第5話

 放課後のグランドでアップを済ませた陸上部の面々はそれぞれの専門種目別に別れて練習を始めていた。

「京先輩、練習のメニューはどうなってるんですか」

「ケイか。しばらくはタイムトライアルのあと中長距離はインターバル走、短距離はスタートや20mダッシュあたり中心よ」

「え?……」

「4月末が地区予選だから、それに向けて。うちは強豪高じゃないからとりあえず地区予選に全力な感じ」

『あぁなるほど、このあたりがいわゆる進学校だなぁ』

「んじゃ1年はサポート部隊っすね」

「基本はそうだけど、ケイと森川兄妹はメニューに混ざりなよ」

俺達は中学時代に一応の結果を残しているのでそっちなのかな……

「エントリーしてあるからな」

爆弾投下

「「「小谷野先生か……」」」

おもわず3人がハモってしまった。

「小谷野先生なら大会前日にボソっと『明日競技場集合な』でしょうが。まだ大会まで1週間あるんだから頑張って」

「うぅぅ……1年からエントリーとか普通じゃないと思うんですが」

真由美が呻くように口にすると

「大丈夫、大丈夫。女子200、男子800、男子5000それぞれあまってる枠があったから入れただけで、他のレギュラーの枠奪ったわけでもないから」

「そういう事じゃなくてですね。エントリーの締め切りいつだったんですか」

ここで京先輩が目をそらした。これはやっちゃったやつだ

「せんぱーい。俺達正式入部21日でしたよねぇ。エントリーはいつだったんですかぁ」

「いいじゃないか、あまった枠にエントリーしただけなんだし、1年だから順位とか気にせずに出れるでしょ。それより、練習始めるよ。純ちゃん時計お願いね」

京先輩はマネージャーの桐原純子先輩にタイム計測を頼みながら離れていった




タイムトライアル、ジョグ、インターバル走と一通りの練習を終えダウンをしていると桐原先輩がそばに来て

「3人とも1年とは思えないくらい速いねぇ。さすが京ちゃんが正式入部前に無理やりエントリーしちゃうだけあるわぁ」

「あぁやっぱり、フライングエントリーでしたか」

3人揃って苦笑するしかなかった。

「そうよぉ、あなた達が体験で来たその日にエントリーしちゃうくらいにねぇ」

思っていた以上に大きな爆弾だった

「あの日あなた達が帰ったあと凄かったのよぉ。普段物静かでおとなしいあの子が、もうね。ケイが来てくれた。雄二が来てくれた。真由美も来てくれた。って大はしゃぎでね。それだけに景君が軽音部を見に行ったって知ったときの落ち込みようは酷かったんだから。正式入部してくれてよかったよぉ」

俺達3人は顔を見合わせて

「京先輩がもの静か?おとなしい?」

大声で気合を入れる京先輩。練習でも先頭で引っ張って行く京先輩。落ち込んでいるときに後ろから背中を張り手でどついて励ましてくれる京先輩。仲間うちで通ったカラオケで先頭切って明るいラブソングを歌う京先輩。ちょっとオタクな話にも大笑いしながら乗ってくる京先輩。俺達が知っている京先輩は明るく・朗らかでちょっとがさつで、でも仲間思いの先輩だった。

高校の1年間で何があったのかそれとも……

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