第64話

「やっぱり新見さん探ってきたな」

部屋に引き上げて4人で相談中。

「さすがに合同イベントさえなければ簡単に接触して来ないとは思うけど、面倒だね」

さすがの雄二も苦い顔だ。

「あ、一応京先輩にはメッセ入れとくか」

kei:新見さんが接触して来たので逃げました

KK:見てたよ。上手く逃げたね。あとは4人共部屋に隠れてていいよ

kei:ありがとうございます

「とりあえず京先輩への連絡はこれでよしと」

「今日は、とりあえず大丈夫だとおもうけど、明日からはどうかな」

ちょっと不安そうな真由美に

「とりあえず明日・明後日は強化日程だから狙って接触できるのは食事時くらいか。そのくらいならタブン大丈夫。京先輩も気をつけてくれるって言ってくれてるし」

そういうオレに頷きながら雄二が

「それでも、ホテルでは出来るだけ固まっていたほうが良いだろうね」

そう結論したところに幸枝が

「内藤先輩って今回の事怒ってないんですか?」

「怒る?なんで?」

オレが尋ねると

「だって、私たちある意味大事な交流の場を乱したわけじゃないですか」

「あぁそういう事ね。大丈夫。京先輩は、数少ないオレ達の事情を知っている人のひとりだから。実際新見さんの事を話したらバーベキュウ自体を無しにしようかって言ってくれたくらいだから。オレもさすがにそこまではしなくて良いって言ったけどね」

「そか、内藤先輩の事そこまで完全に信頼してるんだ。そして私の事もそんな内藤先輩と同じくらい信用してくれてるって言ってくれたんだね」

少し顔を赤くしながら嬉しそうにつぶやく幸枝。

「んじゃ、そういう事で食事時だけ警戒で」

そこで気づいた

「明々後日1日オフ日」

4人で頭を抱え。

「外に逃げるか」

オレの提案に

「「「逃げるってどこに」」」

3人が声を揃えたので。ある提案をし、3人はそれをノリノリで了承してくれた。


翌日朝食時はさすがに接触してこなかった。

京先輩がキャプテンとして日程を再度説明する。かなりのハードトレーニングだ。

オレ達はウォーミングアップがてらジョグで近くの陸上競技場まで移動。マネージャーと引率としての顧問の先生はレンタカーに機材を積んで移動だ。

競技場で準備運動を終えたところに幸枝がやってきて

「ケイ君、ちょっと良いかな?」

「ん?あまり時間無いけど、たぶん5分くらいなら」

「ちょっと、こっち来て」

移動した先は競技場のインフィールドの芝生がフカフカしている場所だった。

「えとね、今日これからいつもに比べるとかなりのハードトレーニングするんだよね」

「そうだね、2日間限定でかなり身体をいじめる事になると思う」

「ん、じゃぁそこでジャージの上下脱いで」

「は?何いきなり。訳わかんないんだけど。ここで迫るのは無しだよさすがに」

「そんなこと分かってる。ってあ、私テンパッて説明してないや」

「うん、先に説明頼むわ」

「私が京先輩に連絡した事は聞いてるよね」

「あぁあの件ね」

「だけど、ケイ君はトレーニングを軽くするつもりは無いんでしょう」

「まぁ、そうだね。京先輩から聞いてるかどうか分からないけど、どこまで出来るかは知りたいからね」

「だから私は、そのケイ君をサポートしたいと思うの。ケイ君だって別に怪我をしたいわけじゃないでしょ」

「もちろん。怪我してたら自分の限界を知るのも遅くなるし、ひょっとしたらそこまで行きつく事さえ出来ないからね」

「うん、良かった」

「まだ分からないんだけど」

「私がテーピングの勉強してたの知ってるよね。最初は怪我した時の応急処置として勉強したんだけど、怪我防止の効果もあるんだって。だからこれからケイ君にはトレーニング前に必ず私がテーピングをします。怪我を少しでも防止して、ケイ君が思いっきりやれるように、サポートします。という事でジャージ脱いで足出して」

