第80話

弁当を食べ終わり、軽音部の部室へむかう。あいかわらず真由美はオレの左腕にぶら下がるように抱き付いている。時々目を合わせてはニコっと笑う。3年前ならふたりともこんな落ち着いた幸せな日常を想像も出来なかっただろうな。なんて余計な事を考えながら・・・


「「こんにちわ~」」

部室に入り二人そろって声を掛ける

「おぉケイ、真由美ちゃんもいつもどおり一緒だな」

「内木戸先輩、毎日来てませんか?受験勉強大丈夫なんですか?」

この人本当に大丈夫なんだろうか?噂では学内順位10~20位くらいに常にいるらしいけど

「おぉ大丈夫大丈夫、オレは家も近いし気分転換の散歩がてらちょっと寄ってるだけだからな」

まぁ成績上位者らしいので色々言うのも野暮だし良いか。

「それよりもケイ、真由美ちゃん。SJとコラボしたんだって?」

「あぁまぁその、陸上部の合宿で知り合って成り行きでみたいな?」

クククと笑って内木戸先輩が続けた

「KKシーズンのメンバーの悔しがってた顔が目に浮かぶな」

「そんなにですか?」

「ケイは自分の声をキチンと聞いた事あまりないだろう?」

「え?こうやって話してるときだって聞いてますし、聞きなれてますよ」

「ふふ、やっぱりそういう認識なんだね」

「そういうって?」

「うん、そうだな。今度時間がある時にカラオケに行こう」

「は?なんでいきなりカラオケ?」

「良いから良いから。そうだなKKシーズンのメンバーも誘って、真由美ちゃんも一緒にどうだい」

「まぁカラオケくらい良いですけど、なぁ真由美・・・」

「え、ええ、カラオケ自体は好きですし、KKシーズンのかたの歌が聴けるとなれば役得ですし」

「よし決まった。じゃぁ日程は2~3日中に美穂に連絡するから」

神無月先輩となにやら相談している。

「じゃぁ僕は今日はこれで帰るよ。練習がんばって」

内木戸先輩が帰り、神無月先輩だけがこちらに来た。

「「神無月先輩こんにちわ」」

「おふたりさんこんにちわ、いつもラブラブで熱いわね」

言いながらニッコリ笑う。そこでレイさんと葉子さんの見学の件を連絡する。

「そう、いいわよ。二人のお友達なら大丈夫でしょ」

二人の見学の許可が出たので練習の準備を始める。

ギターのチューニングをしているところでスマホが『ピロロン』と鳴った。


Ray♪:もう少しで着きます

kei:了解。朝の場所に迎えにいきますね

「真由美、レイさんからメッセ入った。もう少しで着くって。俺は迎えに行くけど、一緒に行くか?」

「もちろん」

「神無月先輩、友達がそろそろ学校に着くらしいので迎えに行ってきます」

「はいはい、いてらぁ」


いつも通り真由美を左腕にぶら下げてふたりを迎えに向かう。

駐車場には笑顔で手を振る二人がいて、なんか野郎が遠巻きにしてんな

「おまたせ、部長の許可とりましたから部室に案内します」

一応外部の来客なので玄関から案内する。

「高校卒業してから初めて高校の校舎に入ったけど、現役時代は他校でも別に気にならなかったのになぁ。すっごい緊張する」

葉子さんの緊張具合が微笑ましくて笑っていたら

「むぅケイ君だって卒業してから他校の校舎に入ったら分かるよきっと」

頬を膨らました葉子さんはなんだか年下みたいで可愛いな

あ、左側から殺気が、

「ケイ、葉子さんに色目使ってない?」

オレの彼女はマジでエスパーかな?

「友達に色目なんか使うわけないだろ」

あぶねぇ。とりあえず、抱き寄せてスリスリ。あぁやっぱり真由美は可愛いな癒される。そうしていると真由美もご機嫌になってニコニコしている。

「真由美かわいいなぁ」

突然真由美がボフンと音がしそうな勢いで真っ赤になった。

「ケイ、不意打ちはダメ。心臓が死ぬ」

声に出てたか

「ごめん、つい。真由美があまりに可愛いもので声に出ちゃった」

「うぅ、そこに追撃・・我慢が、でもここは学校・・・うぅぅぅ」

何か悶え始めたな。大丈夫かな?

