第122話

「「「いってきまーす」」」

揃って家を出たオレ達は学校への道を歩いている。

「まったく。にぃも真由美おねぇさんも朝からあれはちょっとって思うわけですよ」

「「面目次第もございません」」

「まぁそれはそうとして、そのどうだった?」

「「は?」」

「だ、だって気になるじゃん。あそこまでガッツリ触ったら、やっぱり気持ち良いのかなとか……」

「奈月(なっちゃん)」

「ごめんなさーい」

そんなやりとりをしていると雄二が合流して来た。

「おはよう、みんな」

「おはよう、雄二(さん)(兄貴)」

さっきまでの騒ぎ具合がウソのように奈月が雄二の腕に抱きつく。それをやさしく抱きとめ。

「おはよう、なっちゃん」

傍目を憚ることなく雄二の頬にキスをする奈月と、嬉しそうになつきの頭を撫でる雄二。

「おうおう、もう立派なバカップルだな」

オレがからかうと雄二が照れながら

「そんな立派ななんて、褒められると照れるよケイ」

「褒めてねぇよ」

そんなバカ話をしながら歩いて中学との分かれ道

「じゃぁ雄二さんまた放課後に」

手を振って奈月が走って行く。どうやら先に友達を見つけたようだ。

「まだちょっと無理をしてるか」

ぽつりと呟くと

「そうだね、なっちゃん大分落ち着いてきたとは思うけど、もう少し」

驚いて雄二を見ると

「なに?驚いた顔でどうした?」

「いや、雄二が思ったより奈月の事を見てくれてるのが嬉しくてさ」

「そりゃ、仮にも彼女のことだよ。そのくらいはな」

「うん、雄二でよかったよ。オレもできるだけの事はするけど、多分最後は雄二が頼りだと思うから、奈月のこと頼むな」

「もちろん」

にっこりと良い笑顔で答える雄二に安心して、そこからは普段どおりの雑談をしながら登校した。普段と違ったのは靴を履き変えるのに靴箱のふたを開けた時、真由美の前にぱさっと落ちた白封筒。それを見てげんなりとする真由美に

「久し振りに来たなあ」

「あたしケイと付き合い始めてからの方が多い気がするのよねぇ」

そこに村上がやってきた

「おはよう3人さん」

「「「あぁおはよう村上(君)」」」

「どうしたんだい、面倒くさそうな顔して」

それに対して言葉無く真由美が白封筒をひらひらさせて見せる。

「あぁなるほどね」

「ま、こんなとこで話すことじゃないから、とりあえず教室行こうぜ」


「で、中身は?なんて書いてある?」

つい不機嫌な言いかたになってしまい。

「う、ケイあたしが悪いんじゃないよ」

「分かってる、分かってるんだけどさ。真由美だって分かるだろ。それに真由美に怒ってる訳じゃないから。」

そう、何故かオレ達ふたり、付き合っているのは知られているのに二人共に時々こういうことがある。そこで横から雄二が軌道修正の言葉を掛けてくれる。

「それで、どこの誰がなんて書いてきてんだ」

「えと、3年B組の金屋誠二先輩ね。放課後3時に部室棟裏に来て欲しいって。」

「金屋先輩ってどんな人だ?」

「あ、その人知ってるよ」

流れで一緒に聞いていた村上が、

「バスケ部の先代のキャプテンで先代エースだった人だよ。クラスマッチでケイもマッチアップしてただろ」

「ん~クラスマッチのバスケだと山川先輩くらいしか覚えが……」

「まぁケイもマッチアップして抜いちゃってたからなぁ。それに先代エースっても引退前に山川先輩に実力でエースの座を奪われたくらいだから。上手いけどまぁうちのバスケ部でそのくらいの位置に居たひと。陽キャでバスケ部ではそれなりに人望もあったそうだよ」

「でも3年でって受験勉強で忙しいだろうに、なんでこのタイミングなんだろうな」

「あれだよ、高校最後の文化祭をおひとり様で過ごしたくないって」

「そんな理由で彼氏もちの女の子に告るってか?バカじゃね」

「そういうけどな、この数回のケイへの告白だってその系統だぞ」

「あぁそうなんだ」

「でもさ、そうだって分ればお断りも気楽ね」

「だよな」

「じゃぁ、放課後お断りしてから部活行くね」

「オレは一応近くでガードしてるから」

「うん、お願いね」


放課後3時少し前にオレが先に指定の場所から少し離れた校舎の影で待機。そっと伺っていると時間ちょうどに真由美が登場。相手の金屋先輩はまだ来ていない。そこに男子生徒が5人、真由美の近くでなにやら奇妙な動きで踊りだした。さらに追加で女子が出てきて参加を始めた。ここまでで気付いた。フラッシュモブだ。人によっては断りにくい雰囲気が出来るとか言ってるが。これは見るに耐えない下手さ。必死でやっているのはわかるが。最後まで見るまでも無いと思うけれど、そこは一応真由美の判断だな。あ、ゴミを見るような目で一瞥してさっさと移動し始めた。まぁ指定の時間も過ぎたし本人も来なかったで良いだろう。と思っていると慌てたように一人の男子生徒が走ってきた。

「まってまって、森川さん」

「どちら様ですか」

あぁ真由美の氷点下の視線スキル発動してるな。

「あの、手紙を出した金屋です」

「そうですか、呼び出しておいて遅刻するような方なんですね。私も暇なわけではないので失礼します」

周囲を囲んでいるフラッシュモブのメンバーも少々慌てているようだ。

「いや、その彼らが僕が君に告白すると言ったらフラッシュモブで応援してくれると言ってくれたのでお願いしただけで、その……」

もう一度周りを一瞥した真由美が

「フラッシュモブですか。ただでさえ相手に威圧感を与える最低の方法なのに、見るに堪えない踊りに聞くに堪えない歌でですか」

「見るに堪えないとか、聞くに堪えないとか、いくらなんでも言いすぎでしょう」

「私はこれでもKKシーズンのサブメンバーです。私の彼の伊藤景はKKシーズンに請われてスポットで歌うボーカルです。それを知った上でのお言葉ですか。やるならやるでせめて最低限相手を選ぶことをお勧めします」

「待てよ」

金屋が真由美の腕を掴もうとして空振りしたところで

「そろそろ、オレの彼女に絡むの終わりにしてくれませんかね」

なんなら殴り合いのひとつくらいは覚悟して出て行き止めに入った。

「ちっ、男の監視つきかよ。行くぞ」

あっさり引いてくれたので無駄なことをせずに済んだと胸をなでおろしていると

「ケイ」

「なんだ」

「遅い」

「あぁごめん。ちょっと笑いをこらえるのに必死でさ」

「むぅ酷いじゃない」

「ごめんって。あの酷いフラッシュモブもそのあとの言い訳もさあんまりだったんで」

そう言いながら真由美を抱き寄せ

「ごめん。もっと早く助けに入ればよかったね」

やさしく頭から背中を撫でてなだめるしかオレには手がなかった。

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