第63話
ホテルに帰り、レイさん葉子さんと分かれ部屋に戻る。戻る途中でふと気づいて女子部屋のひとつをノックした。
「ほーい」
明るい声で返事をしてドアを開けてくれたのは桐原先輩だった。
「おじゃまします。京先輩いますか」
「あら、美人女子大生とハーレムデートに行ったケイ君じゃない」
オレはがっくりとうなだれる。まったくこの人は
「そんなんじゃないです。オレの彼女は真由美だけですから。大体真由美以外から狙われるのは幸枝で手一杯ですよもう」
「ふーん、幸枝ねぇ。加藤さんじゃないんだ。いつの間にか名前呼びでしかも呼び捨てかぁ」
「いつもの4人で自分だけ苗字呼びは疎外感あるって言われたんですよ。で、まぁそれは分かるって事で名前呼びにしたんです。他意はないですよ」
「それにしても、君たちって不思議な関係よね。普通は自分の彼氏を狙ってますって公言している女の子をグループに入れないし、彼の方だって遠ざけるものなのにね。実際、最初の頃はケイ君も加藤さんと出来るだけ距離を取ろうとしてたじゃない。それがいつの間にかいっつも4人一緒。それが当たり前であるように仲が良いし。部にいるときだけじゃないんでしょあの感じだと」
「そのあたりは今日一緒に遊んだ二人にも似たような事を言われましたよ。それに対する返事は、幸枝の言葉ですね。オレと真由美の事を応援しているのは確か。でもオレの事を幸枝が好きなのはそれとは別ってね」
それを聞いた桐原先輩はさも頭が痛いとでも言うように左手で額を支え頭を左右に振ってつぶやいた。
「あの子も京と一緒か。まったくケイ君は罪深い男だな」
「罪深いってオレのせいじゃないでしょう」
情けなくなって来た。でも幸枝に関して、オレは何度もちゃんと振ったのだ。オレのせいにされても困る。
「まぁいいや。で、京に用事?」
「ええ、ホテル外に出たので帰ってきたのを連絡しておこうと思いまして」
「了解、ちゃんと報告に来たのはえらいね。京~、ハーレム主人公君が呼んでるよ」
後半は部屋に向かって呼びかけたのだが
「言いかた、桐原先輩、言いかた~」
もはや風評被害の領域だ。がっくりと肩を落として京先輩が出てくるのを待った。
「なんだハーレム主人公てなんだ?」
言いながら今日先輩が顔を出したので
「風評被害が酷い。謝罪と撤回を求めます」
「なんだケイか。あぁそれでハーレム・・・ぶっふふふ」
「ひでぇ、そんなんじゃ無いって言ってるのに。だいたい雄二も一緒に居たのに、人気ランキングだって雄二の方が上なのになんでオレだけ」
「クスクス、ケイって愛されキャラだからね。それに人気ランキングってさ、あんたどんだけハンデ背負った上であの順位か自覚ある?」
「あぁ・・・まぁ・・・」
「んで、用事は何かな」
「切り替え早!!まぁいいですけど。外出から帰ってきた報告に来たんですよ。ちゃんと連絡しないとまた心配掛けるかと思って」
「おぉ、今回はちゃんとできたね。学習できる子は大好きだよ」
今微妙に違うニュアンス込めましたね。もちろんスルーしますとも。これ以上面倒にしてたまるか。
「あぁ今日の夕食はバーベキュウだってのは覚えているか?」
「はい、ちゃんと覚えて居ますよ。このあと1年は買い出しですよね」
「そこはもう大丈夫。暇そうにしてるみんなに行ってもらったから」
「ありゃ、タイムセールで安くなった食材を買うって話じゃなかったでしたっけ」
「それなんだけど」
何か言いにくそうな京先輩に
「何かあったんですか」
「いやその、このホテルで合宿をしている学校がいくつかあるだろう」
「えぇ、御木本先輩が言うには今うちの他に4校ですね」
「バーベキュウの計画の話をしていたら他校の人から声を掛けられてだな、あれよあれよと言う間に何故か合同でやることになってしまったんだ」
「合同でいいじゃ・・・まさか」
「そのまさかだ。華桜女子大空手部。ケイ達のことがあるから本当は断りたかったのだけれど、部の代表という立場で交流をと言われると中々に断る口実が見つからなくて。すまん。ケイ達は例の一緒に遊びに行ったふたりとだけ交流してくれれば良い。他はなんとかこっちで阻止するから」
「そこまで大げさにしなくて良いですよ。でもそうですね1人だけ向こうの部長の新見って人だけは注意してください。双鬼4鬼を口にしました」
「それは、今からでも断るか?」
「いえ1人だけですし、レイさん葉子さんとその新見さん意外にはオレ達印象悪いから交流ってことにはならないと思いますしそこまでは。新見さんにしても詳しく知っている感じはなかったので知らぬ存ぜぬで」
「わかった。まぁいざとなったら気分が悪くなったとでも言って部屋に逃げればいい。そうすれば後はどうにでもなる」
「はい、お願いします。じゃぁ部屋に戻りますね」
バーベキュウ自体はまぁオレも楽しみにしてたんだよなぁ。変なチャチャさえ入らなければ楽しむつもりではあるんだけどなぁ。とりあえず連絡だけしとくかとオレはスマホを取り出しメッセージアプリを起動した。いつもの4人グループのグループチャットを開く
kei:今日のBBQ、華桜女子大空手部と合同になったらしい
ゆうじ:マジ?