「あはは、相変らず真由美ちゃんケイ君に対して防御力低いねぇ」

「レイさん、だって合宿でのミニライブからこっちケイがなんか凄くかっこよくて・・・無理、我慢できない・・はむはむはむ」

抱き着いて首元に吸い付いてきやがった。

「お、おい。真由美大丈夫か。正気たもっているか?」

なんかわからんが状態異常:発情かよって感じだな。とりあえず目立つので真由美を抱えて(お姫様抱っこ)で移動する。部室に着いた頃にはどうにか落ち着いてくれたのでちょっと安心して降ろして、二人を神無月先輩に紹介する。


「へぇじゃぁお二人はケイと真由美のSJとのコラボライブを生で見られたのですね」

げ、そうだった。あの時この二人は帰宅交通機関が自家用車という大学生の特権を使って帰る時間を遅らせてまで見ていったのだった。

「えぇ、カップルデュオとしての二人も素敵でしたし、SJとのコラボのファンタジーレインボーですか?に至ってはもう言葉もなかったですね」

冷や汗をかきながらオレと真由美が必死になって二人の気を引く

「レイさん、葉子さん、その、そのライブの細部のお話は内緒でお願いします」

ハッしたように気づいたレイさんが珍しく悪い笑顔になった

「えぇどうしてぇ?すっごく素敵なカップルだったのに」

く、ピンポイント攻撃だな。明らかに理解している・・・

「そ、そんなこと言うと、今日はKKシーズンとの練習の予定が入っているけど見せませんよ」

でもKKシーズンとのコラボも真由美とカップルデュオになっていて少々危険を感じているんだよな。

「冗談ですよ、あれを暴露するなんてもったいない」

ほっ、とりあえず即死宣告は免れた。

「とりあえず、基礎練習から・・・」

オレも真由美も、ギターを抱えて基本コード練習を30分ほど。そのあいだもレイさんも葉子さんも楽しそうに眺めていた。

楽譜を取り出して曲練習に入ると二人はグッと近い位置に来て聞いている。ちょっと照れくさいが頑張って弾いていると。

「ねぇケイ君と真由美ちゃんって同じ曲を弾いたりしないの?」

「あぁそれですねぇ。オレ達まだそれぞれの好きな曲を好き勝手に弾いている段階なので、合わせる事が出来る段階に来てないんですよ。そのうち一緒に弾きたいと思ってはいるんですけどね。なので今はどちらかがギター弾いて、一緒に歌うまでですね。これはこれで楽しいです」

「ふぅん、ねぇ、合宿の時に二人で歌ってたの聞かせてくれないかなぁ」

「あ、えぇと、どうしよう」

部室では他の部員も練習している。場を占有してしまうような演奏はちょっとなぁなんて考えていると、神無月先輩が

「あ、それ聞かせてよ。今のふたりの状態知りたい」

と言って、そのままデュオとして4曲演奏することに・・・


真由美と目を合わせ、ギターを鳴らしハーモニーを奏でる。合宿時より真由美との親近感が上がっている感じがする。どんどんお互いが引きこまれる。4曲を歌い上げ最後のフレーズをギターがフェードアウトする

テンションがやばい、真由美を抱き締めないとガマンできない。抱き締めあい、テンションが落ち着くのを待つ。真由美は蕩けそうな笑顔でしがみついてきている。

どのくらい抱き合っていただろうか、テンションが落ち着いて周りを見ると

あぁやっちまった感が・・・

「すごいねぇ、ものすごいラブストーリーを見せられた気分だよ」

神無月先輩の言葉に周囲が深く頷く

「なんにしても二人のレベルが凄い事になっているのは分かった。ただ残念なのはギターの技術がそこまでついていってないとこだけど、二人の経験からしたらそこは仕方ないし、バックでカバーできる。うん今度のステージは凄いものにできそうだ」

そのあと、KKシーズンと合わせる練習をしばらくして今日の軽音部の練習を終わった。

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