第23話

いつもと同じように幼馴染3人で登校

「あのあと大変だったな」

ニヤニヤと雄二を見やる。

「ねぇ。まさか兄貴に上級生の女の子があんなに来るとはねぇ。どう、いきなりもて始めたおにぃちゃん」

「やめろって。ろくにオレの事を知らないのに『好きです』って気持ち悪いって」

「えぇ?そうかなぁ。なんだかんだ言って兄貴ってそれなりに有名なんだよ」

は?雄二が有名?いや、確かに見た目は良いし、性格だって穏やかで優しい良い奴だってことは知ってるが。有名?

「ん~、これ言っちゃって良いのかなぁ。2、3年生女子の間に不文律てかお約束的なのがあってね。人気投票の結果が出るまでは新入生にアプローチ禁止らしいんだよね。でもアプローチは禁止でも調べるのとかは自由らしいので、ランキング上位者の個人情報は、お察しの状態らしいのね。だから一部本当にランクインしたからってだけで来てる人もいるかもだけど、ある程度ちゃんと知ってくれた上で来てる人がほとんどって事みたいだよ」

「それってなんてストーカー?あれ?そうするとひょっとしてオレのこともある程度知られてる?」

「う、うんタブン。あたしのとこに来た人にははぐらかしておいたけど……。でもあたしと付き合ってる事もセットで知られてるはずだから、ケイのとこには兄貴ほどには被害いかないと思う」

そんな話をしていると。

「おはよぉ。今日も3人おそろいだね。」

「神崎さん、おはよお」

神崎さんが真由美をちょっと離れたところにつれていく

「真由美ちゃん昨日3ね」

ちょっと顔をしかめた真由美が

「もう、いきなり多い」

「どうかした?」

「なんでもないよ。ちょっと女の子だけの話」

そのまま雑談をしながら昇降口まできて靴箱のフタを開けると、パサパサっと落ちるものがあった。見るとピンクや花柄のかわいらしい封筒が2つ。

オレの周りだけ時間が止まったように感じた。

最初に頭に浮かんだのは『いたずら?』だが、人気投票の件で思い当たる節がありすぎる。

まるで油切れの機械のような動きで封筒を拾い、周りを見回す。

「どうしよう」

他に何を言えるというのか……。



とりあえず教室に移動した俺達の前にある2つの封筒を見ながら

「これってやっぱりあれなのかな?」

おそるおそる固有名詞を避けて口にする。

「そうなんじゃないの」

真由美は少々不機嫌だ。気持ちは分かるけど俺のせいじゃないよねこれ。

雄二に助けを求めるが、首を横に振られた。神崎さんは……苦笑いしてる。

もうしかたない

「まぁ中を見るしかないよね。断るにしても誰からかも分からないんだし」



まずはピンクの封筒を開ける

「今日の昼休み。体育館裏の銀杏の木の下でって……2年C組の松村かえで」

次は花柄の封筒を

「放課後3時に1棟の屋上で待ってるって……こっちは、1年E組加藤幸枝」

真由美は微妙な顔してるな。神崎さんが何故か申し訳なさそうにしてるのは何故かな?

「これって無視はダメ……だよねぇ」

「ちゃんとお断りしてきてね。無視とかだと期待させることもあるんだよ。あたしもケイがちゃんとお断りしてくれないと不安になるから」

「わかった、ちゃんと話してくるよ。気は重いけどね」

そこで真由美がクスクスと笑って

「ケイって人からの頼みごとを断るの苦手だものね」






昼休みの体育館裏。銀杏の木ってあれだな。とすると、あの人が松村かえで先輩か

体育館裏には1本の大きな銀杏の木がある。その下に小柄なポニーテールの真面目系の女の子がひとりいた。

「えと、松村先輩ですか?」

「あ、伊藤くん来てくれたんだ」

ぱぁっと明るい笑顔になった。

「そりゃ呼ばれれば来ますよ」

「その、ね。来てもらったのは……じゃなくて、えと、まず自己紹介しなきゃね。」

かなりテンパッているもよう。

「先輩、焦らなくていいですから。お話はちゃんと聞きます」

軽く息を整えて

「私は2年C組の松村かえでといいます。入学してきてすぐに陸上部で走っているの見たのが伊藤君を知った最初なのね。それから何故かいつも伊藤君を探すようになっちゃって、その……だから……伊藤君のことが好きです。森川さんていう彼女がいることも知ってます。でも気持ちが抑えられなくて。お友達からでも良いので近くにいさせてくれませんか」

くぅ、こう来たか。彼女にしてくれって言ってくれれば断るのも簡単なんだけど……。でもここは心を鬼にしてお断りするしかないよな

「その、松村先輩の気持ちはとても嬉しいです」

「それじゃぁ」

ぱっと気体に満ちた顔をあげる松村先輩に

「でも、ごめんなさい。あなたの好意にこたえることは出来ません」

「う、お友達でもダメなの?」

「ごめんなさい」

涙をためた瞳で見つめてくる松村先輩にただ謝るしかなかった。




「ちゃんとお断りできた?」

どうやら真由美はオレの性格上こいうのを断ることの辛さは分かってくれているみたいだ。

「なんとかね。でも泣かれるのは辛いよ」

「放課後、一緒に行ってあげようか?」

「いや、せめて誠意だけは見せないと。笑いものにしたいわけじゃ無いからさ」

「笑いものにするなんて」

「分かってる。でもオレの隣に真由美がいる状態で断るってのは良くないと思う」





放課後の屋上に行くと、ちょっと背の高いショートヘアでボーイッシュな女の子がいた。髪を弄ったり、鏡を覗いたり落ち着かない感じで立っているその子に

「加藤さん、かな?」

声を掛けた。

「はい、伊藤君。きてくれてありがとう。」

「う、うん。まぁ呼ばれれば話くらいは聞きに来るよ」

「その、来てもらった理由は多分想像してくれてると思うけど。その……」

「うん、想像はしてる。でも違うかもしれないので想像で返事は出来ないよ」

「う、ぐ。そうだよね。」

そこで加藤さんは深呼吸をして

「伊藤景君。陸上部で走ってるの見て、ちょっと良いなって思ったの。それにKKシーズンのライブで歌うのみて一目ぼれして、ってあれ?一目ぼれって違う?」

とたんにパニックになる加藤さんに

「大丈夫。意味はわかるから。落ち着いて言いたいことを言って」

するとちょっとうつむき加減に

「それからずっと見てました。森川さんって彼女との事も知ってます。でもそれでも諦めきれない」

すっと顔を上げ、オレの目を見て告白をしてきた。

「あなたが好きです。伊藤くんの彼女にしてください」

でも、返事は変わらない、変えられない。

「ごめん。オレの事を好きだって言ってくれたのは嬉しい。でも、オレはやっぱり真由美が好きなんだ。真由美を裏切りたくない。だから加藤さんの気持ちを受け入れることは出来ない。ごめんなさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る