第133話

日曜日、朝から部活で今は体育祭明けの県新人戦に向けての練習中。とはいえ地区予選を勝ち抜けたのはオレ達幼馴染3人組と京先輩の4人。そのため練習スケジュールもオレ達まかせのところがある。なにより他のメンバーの出席率の悪いこと。体育祭や文化祭へ向けての準備を名目にほぼ8割が欠席している。うん、言い方を変えよう。地区予選を勝ち抜いた4人とマネージャーの幸枝と桐原先輩の6人だけが出席という寂しい状況。トラックも機材も使い放題だけれど、いくらなんでも9時から12時までトレーニングしっぱなしというわけにはいかない。アップと基礎トレ、それにタイムトライアルで10時ちょい過ぎ。京先輩の

「少し休憩にしましょう」

の声に、トラック脇の芝生に向かう。まだまだ夏の余韻の暑さと身体を動かしたことで滴る汗をタオルでぬぐいながら、ふと顔を上げると『ダムダムダム』少し離れた体育館からバスケットボールのドリブルの音が響く。

「そういえば女子バスが今日練習試合だって言ってたな」

幸枝を見ると

「ええ、今日はどこって言ったかしら、ちょっと格上の学校との練習試合だって言ってましたね」」

「幸枝は応援にいかなくていいのか。友達が出るかもしれないんだろ」

「私は陸上部のマネージャーですから」

「京先輩」

幸恵が硬いことを言うので京先輩に声をかける

「加藤さん、今日は人数も少ないし今休憩時間だから行っておいで。今の話からするとその加藤さんの友達ってケイも知りあいかな?」

「まぁ知り合いってか、今週から幸枝つながりで昼ごはんを一緒し始めた子です」

「ケイと昼ごはん。うらやま、うぅん。ケイと一緒ってことは雄二も真由美も一緒かな」

「えぇ、もちろん、あたしと兄貴一緒ですよ」

「よーし、今から少しみんなで女子バス応援に行こう。純ちゃん、今から女子バスの応援に行くよ」

「え、京先輩。練習は」

戸惑う幸枝に

「まぁ京先輩は、こういう人だから。行こう」

定位置に真由美をぶら下げたまま、幸枝の手を引いて体育館に向かい6人揃って体育館に入ると第一クォーターの終了間際で12対8で先行されていた。

「序盤からきつい展開みたいだなぁ」

「そうですね、相手は格上だってミューも言ってました」

「さて、山本さんと神尾さんは出てるかな」

そこで真由美が見つけた

「あ、山本さん出てるよ」

「お、オフェンス。パス回しは結構スムーズ」

「うわ、相手の動きが鋭いね」

なんとかパスカットからボールを奪い返して山本さんにボールが渡った。あ、いいポジショニングだ

「山本さん、そこでシュートー」

あ、思わず声出ちゃった。やべぇな。こういうコーチングは……

でもそこから山本さんのミドルシュート

「ナイスシュート」

声を掛ける。チラッとこちらを見た山本さんがちょっと驚いた顔をしてチームメンバーに声をかけている。メンバーがチラチラとこちらを伺うように視線を向けてきた。第一ピリオド。なんと相手チームはインターバル中にチアがダンスで応援している。それより山本さんだ。女子バスチームにひと声かけに近寄っていく

「山本さん、ラストナイスシュートだったよ」

「あ、伊藤君、それに雄二さん、真由美さんまで、それにさっちも応援に来てくれたんだ」

「相手チームすげぇ派手だね。高校生の練習試合のインターバルでチアなんて。こっちは何かやるの?」

山本さんは首を横に振る。まぁ普通はそうだよね。そこで

「なぁ真由美、雄二。これってだいぶ萎縮してるよな」

「うん、実力もあっちが上なのかもだけど、こんな派手な演出されると」

「せめて実力どおりの試合させてあげたいよね」

「やる?」

「女子バスがオーケーしてくれたらだね」

「おっし、じゃぁ女子バスのキャプテンと話してくるわ」


「山本さん、キャプテンってどの人4番?ちょっと話したいんだけど」

「あ、伊藤君。キャプテンは、そうです。4番です。呼びますね。結城キャプテン、ちょっといいですか」

「山本さんなにかしら」

「あの、こちら友達の伊藤君なんですけど。少しお話をしたいって」

「伊藤君。あぁ色々目立ってる1年の子ね。で、なに、あまり時間ないのだけれど」

「突然すみません。相手チームがあんな派手なチアまで出してきて、みなさんがちょっと萎縮しているように見えたものですから」

「だから?」

「許可をいただければ、ハーフタイムにオレ達でちょっとしたパフォーマンスで応援をしたいと思いまして」

「顧問の先生の許可を取ってきます」

そういうと、少し離れたところにいる顧問の先生と話しに行き

「許可をもらってきました。お願いしますね」

そう言うと、時間切れとばかりにコートに入っていった。

許可が下りたなら、さっそく簡単な打ち合わせをしてハーフタイムに備える。

試合の方は、やはりというか当然と言うか萎縮しきったうちの女子バスチームは立て直すことも出来ず26対14の大差でハーフタイムを迎えた。相手チームは、やはり当然のようにチアダンスで応援をくりだしてきた。それでも5分で引き上げる。最悪途中から割り込むことも覚悟していたけれど、さすがに形だけとは言えハーフタイム半分以上使うのは控えたようだ。そこで、