「お、おお」

勢いに負けてジャージを脱ぎ丁寧にテーピングをしてくれる幸枝の姿にジーンと感動していると。

「はい、反対の足」

足を換えテーピングをしてもらう

「はい、ジャージ履いていいよ。そしたら、シャツ脱いでね」

「え、上半身も?」

「そうよ、ケイ君の場合、普通よりかなり負荷掛けるでしょ。腰周りとか背中をテーピングします」

そうして全身をガチガチにテーピングされ再度シャツやジャージを着てみんなのところに行く。

「ケイ、加藤さんと何イチャイチャしてんだ?真由美ちゃんに言い付けるぞ」

からかって来る先輩に

「なんでも幸枝は今テーピングの勉強をしてるとかで実験台になれって言われたんですよ」

「ほぉテーピングか。彼女も随分と本格的なマネージャーになってきたなぁ」

「それが全部この彼女持ちの男を落とすタメだってんだから泣けるよな」

「なぁケイ。おまえちゃんと振るのも優しさだぞ」

「先輩、オレが幸枝を何回振ったかお教えしましょうか?あれだけの好意を向けてくれる相手を振るのってそれなりにきついんですよ。それでも、オレはきちんと向き合って振ってるんです。それでも幸枝が諦めないだけで」

「あぁまぁ・・うん、今のはオレ達が悪かった。なんというか、まぁガンバレ?」

「そこで何故疑問形?」

と笑いながらトレーニング開始。


1日のトレーニングメニューをいつも通り最初に入り、最後にも混ざる形でこなし。そろそろ日が傾き始めたところで

「よーし、今日のメニューは全て終了だね。クールダウンにジョグでホテルまで帰るよ」

京先輩の声に

「おーい、内藤このメニューいつもの合宿メニューと比べてきつくね?」

「そうそう、去年はもう少し軽かったように思うんだけど」

軽い不満の声に京先輩がこたえる

「その代わり明後日に完全オフ日を作ってるじゃない。やるときには集中してギュッとやる。そしてきちんと休む。そういうメニューにしたつもりよ今年は。これは事前に説明したはずだけど、なぜ今になって文句を言うのかしら?」

「いや、その。分かっていても愚痴ってでるじゃないか」

「それも良くないのよ、最新の脳化学では不満を口にするとそれを脳がそういうものだと認識して、その結果本来の不満より大きな不満になってしまうそうよ。これって日本の昔からの言葉で言霊って考え方が当てはまるように思えるわね。昔の日本人って今のような科学の力を持って居なくても経験で本質を見抜いていたのかもしれないわね」

完封だ。京先輩かっけぇ。実際このあたりはキチンとメンタルヘルス、メンタルコントロールについて学習しようとすると初歩の初歩で出てくる。他人の不満を聞く時にも決して「同調してはいけない」とかな。口にする事で増幅される不満が、同調者を得る事で更に増幅され極端な話1の不満がいつの間にか10にも100にもなるってやつだ。そうなると当然に本人のストレスも大きくなり相手の事を考えて居るはずが相手をより傷つける事になる。そういう意味では昔から言われる「人に話すだけでも楽になる」てのはある意味ウソなのかもしれない。単にそいつが興味本位で聞きたいだけの下種な行為かもと最近勉強していて感じ始めている。

閑話休題

ホテルに戻り、幸枝が持って来てくれたアイシングバッグで筋肉を冷やしながら4人で話している。

「どうだった?勉強して初めてなんだけど予防テーピング」

幸枝はテーピングをしてのトレーニングについて質問して来た。

「そうだな、最初は少し窮屈な感じがしたし、普段より少し動きが制限されるから違和感あったけど、しばらくしたら慣れたよ」

割と良い感じに思えた。

「よし、じゃぁ明日は真由美ちゃんもテーピングしてみようか」

「え?あたしはいいよぉ」

「ダメダメ、真由美ちゃんだってもう主力なんだから怪我してもらったら困るんだからね。それで、二人の意見を聞いた上で、私としては3人にテーピングして欲しいと思ってる」

