第98話

入り口でのハプニングはあったものの結果として素敵なペアネックレスを着けてラブコメ映画を見るという中々に嬉しい展開にニマニマしてしまう。開演を待つ間も真由美はぺったりくっついて左を見れば目が合ってちょっと顔を寄せればキスできそうな距離感。日常のテンションに戻っても、あのデュオの余韻はこういうところに出てくる。正直照れるけど嬉しい。しかも今日の真由美は超絶美少女モード。周囲から怨嗟の視線が……あれ?嫉妬というかうらやましげな視線はあるけど、こういう時に良く感じる怨嗟の視線がほとんどないな。良く見ると納得してしまった。周囲がほとんどカップル。そりゃ真由美みたいな可愛い彼女連れてることを羨ましくは思っても。自分の好きな彼女さんが横に居ればそこまで気にしないか。と、ここまで考えて、この経験を休み明けにクラスで披露してやろうと悪魔の計画を思い付いてしまった。ふふふ、今から楽しみだ。

映画が始まった。スクリーンに映るストーリーはとても楽しかった。イチャイチャしながらも付きあっていないと言い張る高校生男女が力を合わせて色々なハプニングをその優れた身体能力とイチャラブで乗り越え絆を深くして行くアマアマかつカッコ良いアクションの楽しめる映画だった。映画が終わり。エンディングテーマをバックにスタッフロールが流れるなか、真由美を抱き寄せてしまった。ただでさえ距離の近かった真由美を抱き寄せれば『チュッ』当然にこうなり……ハッとして周囲を見回すと、ですよねぇ。オレ達だけではなかった。そりゃあの映画のあとカップルならアマアマでイチャイチャなピンク色空間になっちゃうよねぇ。むしろ男同士とかで来ていた客が居心地悪そうにしている。

映画館を出たオレ達は丁度良い時間だとモール内にあるハンバーガーのチェーン店に入った。注文したものを受け取り2階にある外向けになった席に並んで座る。

「楽しい映画だったなぁ」

「そうね、アクションとか付いていたからどうかなって思ったけど普通に楽しくてアマアマの映画だったね」

選んだ映画は真由美にもお好みだったようで良かった。それからは映画の感想を話し合った。

「あの付きあってないって言いながら、『だからと言ってお前に彼女は渡せない』とか言っちゃうシーン、もう完全に告白だよね。付き合う前にケイにあんなふうに言われたらあたしもうきっとそのまま抱き付いて離れ無くなっちゃっただろうなぁ」

「その前の、イケメンの男の子に『付きあってないって聞いてる。そんな優柔不断な男よりオレと付きあってよ』って言われて、それでも『あたしは好きな人と付き合いたい、あなたみたいなタイプとは話したくもない』って言いながら彼の方を見て目線で救いを求めるとか、あれも良かったなぁ」

「そうそう、あれって『あたしの好きなのはあなたなの。助けてよ』って意味だよね。ああいうのも憧れるかなぁ」

「くくく」

「何よ変な笑いかたして」

「同じ場面に真由美が遭遇したらって想像したらさ」

「想像したら?」

「まず氷点下の視線スキルが相手の心を砕いて。それでも無理やり連れて行こうととしたら、暴走車の激突より強烈な肘打ちで……」

あ、氷点下の視線スキルがオレに向かって発動した

「ケーイ、そんな目であたしを見てるの」

「いや、冗談だから。そもそもそんなやつは俺がガードして近寄らせないし」

言ったとたん、真由美が真っ赤になって

「ケイ、そういうとこよ」

「そういうってどういう?」

「もう、この天然の誑し。不意打ちはダメっていつも言ってるでしょうがぁ。心臓が持たない死んじゃいそう」

そう言いながらも幸せそうなやわらかい表情なので

「真由美可愛い」

頬にキスした。あ、テーブルに突っ伏した。

その後、復活した真由美を連れてアパレルショップに移動して服を選ぶ事にしたんだが

「ケイは細身でスタイル良いから、大体何着ても似合うとは思うけど。うん、色々見てみよう。あ、ケイ。これとこれ着てみて」

「次はこのジャケット羽織ってみて」

「トップスをこれに変えてみて」

延々3時間着せ替え人形になった。それでも真由美が納得した服がコーデで1式にトップスとボトムスを別にそれぞれ1枚づつ買えたから戦果としては上々だろう。ホクホク顔で支払いを済ませる。

