第74話

「ケイおっはよぉ」

ポスンとふとんの上からのしかかってくるのは幼馴染で恋人の真由美。相変わらず朝の弱い俺を起こしにきてくれている。それはとってもありがたいのだけれど、問題は最近の毎朝の起こし方。

「むぅ起きないのね」

ごそごそしゅるしゅる。はむ

「うわゎ、噛むな耳を噛むな、しかも抱きついているのに服の感触がないぞ」

「うふふ、ケイが起きないから、みゃうはむはう」

「起きる起きるから」

ふとんから出た俺は今度は目のやりばに困っている

「ふぅふぅ、起きるより襲ってくれたほうが嬉しいんだけどなぁ」

「バカなこと言ってないで服を着ろ」

どうやらあの合宿でのSJとのセッションで何かスイッチが入ってしまったらしく真由美はスキンシップのレベルを極端に上げてきている。というか既に発情状態になってしまっている。いや、真由美とのスキンシップは嬉しい嬉しいんだけれど。照れるんだよね。それに感情的には最後まで行きたい。奈月のあおりで準備だけはしてしまっている。でもまだ真由美を妊娠させる覚悟はない。いや気持ち的には添い遂げるつもりはあるんだけど。まだ子供は早いと思っている。そして妊娠させる覚悟ができるまではしちゃダメってのが俺の中にある。もし妊娠したら降ろせばいい、そんなふうに考えている人たちが多い事も知っている。でもダメだ。やっぱりこれは早いうちに真由美と話をしないといけないなと思いながら朝を過ごした。


合宿明けから数日、陸上部の練習は特に変わり無く午前中の集中トレーニング。終わったところで雄二と別行動。雄二は奈月と勉強デートだろう。奈月もうちの高校に来ると進路を変更した。まぁ同じ時期の真由美よりは成績良いし雄二もついているからタブン大丈夫だろう。

オレと真由美は中庭の木陰で弁当を食べている。

「しかし、合宿は思ったより濃い思い出になったなぁ」

「あはは、まさかあそこで空手と軽音両方の絡みで知り合いが広がるとは思わなかったよね」

「空手のほうは、レイさんと葉子さんって新しい友達が出来た反面、あの部とえらい確執ができちゃったけどな。まぁ真由美も幸枝も華桜に進学するってのは無さそうだから平気だろうけどさ」

「そういえば結局レイさんも葉子さんも空手部を退部したんだっけ」

「そう言ってたね。空手自体はどこかの実戦派の道場を探すって言ってたけど」

「あたしたちに弟子入りさせてくれって言ってきたときは驚いたよね」

「あれなぁ。オレ達は師匠って柄じゃないし、道場があるわけじゃないしって説得も大変だったな」

「で結局どこの道場に通うことにしたか聞いた?」

「まだ教えてくれないんだよなぁ。ただなぁ、できればあそこは避けて欲しいかなぁ」

「あぁあそこね。道場としてはすごく良いけど。あたしたちとしては凄く気まずくなることこのうえないものねぇ」

「さすがに大学か家の近所で探すだろうから、あそこを選ぶ可能性は低いと思うけどさ」

「思うけど、何?」

「今考えたんだけど、実戦派の道場って華桜女子大の近くにあったか?」

ふたり目を合わせて、ちょっと冷や汗が流れた。そこで話題をスライド

「それよりやばかったのはSJ。オレ達ってKKシーズンの先輩達の練習風景見てるから多少の免疫はあったと思ってたんだけどさ。個別の演奏とバンドとしての演奏の違いなのかね。あれはやばかった」

「そうね。あの演奏は神よね。で、あの人たちと並んでるのよね、うちの先輩達」

「それな、春のミニライブでは十分に堪能しきれなかったから、一度本当に内側からちゃんと見たいよなぁ。でもライブに参加とかは怖いけど」

「怖い?なんで?先輩達やさしいじゃん」

「そっちじゃねぇよ。忘れたのか。SJとのセッションでオレ達テンション天井知らずでどうなったか」

「あ」

とたんに耳まで真っ赤になって俯く真由美

「あのテンションをライブごとにやってたらやばいと思わないか」

「ヤバイデス」

思い出してカタコトになる真由美。うん可愛い。じゃなくて、

「な、だからライブ参加とか危ないから」

実際やばいのだ、あのあともらったディスクを何度か見直した。当然ふたりきりで。他に人がいたら見れない。無理です。

で、見直すだけでテンションが爆上がりして画面の前でふたりして大変なことになってしまった。

「でも、あのセッションは気持ちよかった」

「う、それは確かに」

「あの気持ちよさをもう一度体験できるなら多少のことが我慢できそうなくらい気持ちよかった」

「でもあれを大勢の人前でやれるのか?おれはちょっと怖い。てか凄く怖い」

「うぐぅ。それは、あたしも一緒なのよね」

はぁと二人揃って溜息をついて、残りの弁当を食べた。午後は軽音部の練習に参加予定なので時間までのんびりしていた。

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