第109話

8月28日オレの誕生日なんだけど、今日は『誕生日パーティをするからケイは朝ごはん以外作っちゃダメ』といわれている。ちなみに部活は夏休み最終の4日間は休みだそうだ。京先輩に理由を聞いたら、苦笑いしながら『そのあたりは宿題を集中的にやっつけたい人が多いから』だそうな。まぁ個人での勉強はやっても宿題はあまりやりたく無いのも分かる。準備は真由美も料理スキル上がってたし変なものが出来上がってくることは無いだろう。それに久しぶりに友達に誕生日を祝ってもらえるってのが嬉しい。何か森川家で準備をするとかで奈月もそっちに行っている。つまり、オレは超暇。

「11時頃に来るって言っていたから、まだ2時間近くあるなぁ」

何して時間つぶそうか……。とはいえ最近の時間潰し、お気に入りはWeb小説サイト。それも英語サイトが何気に面白いので読み漁っている。比較的簡単な表現の英語なのでオレでも気軽に読めるのが嬉しい。中には日本のラノベを英語化したものがあったりして対比して読むと表現の違いにニヤニヤしたり楽しみ方が広がる。ついでにオレの英語の苦手意識が少しでも少なくなるという効果もある。という訳でタブレットを手にベッドに寝転がりながら読みふける。タブレットにアラームを設定しておけば時間を過ぎることも無いので便利。

「ケーイ、時間だよぉ」

身体を揺すられる感覚で意識が浮上してくる。

「ふあ、あ?真由美?」

反射的に抱き寄せる。すりすり。あぁやわらかくていい匂いがして癒されるなぁ。

「もうぅ、嬉しいけど。寝ぼけてじゃなくて、ちゃんと起きて」

徐々に意識が浮上してきて現状を把握する。腕の中に可愛い生き物がいるじゃないか。全力で可愛がる。抱き抱き、スリスリ。ジーッ、ちゅ。ボフンという音が聞こえそうな勢いで真由美が赤くなって固まった。あれ、最近じゃこのくらいなら平気だったと思うんだけど……

「ケ、ケイ。その嬉しいんだけど。後ろにみんな居るの……」

あ、そりゃ固まる。そうっとふとんの中に隠れ……

「ケイ自分だけ隠れるのは卑怯」

「なら真由美もおいで、一緒に隠れよう」

ごそごそと布団の中に入ってくる真由美の気配を感じる。その間にふとんの隙間から周りをうかがう。

先頭は奈月か、キラキラした目がうざいぞ。横には当然雄二、こっちは何か苦笑いしてるな。レイさんと葉子さんがいつもどおり並んで面白そうにしてるな。あれ?幸枝は、あ、ちょっと裏で面白く無さそうにしてる。そこまで確認したところで真由美が横まで来た。ふたりで縮こまって隠れていると、もちろん皆にはここにいるのは分かっているんだけれど……同じ布団の中にもぐって並んでいると、なんか良い匂いがするし、横を見ればすぐそばに可愛い顔があって、それはオレの彼女で、そんなにガマンしなくても良い間柄。となれば、『ごそごそ』ちょっとくっついてみる。それに気づいて真由美もなんとなくくっついてくれる。横を向けばさっきよりも近い位置に真由美の顔があって、見ていると、真由美もオレの方を見る。目が合えば引き寄せられて『ちゅ』なんか嬉しい。あれ?これって結構良い感じじゃね?なんて思い。ちょっと照れ笑いを交わし。ちょっと体勢を変えて身体を真由美の方に向ける。真由美が気づいてちょっと頭の上にクエスチョンマークが浮かんだので、ちょっと指でお腹をつつく。真由美もアスリートなので引き締まった身体をしているけれど、男のようにゴツゴツしているわけでなくふにふにとして気持ちがいい。

「ふにゃ」

可愛い声がしたと思うと、今度は真由美の手がオレのお腹をサワサワと撫でてきた。ちょっとくすぐったいので身体をよじる。しばらくオレが真由美をつんつんすれば、真由美がおれをさわさわしていると気づいた時にはほとんど身体が密着していて。見つめ合いそっと抱き寄せて……

「あなた達、良い加減にしなさいよぉ。お布団の中で見えないからって何も分からないわけじゃないですからね」

バサッと布団が剥ぎ取られ、そこには赤い顔をして腕を組み抱き合うおれたち二人を見下ろす幸枝がいた。

「「えと、その。つい」」

「ついじゃないわよぉ。ふたりとも私の目の前でそれはいつもに増してデリカシー無いのわかりますよね」

あ、幸枝が涙目だ。これはかなり来てる。真由美とアイコンタクトをして合意をもらい。そっと幸枝の肩を抱いて

「ごめん。やりすぎた」

そして、頭をナデナデ。あっという間に幸枝の表情が蕩けたような笑顔になった。

「え、ケイ君がデレた?これって彼女にしてくれたってことだよね」

頭を抱えつつ幸枝にチョップする

「違うわ。何とちくるってんだよ。謝罪してるだけだっての。なんでこういうとこだけポンコツになるんだよ幸枝は」

まったく安定のポンコツさ、普段の幸枝は凄く有能なマネージャーで成績もオールマイティに良くて、運動だって万能選手なのにな。

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