第33話
「そんな大げさにしなくても……」
「ダメよ。肉離れを甘く見ちゃ。ちゃんと処置すれば1週間くらいで復帰できるんだから」
俺は今加藤さんにテーピングとアイシングをしてもらいながら休んでいる。
「それにしても加藤さんテーピングなんて出来たんだ。長い事アスリートやってても出来ない人も結構いるのに」
「陸上部のマネージャーになってから覚えたのよ。少しでも伊藤君の役にたちたいと思って」
「それはありがたいけど、そこまでしなくても」
そういうオレを加藤さんはジッと見て
「伊藤君。実は自分でも分かってるよね」
「え、何のこと?」
「とぼけるなら、それはそれで良いけど。とりあえず怪我が治るまでは無理しないでね」
「別にとぼけたわけじゃ。まぁいいや。とりあえずありがとう。なんにしても痛くて練習にならんから今日は休むわ」
「それがいいわね。肩貸してあげるし、なんならついでに触っても……」
「治療の流れでシレッとケイを誘惑しないで」
「あれ、真由美さん。練習はまだ終わってないですよね」
「どこかの泥棒猫がケイにちょっかいを出してきてるように見えたから、ケイを守りにきたの」
「ふーん。でも真由美さんて本当に伊藤君のこと見てる?とてもそうは見えなくて伊藤君可哀想よ」
「な、加藤さんにケイの何が分かるってのよ。あたしとケイの間には10年以上の積み重ねた歴史があるんですからね。ケイのことだったらなんだって知ってるんだから」
「お、おい。こんなとこでいきなり喧嘩始めるなよ」
グヌヌヌと睨み合うふたりの間に入る。
ふぅと息を吐いた加藤さんが
「じゃぁ、一通りの応急処置はしたので、ゆっくりなら歩けると思うので伊藤君は早めに病院に行ってね。真由美さんは伊藤君を送って行って。本当は真由美さんに頼むのは違うと思うしイヤだけど……」
「大した事無くてよかったね」
「あぁ、直後の処置を病院で褒められたよ。あれで大分違うそうだ。あまり関わりたくはないけど、今回だけは加藤さんに感謝だな」
そんな話をしながら歩いていると、何か考え込んだ真由美が
「ねぇ。ケイ」
「ん、なんだ?」
「加藤さんの言っていた。あたしがケイの事を見て無いって話」
「んん?あれは気にしなくて良いだろ」
「でも、何か加藤さんが気づいていて、あたしが分かってない事があるような言い方だったじゃない。何かくやしくて」
周りをちょっと見回してみると、夕方の住宅街に人影はなく
「真由美」
足を止めて声を掛け
「何?」
振り向いた真由美を強く抱きしめた。
「気にしなくて大丈夫だから。本当に気づかないといけないことなら真由美はちゃんと気づいてくれているから自信をもって」
真由美はちょっと驚いたあと、甘えた顔になり
「ケイ……ありがとう。だいスキ」
目を閉じた真由美の唇はとても柔らかかった
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