第153話 バレンタイン特別編SS
「よーし、今日の練習はここまで。体を冷やすなよ」
陸上部顧問の小谷野先生の声がグランドに響く。
「ありがとうございました」
中学1年の秋にこの陸上バカの先生に捕まって約1年半。幼馴染の森川兄妹とグランドで汗を流すのにも慣れた中学2年の冬。今日は2月14日。リア充男子たちがマウントを取り、オレ達のように女の子に縁のない野郎どもは肩身の狭い1日を過ごした。今は制服に着替え帰宅準備を済ませ部室棟脇で幼馴染で親友の森川雄二と待っているのは雄二の双子の妹でもう一人の幼馴染、森川真由美。
「ケーイ、兄貴もお待たせえ」
無邪気に抱きついてくる幼馴染にわずかにじれったさを感じながら抱き寄せる。小学生のころからずっとそう、オレと真由美はいつの頃からか普通に抱きつき、抱き寄せるのが普通になってしまっている。周りの友人達にはカップルだとか冷やかされているが、そのたびに否定しているし実際に付き合っているわけではない。それでも本当はオレはそれを否定せずに真由美と一緒にいたい。そんな気持ちに気付いたのは中学1年の夏のあの事件の時だった。真由美が傷つけられた時、オレは感情が爆発してしまった。それでも真由美との関係が壊れるのが怖くて告白はできないでいる。
「じゃぁ帰るか」
促してきた雄二の手にはちょっとした大きさの袋がある。
「今年は何人からだ」
オレが聞けば
「ああ、42個かな」
少々めんどくさそうに答える雄二に
「兄貴は相変わらずだね。で、ケイは」
ニヤニヤしながら聞いてくる真由美にちょっと悲しくなりながら。
「ゼロだよ。わるかったな、モテなくて」
そう答えると、真由美は嬉しそうな笑顔で
「仕方ないなあ。そんなケイには特別にあたしから上げよう。今年は手作りだからね」
「え、大丈夫なのか」
そこまで言って気付く。そういえば最近雄二が調子悪そうにしてたような……。そこで雄二を盗み見ると。苦笑いをしながら
「ケイ、それは大丈夫なやつのはずだから」
オレは雄二の肩を抱きながら
「ここのところのお前の不調はそれか」
「ま、まあとりあえず受け取ってやってくれよ」
「ああ、大切な幼馴染二人の気持ちとしてありがたくもらうよ」
「真由美の威嚇に耐えられる女子はいなかったみたいだし」
雄二が何やら訳の分からないことを追加したけれど。義理だろうがなんだろうが真由美からのチョコは嬉しい。そこで気付いて
「で、真由美はほかに誰かにあげなかったのか」
「え」
真由美が何か悲しそうな顔をしたのでそれ以上の追及は諦め
「と、とにかくありがとう。これで今年もチョコゼロは回避だよ」
ま、とりあえず他の男にチョコを渡していなさそうなのでほっとしていると、雄二が後ろで肩を落として溜息をついていた。
いつか真由美から本命チョコをもらいたいな……
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中学時代のすれ違いのふたりでした。
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