第106話
観覧車から降りたオレ達はブラブラと園内を散策している。このあとパレードがあるのを真由美がポスターで見つけて見て行こうということになったからなんだけれど。
真由美はいつも通りの定位置の左腕にぶら下がるように抱きついている。問題は右腕にほわんほわんな顔でぶら下がっている奈月。観覧車に乗っている間に何かがあったのが丸分かりな変化。オレは拒むことが出来なかった。実の妹とキスを……しかも……なのを。しかも抱きしめてしまった。愛おしくてたまらなくなったのだ。そして一番問題なのは、おれがそれに対して嫌悪感を抱いていない事。たしかに奈月に対して男女の恋愛感情は無い。なのにあんなキスをしてしまいながら嫌悪感も無いし、落ち込みもしない。そして左を見れば真由美がいて真由美には確かに恋愛感情を感じる。
「ほら、今から1分くらいは他の乗客からは見えないよ。キスしてみなさい。ケイも逃げない。なっちゃんのためなんだから」
「おねぇさんがくれた1分だけ私のわがままを聞いて」
奈月がオレの顔に顔を寄せてきた、オレは身体が動かない何をしたら良いのかも分からず、そのまま受け入れてしまった。奈月の細やかな息遣いを感じ、柔らかな唇を感じ、そのまま口付けを受け入れ、あろうことか奈月をそのまま抱き寄せた。奈月の細い腕がオレの背に回り抱き締めてくる。求められるままに舌を絡ませ深い口付けを交わしてしまった。それは長かったのか短かったのか判然としないままに自然と身体を離し気付いたときには他のゴンドラから見える位置に移動していた。
そのあと奈月の吹っ切れたような幸せそうなほわんほわんした笑顔にこれで良かったのかと、せめて奈月の心がバランスを一時的にでも取り戻してくれたなら。そんな風に思うだけだった。
「ケイ、ケイ」
真由美の声にハッと気付き
「おう、悪い、ちょっと考え事をしてた。何かあったか?」
口を耳に寄せ、他に聞こえない小声で
「もう。上の空なんだから。そんなになっちゃんとのキスがよかった?」
「な、そっちじゃねぇよ」
隣に奈月がいる状態で、『奈月とのキスに何も感じなかった』とは言えず。
「まぁ後で話すよ」
とだけ言った。
「ふうん、後で話してくれるなら良いけどさ。そろそろパレード始まるよ。みんな場所取りしてくれてるから行こう」
見ると物思いに耽っている間に皆と少し離れてしまったようだ。皆のところに落ち着いて。ふと思い出したのがバッグに入れておいたクッキー。人数分に小分けした袋を
バッグから取り出し
「昼間は、うっかり忘れてた。そろそろ始まるって言っても少しは時間あるみたいだから」
そういってそれぞれに渡す。
「にぃのクッキー」
奈月が飛びつき
「わーい、ケイのクッキー」
真由美が瞳を輝かせ
「「ありがとうございます」」
レイさんと葉子さんが頬を緩ませ。
「サンキュー。ケイのクッキーはうまいからな」
雄二がうまそうにクッキーを頬張り
「ふふ、いただきます。いつ出してもらえるのかと待ちわびていたんですよ」
幸枝が嬉しいことばにしてくれた。
ほどなく電飾に彩られた移動舞台にキャラクターが乗り、手を振り踊る。そんなパレードが始まった。クッキーを齧りながらパレードを楽しむ。左に愛する恋人真由美。右に大切な妹奈月。そこでふっと気付き。
「奈月、そろそろ雄二の横に行かなくていいのか」
そっと囁くと。
「うん、ありがとう。元気でたから行くね」
そう言って奈月は雄二の腕に飛びついていった。
それぞれがそれぞれの想いを胸にパレードを見ているんだろう。そう思い。パレードも終盤に
「さっきさ、オレ上の空だっただろ」
真由美に話す
「うん、どうしたのかなってちょっと心配したのよ」
「悪かった。あのときさ。何でかなって考えてたんだよ。奈月とキスしてもオレは何も感じなかったんだ。いや、身内への愛情として奈月を愛おしいって気持ちはあったけど、それ以外にさ。奈月とキスすることに嫌悪感とか後ろめたさとかさ、そういうのが全然無くてさ。オレって何か異常なんじゃ無いかって……」
「ふふ、そんな事考えてたんだ。ケイとなっちゃんが一緒に乗り越えてきた悲しみや辛さ寂しさ、そんなことを考えれば、普通の兄妹と違っちゃうのはしかたないよ。多分あたしもケイが居なかったらひょっとしたら兄貴とそんなふうになっていたかもって……」
ハッと見ると、真由美は優しく包み込むような微笑をオレに向けてくれていた。
「だからケイ。なっちゃんをちゃんと見てあげて。今のなっちゃんはひょっとしたらそうなっていたかもしれない、もうひとりのあたしだから」
その言葉にオレはそっと頷くことしか出来なかった。
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