郎さんが幸せそうな笑顔で歩いて来る両側から花びらのシャワーをあびせる。

新郎新婦と関係者の方々が居なくなった後、真由美がぽつりと

「新婦さん素敵だったね」

「あぁ、いつか・・・」

さすがに、その先は照れくさくて言えなかった。そのかわりに

「でも、真由美の方がずっと可愛いよ」

「だから、私がいるところで、それはデリカシーがなさすぎるっていつも言ってるでしょうがぁ」

幸枝の怨嗟の声がオルゴールの森に響いた

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