mayuyun♡:あれあってからなんでそう言う話になるの?
kei:新見さんの思惑があるぽい
mayuyun♡:うわぁ・・・
さっちゃん:そこまでして知りたいものなの?
kei:あぁ・・・あれねぇ。オレが言うのもなんだけど、一部の空手関係の人にとっては、ものすごく気になるだろう部分が含まれるからなぁ
ゆうじ:でどうすんの?
kei:オレ達はむこうのメンバーだとレイさんと葉子さんだけを相手にして交流してることにすれば良いって。あとは京先輩がなんとかしてくれるってさ。あとは新見さんから逃げ切れば大勝利だ
mayuyun♡:あいあい
ゆうじ:OK
さっちゃん:わたしも出来るだけガードするね
kei:あぁそれ気持ちは嬉しいけど。まがりなりに相手が空手部。危ないから幸枝は逃げてね。こんなことで怪我とかして欲しくない
さっちゃん:ここでケイ君がデレた。今日は私の日でいい?お持ち帰りする?
kei:いきなり下ネタに走るな。デレてないし
バーベキュウが始まって20分ほど。今の所新見さんからの接触は無い。肉も美味いし、こういう雰囲気だと普段はあまり食べない野菜も入る。飲み物はオレ達高校生組は当然ノンアルコールだが、大学組は、あぁもう既に一部良い感じに出来上がってる。危険地帯から逃げながらドンドン食う。いつ部屋に逃げ込まないといけないか分からないからオレ達4人はとりあえず交流とかそっちのけで、まず食っていた。
「ケイ、お前らのおかげらしいな」
御木本先輩が寄ってきた。
「はぁ、オレ達のおかげってなんです?」
「いや、向こうの部長さんが言ってたぞ。お前たちが朝練でうまいこと繋いでくれたって」
あれを繋いだって言うのか?オレとしてはぶった切ったつもりだったんだが・・・
「はぁまぁなら、あとは先輩に任せますのでよろしくお願いします。オレも雄二も彼女居るんで下手な交流するとやばいですから」
お、我ながら良い感じの言い訳
「あぁそうだな、じゃぁオレ達は楽しんでくるわ」
適当に食って腹も膨れたし、このままボーっとしているのももったいないな
「真由美、ギター持って来るわ」
「あ、あたしも一緒に行く」
ふたり手を繋いで(つないで?)まぁ抱き付かれてだな、嬉しいから良いけど。
部屋からギターを持って出てきた。
隅っこに移動して。いつものメンバーといつの間にか合流していたレイさん葉子さんに囲まれて真由美と交代でギターを弾く。
まだまだレパートリーの少ないオレ達だけど、割とメジャー所の曲なのでみんなで歌って楽しんでいると。いつのまにか先輩女子が数人混ざってきた。
「ねぇケイ君KKシーズンに正式に入らないの?」
「前に軽音部の先輩にも誘われたんですが、あそこまでガチだとちょっと。なんでメンバー入りは無いですねぇ」
そこで1人の先輩がとんでもない爆弾を放り込んできた
「ケイ君てさ、見た目全体に華奢な感じで、顔つきも優しいちょっと女顔だよねぇ」
「ちょ、女顔って男にはほめ言葉じゃないですから」
「ん~、でもさぁ。ガールズバンドの曲をオリジナルキーで歌ってこの見た目でしょう。」
いやな予感がハンパ無い
「化粧して、女装して歌ったらすごーく似合いそうな気がしない?
ぶはぁ。いつもの4人が噴きだす。あれレイさんと葉子さんはなんか頷いている。
「嫌ですよ、女装なんかしませんからね」
「えぇ~可愛いと思うんだけどなぁ」
出来上がりが可愛いとかそういう問題じゃない
「絶対嫌です」
そんなこんなありながらも歌って笑って楽しんでいるところに
遂に来た。ラスボスいや違った、新見さん
「伊藤君も森川さんもギター上手なんですね」
とりあえず喧嘩しにきた訳ではなさそうなので
「そんなこと無いですよ。この4月から始めたばかりの初心者ですから」
「それで、そこまで弾けるなんて凄いですね。格闘技の・・・」
そこまで言われた段階でギターの弦を1本切る。『ビーン』と言う音と共に弾けた弦がオレの手を打ち、血がにじむ。
「いってぇ。弦切れちゃったな」
すぐさま真由美が
「ケイ手を怪我してる。救急箱は部屋にあるから行こう」
「あぁ、先輩方もレイさんも葉子さんも新見さんも、今はこんななんで今日はこれで失礼しますね。雄二悪いけどギター持ってきてくれ。幸枝も雄二を手伝って楽譜とか持って来てくれると助かる」
残されたのはちょっと憮然とした顔の新見さんと、事情を知らないレイさん、葉子さんと先輩女子だけだった。
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