第21話

 午後、軽音部に顔を出した俺達に

「あ、ケイくーん。ミニライブではありがとうね」

「神無月先輩。あれはさすがにないでしょ。心臓止まるかと思いましたよ」

「あはは、ごめんねぇ。カラオケでのケイ君の歌のこと話したらみんなが聞かせろってきかなくてね」

「おかげでせっかくのデートで最後の曲聴かずに逃げ出すことになっちゃったんですよぉ。素敵だったから最後まで聴きたかったのに」

「真由美ちゃんもごめんねぇ。今度何かで埋め合わせするから許してね」

「にしても、先輩達すごいですね。演奏も歌もレベルが違うって感じで」

「まぁなんというか。たまたまね。こんな進学校にプロ目指してるメンバーが集まるなんて普通は考えられないじゃない」

「まぁそうですね。オレ達も陸上で頑張ってはいますが、いわゆるガチ勢ってわけじゃないですからね」

「ガチ勢じゃないのに受験明け直後の1年で地区入賞しちゃう君たちってのも大概だと思うけど……」

「いや、本当のガチ勢は半端じゃないですから。本当に人生掛けて来てますからね。オレ達じゃとてもとても。まぁうちの地区にはそういうガチ勢はタブンいませんけどね」

「まぁいいや。で、今日は練習していくでしょ。しばらくライブの予定とか無いし、よかったら教えるよ」

「「はい、お願いします」」




「まずは基本のコードから練習しようか」

「このまえ教えて貰ったC、Aマイナー……あれ?」

「出来るだけフレットギリギリを押さえるようにね」

「えと、こう……」

「薬指もちゃんと押さえて」

「指痛ぇ……」

「6弦引かない」

中々綺麗なコードを弾けない

「うぅ、難しい」

2時間程練習し

「もう限界……」

真由美が指先をさすっていた

「オレもこれ以上は……」

「あはは、ふたり一緒にねを上げるって息あってるねぇ」

「どのくらいで痛みを感じなくなるものですか」

「そうねぇ。あたしの場合だと2週間くらいだったかなぁ。ちょっと手見せて」

神無月先輩がオレの手を取り指先をさすってきた。

「神無月先輩もギター弾くんですね」

「え、そりゃ弾くよ。弾かないように見えた?」

「いえ、こないだのミニライブではずっとボーカルだったのでなんとなく」

「なるなる。ミニライブだったからね。まぁ軽音部でちゃんと活動してるメンバーはみんなギター弾けるよ」

この間も、手を離してくれない。あ、そろそろ真由美のご機嫌がやばい

「せ、先輩そろそろ手を離してくれませんか」

「あ、ごめんね。つい」

小悪魔の顔でにっこりしながら、少し手を離す。

「むぅ」

真由美がちょっとオコで抱きついて来て

「いくら先輩でもダメです。ケイはあたしの彼なんですからね」

こういうやきもち妬いたときの真由美もかわいいな

抱き寄せて頭を撫でる。

「やっぱり真由美かわいいな」

真由美はピクッと反応して顔を胸に付けてくる。耳まで真っ赤だ。

「ケイずるい。いつもあたしだけ恥ずかしい。たまにはケイも恥ずかしい思いをするべき」

「するべきって言ってもなぁ。真由美のは基本自爆……」

そこまで言ったところで、真由美がバッと顔を上げいきなりオレの頭に腕をまわした。

「お、おい何を」

言うまもなく、オレの頭を抱え込むように抱きしめてきた。

やわらかいものに顔がうまる。これって……

嬉しさと恥ずかしさで体温が上がる気がして逃げようとするが、真由美はさらにしっかりと抱きしめてきて逃げられず、しばらく真由美のされるがままになっていた。


少しして、そっとはなされたので真由美の顔を見ると真っ赤で

「おかしい、いつもケイに抱きしめられると、あたしが恥ずかしいのに。ケイを抱きしめたらケイが恥ずかしいはずなのに、あたしのほうが恥ずかし……」

どうやら暴走したものの自分が恥ずかしくなって離してくれたようだ。

まわりを見ると。あぁやっぱり。何か生暖かい目が……

「真由美。今日は帰ろう」

「う、うん」

「先輩。すみません。ちょっとこの状態なんで帰ります」

「うん、なだめて上げてね」

真由美の手を引いて部室から出て、周りにダレも居ないのを確認してから

「真由美」

真由美がビクっとする

「あのさ、なんというか、その嬉しかったよ。彼女に抱きしめられるのもいいものなんだね」

やわらかいものが気持ちよかったとかは言わない、言えない。

ふたりして顔を真っ赤にしながら帰った。

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