「3人ってオレ達3人か?他の人たちは?」

「なんというか言ったら悪いけど、他の人たちは内藤先輩以外はちょっと適度に手を抜いている感があって、あれならいらないかなぁって。だから本当は内藤先輩にはテーピングしてほしいんだけど・・・」

「あぁ立場上あれかぁ」

ほんとめんどくさい。上の立場にはなりたくないなぁ。

そのあと、アイシング機材を片付け、明後日の予約をして夕食までの時間は無駄話で時間をつぶした。

夕食時にも新見さんの接触を避けるため、急いで食事をすませて部屋に引っ込んだ。そしてギターを見て。今日練習して無いなというところからホテルの窓口でカラオケルームを使えないかと相談したところ、今日から合宿に入った周時高校の軽音部が練習に使うそうで、どうしてもと言うのなら周時高校に一緒に使うように申し入れてくれとのこと。

周時高校の顧問の先生にお願いに行くとふたつ返事で了承してもらえた。むこうは既に練習に入っているそうで、とりあえず紹介してくれるそうだ。練習ということでここにはオレと真由美だけで来ている。

「よーし、一旦注目。今日ここに合宿に来ているこの二人と合同でここを使うことになったからな。お互い尊重して練習するように」

「高国高校1年の伊藤景です。陸上部との掛け持ちで軽音部に所属しているのですが、少しでも練習したいと思って合同使用を顧問の先生にお願いしました。よろしくお願いします」

「同じく高国高校1年の森川真由美です。ケイと一緒に練習場所をおかりします。よろしくお願いします」

「周時高校軽音部の部長、長瀬達也です。僕らは男子3人女子4人と人数少ない小さな部ですし他校との交流にもなりますので歓迎します」

そこで軽くお互いの自己紹介をして隅の方で練習させてもらうことに。

しばらく練習していると長瀬部長がやってきた

「やぁふたりは軽音暦どのくらいなの?」

「え?あぁオレ達、高校入ってやってみようかって始めたので4月からで今5ヶ月目?かな」

「へぇ、じゃぁさ、高国高校軽音部って事はKKシーズンって知ってるよね」

「知ってますよ。うちじゃダントツの実力と熱意持った先輩達です」

「ふぅん」

ここで長瀬さんはちょっと探るような目つきで見ながら

「で、君が『ケイ』?」

「え?さっきも自己紹介しましたけど、伊藤景です」

「ま、いいや。ちょっと提案なんだけどさ。せっかく一緒に練習してるんだから、お互いに1曲づつでも聞かせあわない?」

「お、良いですね。是非聞かせてください」

「でもそっちギター1本だけだね、こちらの貸そうか?」

「あぁ、それは。オレと真由美ってまだ初心者で、お互いの好きな曲で練習してるだけで、レパートリーが違うんですよ。なんで一緒に演奏ってまだ出来ないんです。なので、よければそれぞれ1曲ずつやります。あ、歌は二人で歌いますけどね」

その後、お互いに聞かせ合い感想を言いあって今日の練習を終わった。

部屋への帰り

「いやぁ、やっぱりキチンと練習してる人たちって違うねぇ」

「うん、あのひとたちって何となくだけどKKシーズンの先輩達に通じる物を感じたんだけど、ひょっとしてプロ志望の人たちなのかな」

楽しくおしゃべりをしながら部屋に向かっていると、部屋への角を曲がると華桜女子大空手部の部屋の前で仁王立ちしている新見さんの姿が・・・

オレ達は回れ右で反対に・・・

「あれって、オレ達を待ち構えてるんだよねきっと」

「それしかないっしょ。どうする?」

「ちょっと連絡してみる」

スマホのトークアプリを起動する。

kei:京先輩、新見さんが待ち構えていて部屋に戻れません

KK:マジ?

KK:お花摘みのフリしてみてきた。あれはマチガイナさそうね

kei:表回りますので窓から入れてもらって良いですか。

KK:それが一番ましか

ということでまずは真由美を窓から部屋に押し込む。押し込むときに押したらちょっとやわこいところでちょっと嬉しかったのは秘密だ。

今日は最後に疲れた・・・

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