「高国ファイ!!」

オレ達3人の声が響く

オレと雄二がコートに飛び出す。それと同時に最近のボイストレーニングで以前よりさらに鍛えられた真由美の歌声がが広い体育館の隅々まで響く。得意のアップテンポのポピュラーだ。真由美の歌に合わせパス回しを始めるオレと雄二、ディフェンスがいない状態なので高速パスを回しながらオレ達としての8割の速さでコートをはしりまわる。アイコンタクトの上で雄二がゴールにボールを遠投する。オレはゴール下に向かって全力で走る。ジャンプしボードに当たったボールをキャッチ、そのままダンクでリングに叩き込む。いわゆるアリウープってやつだ。雄二にボールを回しコートセンターにもどり再度高速パス回し、タメもなくスリーポイントを投げる雄二。ゴールしたで落ちて来たボールをキャッチしそのまま再度雄二にパスを回す。ゴールしたに走り込むオレに合わせて高めのパスを出す雄二。そのパスを空中で受け取りダブルクラッチからシュート。ゴールから落ちて来たボールを歌の終わりに合わせて真由美に遠投でパスする。ゴールしたでキャッチした真由美がそのままダンクを決める。雄二にパスが戻り3人で高速パス回しをしつつ反対のゴールに向かい、真由美がゴール下に飛び出しジャンプ。そこにタイミングを合わせパスを出す雄二。キャッチしたボールをそのままアリウープを決める真由美。そこからはオレはコート端によけ誰もが知っているロックを歌う。邪魔者のいない中存分に発揮される真由美の速さと派手なシュートパフォーマンス。ハーフタイム残り1分となったところでオレがセンターサークルに入る。真由美からパスが届く。パスを返しコート角に走り込み、飛んでくるパスを振り向きざま受け取りノータイムでゴール手前に高めにあげる。そこには雄二の手に足を掛け大きく飛び上がった真由美が待ちうけていてキャッチしたボールを盛大にゴールに叩きこんだ。落ちて来る真由美をオレと雄二のふたりで受け止める。一礼し

「高国ファイトー!!」

エールを送りコートから出る。入れ替わりにコートに気合の入った笑顔で飛び出してくる選手達。すれ違いざまにハイタッチを交わして行く。最後に出てきた結城先輩がハイタッチと一緒に

「ありがとう、みんなテンションあがった。頑張ってくるよ」

コートサイドで観戦していると神尾さんが近寄ってきた

「あの、すごいパフォーマンスでした。みんなよろこんでましたよ。でも、あれって?」

と聞いて来たところに京先輩がやってきて

「いやぁ久し振りに見たけどあいかわらずの切れだね」

??を頭に浮かべている神尾さんに

「あれは中学時代に作ったパフォーマンスなんだよ。当時は歌はなかったけどね」

とウィンクひとつ。

「それより応援しようか」

雄二の声が試合に意識を引き戻した。

第3クオーター、モチベーションの上がった高国チームは格上のはずの相手チームを圧倒して行く。逆転こそ出来なかったものの36対34のワンゴール差で第4クォーターに突入。さすがに相手も落ち着いてきたため、第3クォーターのようには行かず接戦となり結果は48対47。残念ながらわずか1点差で勝利を逃がしてしまった。選手達は

「くそぉ、あとワンゴールで勝てたのにぃ」

「あれを止められていれば」

うん、ちゃんと悔しがっている。と、そこに結城先輩が

「ありがとう、試合は負けたけど気おされなければ結構良い感じに闘えるって勝てるかもしれないって自信になったよ」

「お役に立てたならなによりです」

そこに神田さんと山本さんがやってきた。

「わーい、伊藤君、雄二さん、真由美ちゃーん」

あやうく抱き付かれそうなところをどうにかかわす。真由美が間に入って威嚇している。

「おう、惜しかったな。もうちょいで勝てただろ」

真由美を抱き寄せ、背中を撫でながら答える。

「それよりも、あのパフォーマンスは何?凄かったんだけど」

これには雄二が

「あぁあれは中学時代にちょっとあって作ったパフォーマンス」

「ふえぇ、3人の運動能力ってやばいねぇ」

そこに京先輩が声を掛けてきた

「試合も終わったし、練習にもどるよ。再来週は新人戦県大会だからね、頑張った女子バスに負けないように頑張るよ」

「「「はーい」」」

「じゃ、そういう事なんで、失礼します」

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