第32話

「楽譜って大き目の本屋じゃないとあまり置いてないのよねぇ。ほらこのあたりの棚ね」

神無月先輩に教えてもらいながら楽譜の棚を見る。

「へぇそうなんですね。あ、このあたりそれっぽい」

「それはピアノ譜よ。せめてコードの載ってる楽譜じゃないとギターでの練習にはつらいわね」

「あ、ケイこれじゃない?フォーチュンクエストの楽譜集」

「お。それっぽい。先輩これどうです?」

「あ、それ。良いのあったね」

「真由美お手柄」

軽く真由美の頭をヨシヨシとなでる。

真由美は目を細めて気持ちよさそうにしながら

「じゃぁこれからケイの家行こう」

え?

「いいからいいから。あ、先輩ありがとうございました。お疲れ様です」

いきなりのテンションで真由美がオレを引っ張って行く。

「おい、真由美ちょっと。あぁもう。先輩ありがとうございました。失礼します」




伊藤家

「ただいまぁ」

「お兄ちゃんおかえり。あ、今日はお姉さんも一緒なんだ」

出迎えてくれたのは妹の奈月。1学年下の中学3年生で、以前から真由美に懐いていたけれど真由美とオレが付き合いだしてからは特に真由美をお姉さんと呼んでべったりだ。

「なっちゃん、こんにちは。おじゃまするね」

「お姉さん、今日はあたしの部屋来て。夏服選ぶのに雑誌買ったから一緒に選んで欲しいの」

真由美の腕にぶら下がるようにつかまってオネダリだ。

「ごめんね、今日はケイのギターの練習を見にきたの」

「え~、そんなのいつだって見られるじゃん」

「ごめんね、今日はどうしても見たいの。あ、後で行くから、その時に話そ」

「う~、絶対だよ。必ず来てね」





「じゃぁとりあえず、ライトフライヤーね」

ワクワクした顔で真由美が楽譜を差し出してくる。

「え??まだ練習もして無い曲だよ」

「いいじゃん。とりあえずコード進行は分かるしメロディもリズムも分かるんだから弾けるとこまで弾いてみてよ」

「まぁどのみち練習するつもりだったからいいけどさ。初めてなんだから笑うなよ」

「うんうん」

真由美はニコニコしている。そんなに初心者の演奏が聞きたいのかな。

「えと、ふむ。C……G7……F……D……」

Fへの移行が難しいな。それでもとりあえず1通り通して

「ふぅ、大分失敗したな。ピアノならもう少しうまく弾けるんだけどなぁ」

「ね、ね、次は歌って欲しいな」

「歌う?」

「そうそう、ギター弾きながら歌って」

ハートをとばすような顔で真由美がリクエストしてきた。

「こんなに心を軽くする……♪」

ところどろこどうしてもつっかえるが歌って見た

「やっぱりケイはスゴイ」

真由美が抱き付いてきた。

どこが凄いんだろう。初心者の演奏でかなりグダグダだったんだけど……

それでも真由美を抱き返しながら頭をなでる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る