第145話

「初めての大会を思い出してみるといいよ」

京先輩のひとことに

「あの時は何もわからなかったです」

オレが呟くと

「僕も、あの時はとりあえず前の人についていっただけで」

雄二も頼りなさげな返事だ。

「あたしも、よくわからなくてスタータの音で必死に走っただけでした」

「まぁあなた達でも初めてだとそうなるわよね。でもそんな初めての時でさえあなた達は結果をだしてしまった。だからちょっとだけわからなくなっているのよ」

「え。わからなくなって?」

オレが聞くと

「そう、そんな初めてならうまく出来なくて当たり前だってことを」

「でも、オレ達はそれなりに経験を積んできたつもりなんですけど」

雄二も真由美も横で頷いている。

「ふふ、ステージが上がったのよ。あなた達のね。今回はわからないけど、来年のインターハイ予選は期待出来るわね」

京先輩の言葉に3人、いや幸枝も含めて4人が顔を見合わせる中、京先輩と桐原先輩は嬉しそうにしていた。

「とにかくあなた達は1年生なんだから成績なんか気にしないで思いっきり走ってきなさい」

 京先輩の謎の言葉に首を傾げていると

「あぁいたぁ。ケイくーん、まゆゆん、ゆーじ君、さっちゃんもー」

そこには満面の笑顔のレイさんと葉子さん、それに何故か神埼さんが一緒にいた、って真由美のこと今じゃまゆゆん呼びなのな。

「どうしたんです。こんなとこに」

驚きと共に聞くと

「どうしたじゃないですよ。なんで教えてくれないんですか」

レイさんの声にかぶせて

「そうです。なっちゃんが教えてくれなかったらせっかくの3人の勇姿を見逃すところです」

「あぁ、それはまぁ、なんというか、うっかり?」

「なんですか、そのうっかりってのはぁ」

「それよりなんでレイさん達と神崎さんが一緒にいるの?」

「それはね、レイさんと葉子さんがウロウロと不審者のようになっていて、怪しいなぁって見てたら、あなた達の話が聞こえてきたので私から声をかけたのよ」

「あぁそれで連れてきてくれたんだ。ありがとう。オレ達の友達なんだよ」

そんな話をしているといつの間にか浮ついていた気持ちが落ち着いてきた。

「ねぇケイ君。あなた達いつもそんななの?」

葉子さんの声に

「え、何が」

ふと気付いた。自然と真由美を抱き寄せて頭から背中を撫でていた。真由美もまるでネコのように目を細めて気持ち良さそうにしている。

「あぁ何と言いうか。浮ついていた気分を落ち着けようとしていたらいつのまにか?」

「こんなだから私って結構可哀想ですよね」

幸枝も平常運転で

「あ、あなたたちのグループってこんななのね」

幸枝に同情するような目を向ける神崎さん。それに対して幸枝は

「でもね、ここが今の私の場所。誰にも渡しません。それに別に居心地が悪いわけじゃないですから。むしろここが安心できる場所ですから」

あ、神崎さんを微妙に牽制したな。

 平常運転に戻ったオレ達を見て京先輩が

「うん、良い仲間が出来たね」

と穏やかに笑い掛けてきた。

 結果入賞はしたもののブロック大会への出場はならなかった。

「だいぶ落ち着いたつもりだったけど、コースに出たら上がっちゃったよ。この感覚久しぶりだ」

オレが肩を落とすと

「僕も、まさかあんなとこで嵌るとは思わなかった」

雄二も溜息をついた。

「あはは、あたしもフライング1回でビビッちゃってスタート遅れたからねぇ」

真由美は自虐的に笑った。

そして3人顔を見合わせて

「「「はぁ」」」

ためいきをつき。そのまま笑いあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る