第149話

「そ、その片思いで。どうしたら……」

教室内の小さく仕切られたブースの一つにオレは相談員として座っていた。目の前に座っているのはミディアムロングの黒髪にメガネのおとなしめな感じで小動物感のある女の子。これガチ相談じゃん。オレ恋愛経験値低いのにどうしろと……

「その、お相手の方とはどんな関係ですか」

とりあえず何もしゃべらないわけにはいかないのでテンプレ的な話をもっていく。

「その、えと……小さい頃からの知り合いで……」

ふむ、幼馴染か

「幼馴染ですか。そうするとお互いのことは大体知っている感じなんですよね」

「はい、食べ物の好き嫌いから、そ、そのエッチの趣味まで……」

そこまで言うと女の子は真っ赤になって俯いてしまった。

「そうすると、現状では家族とか兄弟みたいになってしまっている感じですかね」

「はい」

残念そうに答える女の子に

「分かります。オレもそうでしたから」

「え、そうだったんですか」

「ええ、随分と長いことそうでしたよ」

「でも、お二人は有名なバカップ……ラブラブカップルですよね」

「何か言い換えましたね。まあ、聞かなかったとして……」


「ありがとうございます。頑張ってみますね」

「うまくいくことを祈っています。頑張ってくださいね」

一人目の相談者を送り出して。ホッと一息すると横から

「じゃぁ頑張ってくださいね」

どうやら真由美もちょうど一人終わったようだ。ちらりと見ると目が合ってお互いに苦笑がもれる。

「オレ達なんかが相談員で良いのかな」

「ね。恋愛経験なんてケイとだけなのに」

「オレだって真由美とだけなのにな」

そういうと真由美はちょっと複雑な顔をして

「ケイの場合は、ちょっと違うと思うなぁ」

「な、なんだよ。オレは真由美だけだぞ」

「うん、別にそこを疑ってるわけじゃないから」

「なら……」

「おーい、次の相談者来てるから頼むぞ。伊藤をご指名だ」

ここで受け付け担当の野末から声がかかった。

「わかった。すぐ行くよ。じゃ、真由美、また後でな」

「あいあい、頑張って」


 相談ブースに戻ると綺麗な栗色のロングヘアを黒リボンのカチューシャでまとめた女の子が座って待っていた。2年生で結構有名な美少女さんだ。名前はたしか、斎藤理子さんだったか。入学以来3桁の告白を受けことごとくお断りしてきたという伝説持ちらしい。そんな人でも自分の恋愛では悩むんだな。

「こんにちわ。今日はどのようなご相談でしょうか」

「実は……」

親が海外赴任で一緒に引っ越していった幼馴染が忘れられないが、親しい男友達から付き合ってほしいと告白されたと。幼馴染も数年で戻れると言っておりどうしたらいいのかアドバイスが欲しいということらしい。

「ふむ、そうですね。あなたにとって1番は誰なのか。それが一番大事なのではないでしょうか」

「1番ですか」

「そうですね。こうして迷われるということはその告白してきた男の子の事も決して嫌いではないのでしょう」

「そうですね。嫌いではないです。でも男の子として恋愛対象として好きかと言われれば、その……」

「そういうのありますね。友達として好きでも恋愛対象として見ていなかったので混乱しているというところでしょうか」

「はい」

「では、少し想像してください。あなたがその告白してきてくれた男の子と付き合い始めていて、そこに幼馴染が帰国してきました。あなたは幼馴染にその彼と付き合っていると紹介できますか」

少し目を瞑って考えた彼女は

「それは、無理だと思います」

「それでは逆に、その男の子と付き合ったとして、幼馴染が帰国したからと言ってその告白してきてくれた男の子を振って幼馴染と付き合う事ができますか」

「さすがにそれは……」

「では最後に、今付き合っていない状態で幼馴染が帰国したとしたら、告白してきてくれた男の子と幼馴染。どちらと付き合いたいですか」

「あ……」

ハッとしたように目を見開いて彼女はオレを見た。そこでオレはにっこりと笑って、少なくともそう見えるように祈りながら

「それが、きっとあなたの中の答えだと思いますよ。その気持ちを無視して決めたら、きっと後で後悔するのではないでしょうか。それが、あなたの中の1番を見失わないことだとオレは思います」

「なんとなくわかった気がします」

「なんにしても、よく考えて自分の気持ちを大事にしてくださいね」

「ありがとうございます。しっかり考えて答えを出そうと思います。」

「うん、頑張って」

「伊藤君を指名してよかった。それに伊藤君がもてる訳もなんとなく分かった気がする」

「え」

「なんでもないです。ありがとうございました」


 その後も数件の相談を受け、時間的に最後の相談者と対面している。黒髪短髪の男子生徒。たしか2年生でサッカー部のレギュラー

「実は、好きな女の子がいるのだけれど……」

どうやら斎藤理子さんの言う『告白してきてくれた男の子』というのは彼のことのようだ。一通りの事情を聴いたところで

「お相手の彼女の気持ちは聞かれましたか」

「いや、何か戸惑っている感じで返事は待ってほしいと言われた」

「とりあえず、お相手とは友人としては仲が良いのですよね」

「俺としては、学校内で一番仲が良いと思っているよ」

「では、問題はその方が、あなたを恋愛対象として見ているかどうか。そしてその遠くに行っている幼馴染とあなたのどちらがその方の1番かではないでしょうか」

「ぐ、残念ながら今のところは彼女の中で俺はおそらく友人枠でしかない。でも好きなんだ。2番目でいいから付き合いたいって思っちゃいけないのか」

「そうですね。そこは思うのは自由です。でも、付き合うというのであれば、お相手の気持ちを考えないと後で辛い思いをするかもしれませんよ」

「辛い思い」

疑問を口にするので

「その幼馴染さんが帰国した時に彼女の気持ちがまだ幼馴染さんに向いていたらその方は苦しむのではないでしょうか。そんな彼女を見てあなたは平気ですか。付き合うのであれば、自分だけを見てほしいと思いませんか」

少したたみ掛けてみる。

「う、それは。付き合っている彼女の気持ちが他の男に向いていたらそりゃ辛いだろう」

「なら努力してみませんか」

「努力?」

「そうです。好きだとアピールするだけでなく。その彼女の1番になる努力です」

「どんなことをすれば……」

「そうですね。基本は自分磨きでしょう。他にも彼女の趣味に付き合うとか。ちょっとしたことですが、いつも守っているよという優しさをみせるとかでしょうか」

「う、さすが体育祭で公開告白される人間の言葉には実績があるだけにリアリティがある」

「では」

「ああ、自分本位でなく頑張ってみるよ」

「成功をお祈りしております」


 彼が出て行って、これでオレのクラスでの担当時間は終わった。引継ぎを済ませてシフトが一緒の真由美を待っていると。

「ケーイ、お待たせー」

「おう、大して待ってないから気にすんな」

早速真由美が定位置の左腕に抱きついてくる。

「じゃ、文化祭周るか」

「うん」

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