店から出ると何やら聞こえてきた

「ケイが来てたらしい」

「あ、聞いたカップルで歌ったって?」

噂になっていた。ま、放置だ。真由美は気付いて……

「あれってあたしたちの噂よね」

顔を赤くしながら、そっと囁いてきた。気付いていたらしい

「名前は言わなかったのにな」

少し歩いて本屋に寄る。

「何か新刊出てないかな」

「ケイ相変らず本が気になるのね」

「あはは、どうしてもね。まこれは諦めて」

「良いけどね。あ、ならあたしにお勧めの本ない?」

「そうだな。どんな分野の本がいい?」

「感動系の恋愛ものかな」

「それなら、これなんか泣けるよ」

ちょと前に話題になって映画化の噂もある本を進める。

「んじゃ、それ買ってくる」

「あ、オレちょっとトイレ行ってくるから、そのへんで本見て待ってて」

言って離れると、トイレに行ってから別の店でちょっと買い物をして戻る。

すると、本屋なら平気だと思ったんだが……

真由美の前にチャラ男二人組み。

「ねぇいいじゃん、オレ達と遊んだほうが楽しいって」

「そうそう、行こうよ」

当然真由美の返事は、氷点下スキル

「彼と来てるのでお断りします」

はぁ、溜息ひとつついて。声を掛けようとしたら

「そんなのいいじゃん、一緒においでよ」

となれなれしく真由美の肩に手をかけようと手を伸ばしたので

「あんたら、人の彼女に何しようとしてんだ」

その腕を掴んで声を掛ける。ん?どっかで見た顔だな。

「ああぁん、チビが何かっこつけ……げ、風鬼」

それを聞いた瞬間、オレの中のスイッチが入った。真由美も表情が変わった

「すみません、すみません。あなたの彼女だとは知らず。あなたの彼女は鬼百合さんだとばかり」

オレはそいつを睨む

「こんなとこで物騒なふたつ名を連呼すんじゃねぇ。それにそいつがあれだぞ」

そうぉっと真由美をうかがうちゃら男A

「まさか、それじゃぁ」

「消えろ、このあたりを二度とうろつくな」

「「すみませんでしたぁ」」

土下座せんばかりの勢いで謝罪の言葉でハモリながら離れて行った。

真由美とオレは顔を見合わせ溜息をついた。

「まさか未だにあれが残っているとはなぁ」

3年前あいつらの拠点を探すときにかなり強引な事をした。その過程で空手道場でついたふたつ名が流れ、ああいったやつらからも風鬼と呼ばれるようになった。ここにも消し去りたい過去が残っていた。

「時間も時間だし、気を取りなおしてディナーとしゃれこもうか」

オレが声を掛けると、真由美も応えてくれた。

「そうね、嫌な事は忘れて楽しみましょ」

オレ達はモール近くのイタリアンの店に来ていた。比較的リーズナブルで高校生の小遣いでも少し遣り繰りすれば楽しめる人気の店だ。

定番のコースメニューを食べながら今日の映画の事、部活の事、そのほかなんでもないようなおしゃべりをして食事をすませた。

帰り道、いつもの公園に寄ってベンチで話をしている。夏なのでまだ空は茜色で明るい。その中でふと言葉を止めて真由美と目を合わせ、

「渡したい物がある」

「渡したい物?」

首を傾げる真由美。可愛いじゃねぇか。じゃなくて。ボディバッグから箱を二つ取り出し、重ねて渡す。

「これ?」

頷き。

「開けてみて」

真由美が最初に開けたのは少し大きめの箱。真由美がニッコリ笑う

「クッキーじゃん。ケイの手作り?」

「うん、昨日のうちに焼いておいたんだ。あとで食べてね。でもメインはもうひとつの箱」

不思議そうな顔で箱を開ける真由美。ちょっと驚いた顔で

「これ……」

「ステディリングって言うらしいな」

そう言ってオレは自分用の箱を見せる。

そこからは言葉は要らなかった。お互いに指輪をつけ口付けを交わしていた。

「くす、サイズぴったり」

「そりゃあれだけ言われりゃな」

お互いの左手の薬指に光るシンプルなシルバーのリングを見ながら肩を抱いてベンチでお互いを感じていた

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