第47話

「ただいまぁ」

「おじゃまします」

「あら、真由美ちゃんいらっしゃい。帰りによってくれるのは久し振りね」

「いつもは部活で遅いですからね。本当はもっと寄らせて貰いたいんですけど」

そんなところに飛び出してくるのは妹の奈月

「おねぇさ~ん」

真由美にだきついていく。

「なっちゃん、こんばんわ」

真由美は慈母のようなやさしい笑顔で迎え入れる。

「おねぇさん、もっと来てよ。おにぃと付き合ってるんだし。本当は毎日来てほしいくらいなのに」

「奈月無茶言うなよ。真由美だって色々忙しいんだぞ。毎日部活で結構遅くなるし」

「ふ~ん、公園であまーい空気でハート振り撒くのも部活?」

「「え??」」

「あの~奈月さん、何を言われているのでしょう?」

「公園のベンチで抱き合ってはあまーい空気のなかいちゃいちゃちゅっちゅしてるカップルがいるってのはご近所で噂話の無い日が無いくらい有名なのよ。たしかあの公園って小さい頃みんなで遊んだ公園じゃなかったかなぁ。小さい子供もいるから、あまり風紀の乱れる行為は遠慮してほしいのよねぇ」

「へ、へぇ、そんなカップルがいるんだ」

「まわりが見えてないんだろうけどね。いちゃつくなら家でして欲しいって思わない?ねぇおにぃ」

「そ、そうだな。でも、そのカップルも家だと家族に遠慮していちゃつけないんじゃないのか?」

なにか嫌な汗が背中を流れた気がする。

「え~?家族に遠慮しないといけないような仲ならちょっと問題じゃない?」

「そんなことはないぞ。ほら年下の兄弟とかにあまり刺激的すぎるのはよくないだろ」

「じゃぁうちなら大丈夫だよね。うちの一番下はあたしだからさ」

うわぁ、すっごい良い笑顔(真っ黒)で言い切りやがった。

「いや、年下へ影響だけじゃなくて、身内に聞かれたら恥ずかしい会話とか・・・」

「恥ずかしい会話って、どんなの?」

無邪気な笑顔(すっごい邪悪)で聞いてきやがる。

「そ、それは・・・」

真由美を見るとやっぱり困ったような顔で

「なっちゃん、こういうところで言えないから。恥ずかしいから」

とりあえず援護射撃をもらって

「そうだぞ、恋人同士の睦言なんか他の人に聞かせるものじゃないからな」

「ふーん、おにぃ達もそういうのするの?」

こいつ、いつぞやのオレ達の危ないとこを目撃したくせに。そこでふっと気づき

「おまえだって雄二と、そういう会話するんじゃないのか?」

一瞬、ドキっとしたような顔を見せた奈月がニヤリとして

「え~?だってあたしたちはフリしてるだけだもん。恋人のフリ。デートしてるフリ。だからそういうのは有るわけ無いじゃん」

こいつ、付き合ってるフリってのが本当は言い訳だってのは分かってんだからな。

「そうだったな。ふたりがそれぞれ本当に付き合いたい相手が出来たら解消する関係だったな」

「そうよ」

小さな胸を張ってドヤ顔でマウントとったつもりでいる奈月にちょっと意地悪してみることにした。

「それが再確認できたから、八代先輩には積極的に雄二にアタックするようにアドバイスするかな」

「え?何それ?」

「うん、軽音部の先輩でね。オレがギターの練習してるのを見に来た雄二と何度か話してたんだけど、気になり始めたって相談されてるんだよ」

ウソではない。実際に他にも何人かの女の子から雄二が気になっていると相談された。もっともほとんどがそれほど真剣に思えなかったのでやんわりとお断りしたのだ。その中で唯一真剣に思えたのが八代先輩で、いまのところどうにか宥めている状態だ。

「ダ、ダメだよ。雄二さんに女の子をなんて」

「え?でも本当の彼女ができたら関係を終わらせるって約束だろ」

しれっと言ってやると。泣きそうな顔で

「そんなの、そんなの・・・・」

「ケイ、それは言っちゃダメ」

真由美が慌てて止めてきた。

「冗談だよ。奈月、本当は雄二の事を好きなんだろ」

奈月がハッとした顔でオレをみてくる。

「な、なんで・・・」

「何年兄妹してると思ってる。元々はオレにくっついて来てただけだったオマエが、いつからか雄二を目で追うようになってたのを気づかないとでも思ったか。付き合っているフリするのだって、なんで雄二を相手にさせたと思ってる?本当は同級生のコウ君あたりの方が効果はあったはずなんだぜ。コウ君なら協力してくれるだろうってのは分かるだろ」

コウ君というのは、奈月の同級生で幼馴染の男の子。小学生の頃はオレとも真由美や雄二とも一緒に遊んだ仲だ。

「そ、それは雄二さんも告白避けの相手になって都合がよかったからでしょ」

「雄二に告白避けなんていらないんだぜ」

「それだったら何で」

「これ以上オレに言わせるのか?ここから先は自分で考えろよ」

やさしく奈月の頭を撫でて

「じゃ、オレ達は部屋に行くからな。行こう真由美」

やさしい顔になった真由美の手を引いて部屋に移動した。



「ケイって、やっぱりおにぃちゃんなんだね」

「何を当たり前の事を言ってんの?」

「ふふふ、なっちゃんには優しいおにいちゃん。でもあたしには?」

ベッドにすわったオレに真由美が横から身体を預けてきた。

「奈月は大事な妹。真由美は大事で大好きな彼女だよ」

真由美の身体を抱き寄せ頬にキスを落とした。

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