第142話

「はーい、みんな席について」

担任の国語教師佐々木菘(ささきすずな)先生の声にそれぞれ席につくI-Bのクラスメイト達。

「さて先日の体育祭はみんな頑張りましたね。先生感動しましたよ。一部公開告白とか告白集中とかで大変な人もいるようですが、それはまぁ自業自得として、おおむね平穏に終わってよかったです」

ここで弄ってくるか。なら

「まぁ先回の現代文のテストみたいに不適切な設問が設定されるよりは他人に迷惑掛けないから良いんじゃ無いですか?あんな不適切な問題出すから偏差値85とか出るんですよ。責任者は誰でしょうねぇ。SNSで拡散しちゃおうかなぁ」

国語教師、オレを敵に回すつもりなら覚悟をしてもらう。

「い、伊藤君それはちょっと」

「いやぁそれこそ自業自得でしょう。過去のテスト問題を見ても結構似たような不適切な問題があるようですから今回偶々というわけでもなさそうですしねぇ。それに公開告白はどう見ても体育祭運営委員会の借り物のお題に問題があったからでしょう。そういえば体育祭運営委員会の顧問は……」

「ごめんなさい、調子に乗りました。先生が悪かったです。伊藤君それ以上責めないでください」

「別にオレは責めてるつもりは無いですけどねぇ。単に事実を淡々と並べているだけで。それに責められるのはオレからじゃないみたいですよ」

件の問題のせいで大問をごっそり落とし補講行きとなった面々がゆらりと立ち上がった。それを見た佐々木先生は

「ひっ、ごめんなさい。あれは……」

「いつもならギリギリででも補講までは行かずに済んでいたのに、今回のテストの難易度にそんな裏があったんですか先生」

「あわわ、あ、あの。大問分は補正して点数を出しなおしますから」

そんなことを言い出すので

「で、そうするとオレの点数はどうなるんですかね」

あ、先生が固まった。あの問題分を補正するとオレを含めた一部の生徒の点数は100点を超えてしまう。それに思い至ったのだろう。さて、ここらで助け舟を出そうかな。

「補講を無しにでもするしか無いんじゃないですか、今回は不都合があったんですから。なに、オレの点数あたりも表向きは今のままで結構ですよ。実質的に今学期のテストの点数の合計点をその分だけ考慮してくれれば十分です」

がっくりと肩を落とした佐々木先生は

「今回のテストの補講は取り止めます」

と涙目で宣言し

「伊藤君、覚えて置いてくださいよ」

「先にご自分の失態で酷い目にあっている生徒を笑い物にしようとした事を覚えておけばいいんですよね。本来はご自分の失態はフォローすべきだと思いますけどね。これもSNSで拡散したら炎上案件でしょうねぇ」

あ、自分で言ってて黒いわぁ、久し振りに真っ黒になってますわ。ついでに先日の体育祭についての掲示板への投稿をスマホで表示して見せる。『振った相手を見世物にする借り物競争』今の所はそれほどの勢いはない。まぁオレや幸枝が楽しそうにしているからな。それでも先生には恐怖だったらしく

「ひっ、こんな投稿があるなんて」

「ここに、顧問教師がその本人を貶めた、なんて情報があったらどうなると思います?」

「おどすんですか」

「え?オレはやりませんよ。SNS自体ほとんど見ませんしね。でもね」

と周囲のクラスメイトを見回して見せる。

「級友思いのクラスメイトが義憤にかられればどうなるか……」

そこでクラスメイト達の目に理解の色が浮かんだ。これは1-B全体の武器なんだと。これで文化祭で担任の目を気にしなくて良いぞと。

「と、とにかく今日のLHRは文化祭について話し合ってください。せ、先生は職員室にいますので、何かあったら呼びに来るように」

逃げるように職員室に退避する佐々木先生を見送っていると、当然親友が苦言を

「ケイ。やりすぎ。体育祭のあれに腹を立てているのも、さっきの言いかたが気に入らなかったことも分かるけど」

「うん、オレも自分で思った。今日は何故か黒いわ。ちょっと気を付ける」

向こうでは文化祭へ向けての話合いがはじまっていて声を掛けられる

「おーい、そこの幼馴染3人組は文化祭のクラスの出し物どのくらい参加できそう?」

聞かれて、そういえばと

「オレと真由美は陸上部と軽音部両方で出るし、雄二も陸上部の方で当日いろいろ動くので手伝いくらいにさせてほしいんだけど」

「そっかぁ、わかった。まぁ部活でやる人は軽めにするしかないからなぁ」

そんなことがありながらクラスの出し物が決まった。なんと恋愛よろず相談だそうだ。ブースを作って相談員と相談者が顔を合わせずに話が出来るようにして1回10分100円だと。まぁ相談員を4人と受付2人の6人で回すそうなので文化祭を見て回るほうに重点を置いた出し物か。佐々木先生とあんなやり取りがあったからもっとはっちゃけた出し物にするかと思ったけれど、思いのほか落ち着いた出し物になった。と思っていたら

「伊藤君、真由美ちゃん。あなた達は時間のある時に2時間相談員でお願いね。雄二君は受付を2時間お願い」

どうやら部活をやっていても参加できる形にするのも目的のひとつだったみたいだ。


「恋愛相談って言われても、オレ相談に乗れるような経験値ないんだけどなぁ」

「あたしだってそうよ。なんで相談員なのかな」

と教室の後ろで困惑していると。

「おまえたち二人を外に出しておくとバカップルぶりで相談がばからしくなるからな。あと相談員やるかわりに事前準備は不参加でオーケーだ」

「なるほど、色々配慮いただいたようで」

真由美と顔を見合わせて苦笑い。

とりあえず文化祭はKKシーズンのステージで1曲、陸上部の音楽カフェで2~3曲とカフェ要員を半日。クラスで相談員を2時間。

「そこそこ見て回って楽しめる程度には時間ありそうだから、一緒に回ろうな」

「もちろん」

そして真由美にはあれであれしてもらおう……

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