第2話

 「こんにちわぁ。見学良いですかぁ」

「あぁいつでも歓迎だ……え?君、陸上部じゃ?」

「軽音部は掛け持ちダメですか?」

「いや、そんなことは無い……と思うけど。おーい内木戸。陸上部のホープが掛け持ち入部希望だってぇ」

今日は部活の開始時間をちょっとずらして(さぼって)軽音部の見学にきてみた。

「おぉ良く来てくれたね。軽音部部長の内木戸です。陸上部のホープなんだって?」

「どうも1年B組の伊藤景です。ホープって、そんなんじゃなくて、中学時代の先輩が呼んでくれたので体験入部してるだけですよ」

「先輩?あぁ内藤京か。君たち3人の事は彼女からちょくちょく聞いているよ。自慢の後輩だってな」

「京先輩とお知り合いなんですか?」

「知り合いってかオレも同中だぞ。君達3人がいきなり賞状もらってきて全校集会で前に並んだのを見てた一人だ」

「うわぁ、照れますねぇ」

「あの時は驚いたからなぁ。あの陸上部が3枚も賞状を獲ってきたってな。まぁフタを開けて見れば3人ともが助っ人だったわけだけどな。しかも前日に……」

「もうやめてくださいよ。恥ずかしいです」

「うむ、まぁ。そんな景君が軽音部になぜ?」

「理由は色々ありますけど。音楽も好きですし、できたらギターとか弾いて見たいなって思いまして」

色々な理由なんてのはウソだ。自分の陸上競技者としての限界をなんとなく感じ始めたのだ。身長162cm、コンプレックスを感じるほどに低い身長で成長が止まってしまった。コンタクトスポーツほど顕著ではないが陸上競技でも体格による優位差はやはりある。この身長では高校以上の陸上競技の世界では体格的に通用しなくなってくるのは目に見えている。良い所県内入賞止まりだろう。走るのは好きだし陸上競技自体を辞める気はないが、もう頂点を目指すような競技者としてのモチベーションはなくなってしまった。幸いな事にこの高国高校はそこそこの進学校でもある。楽しむ程度に陸上競技にも音楽にも参加しながら大学を目指すつもりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る